感染対策のため、就業規則で「会食禁止」を明記する方法とは?
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東京都の調査によると、令和3年6月22日時点の新型コロナウイルスの陽性者数(累計)は16万9756人となっています。1日あたりの新規感染者数も依然として高い水準にありますので、感染症対策を施したうえで、気を付けて行動をする必要があります。
従業員を雇用している経営者や事業主としては、従業員が新型コロナウイルスに感染してしまうと、他の従業員も濃厚接触者と判断されてしまい、場合によっては業務がストップしてしまうリスクがあります。そのため、できる限り新型コロナウイルスへの感染リスクを下げるために、会食禁止などの措置をとりたいと考えることもあるでしょう。
就業時間外は従業員のプライベートな時間といえます。そこで、会社の就業規則などによって従業員のプライベートを制約することはできるのでしょうか。
今回は、新型コロナウイルスによる感染対策のために就業規則で「会食禁止」を明記する方法について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、新型コロナウイルスの感染対策のための「会食禁止」
新型コロナウイルスの感染対策のために、従業員に対して会食禁止を求めている企業も少なくないでしょう。企業が会食禁止を求める背景には、以下のような事情があります。
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(1)クラスターの発生による業務への支障
従業員のひとりが新型コロナウイルスの陽性者と判断された場合には、当該従業員を出勤停止にするだけでなく、当該従業員と濃厚接触のあったと思われる従業員に対して、PCR検査を行い、陽性と判断された場合には、濃厚接触者の社員も出勤停止にすることが望ましいです。
一般的なオフィスでは、個室ではなく大部屋で従業員が仕事をしていますので、従業員のひとりが新型コロナウイルスに感染してしまった場合には、最悪のケースでは、当該部署の全員が濃厚接触者として陽性の判定を受ける可能性があります。このような大規模なクラスターが発生してしまった場合には、数週間業務をストップしなければならなくなり、経営上大きな損失が生じることがあります。 -
(2)企業の社会的信用性の低下につながる
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、多くの方が外出自粛などの行動規制を受けています。そのような状況下で、従業員が会食によって新型コロナウイルスに感染したということが明らかになった場合には、社会からの批判は避けられないといえます。
また、新型コロナウイルスに感染した従業員が取引先に出入りしていた場合には、取引先に対しても損害を与える可能性があります。業務上やむを得ない状況で感染したのであれば、取引先の納得も得やすいですが、従業員のプライベートの飲み会などが感染原因であることがわかれば、労務管理の不適切さを指摘され、最悪のケースでは取引を打ち切られてしまうこともあります。
2、会社内での会食を禁止するための就業規則
新型コロナウイルスの感染対策として会社内での会食を禁止することはできるのでしょうか。
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(1)社内や就業時間中の会食の制限は可能
会社は、企業秩序の維持に必要となる事項を就業規則に規定して、従業員に対して指示・命令をすることができます。これは、労働契約の締結により使用者と労働者との間に発生する当然の権利義務であると考えられています。
会食は、たくさんの人が集まり、会話などによってウイルスが飛散するリスクが高いものといえます。政府が推奨する新型コロナウイルス感染症対策としては、会食時には、短時間で、大声を出さずに、少人数での食事が好ましいとされていることからしても、会食を禁止するということには合理的な根拠があります。
また、就業時間中は、使用者の指揮命令下にありますので、就業時間中や社内での会食を禁止することは、特に問題とはなりません。
したがって、就業規則によって社内や就業時間中の会食の制限を規定することによって、従業員に社内や就業時間中の会食を制限することは可能です。 -
(2)会食禁止に違反した場合の対処
就業規則を改訂して、社内や就業時間中の会食を制限し、従業員に周知したにもかかわらず、それに違反して会食が行われた場合には、どのように対処すればよいのでしょうか。
会食禁止が懲戒事由に該当する場合には、会食禁止に違反したことを理由に懲戒処分をすることも可能となりますが、直ちに懲戒処分に及ぶというのは適当ではないでしょう。
まずは、会食禁止の趣旨を丁寧に説明して、今後の再発防止に努めてもらうことが重要です。それでも会食を続けているという場合には、懲戒処分を検討することになります。
3、社員のプライベートの飲み会は禁止できる?
大人数で長時間食事をすることは、新型コロナウイルスへの感染リスクを高める行動ですので、企業としては、社員のプライベートの飲み会についても禁止したいと考えるところです。
企業が社員のプライベートについて規制することは可能なのでしょうか。
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(1)原則として法的拘束力はない
就業時間中、労働者は、使用者の指揮命令に従って働く義務がありますので、業務命令の一環として、社内や就業時間中の会食を制限することができます。しかし、就業時間外は、労働者のプライベートの時間となりますので、会社が労働者のプライベートでの行動を制約するということは原則としてできません。
しかし、労働者は、信義則上、使用者の業務利益や信用・名誉を毀損しない義務(誠実義務)を負いますので、プライベートの行動が企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有する場合には、例外的に制約することが可能になります。
ただし、就業時間外の会食は、本来であれば自由に行うことができるものであり、犯罪行為にあたるようなものでもありません。そのため、就業時間外の会食を一律禁止して違反した場合に懲戒処分などの制裁を与えるということは難しいといえるでしょう。 -
(2)「お願い」や「要請」にとどめるべき
就業時間外の会食の禁止について強制力がないとはいっても、会社が労働者に対して会食禁止のお願いや会食禁止の要請をすること自体は問題ありません。
万が一、労働者が就業時間外の会食によって新型コロナウイルスに感染してしまったとしたら、会社の社会的信用が著しく毀損されるおそれがあります。また、新型コロナウイルスに感染してしまうと、労働者自身やその家族の健康にも著しい影響が生じることになります。
そのため、会食禁止をする趣旨を明確に伝えて、労働者の理解を得ることができれば、単なるお願いや要請であっても十分な効果が期待できるといえるでしょう。
4、企業のコロナ対策は弁護士に相談
企業においては新型コロナウイルスの感染拡大を受けてさまざまな対応を迫られています。具体的にどのような感染防止対策を講じればよいかについては、各企業の実情に応じて異なってきますので、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)適切なコロナ対策についてアドバイスが可能
新型コロナウイルスの感染拡大防止対策としては、マスクの着用や会食の禁止が有効な手段となります。また、会社の業務によっては、リモートワークを導入することによって、新型コロナウイルスへの感染リスクを軽減することが可能です。
しかし、これらの制度や要請を新たに設ける場合には、会社の就業規則の変更をしなければならないことがあります。リモートワークでは、労働時間の把握や経費の負担などの制度設計を考えていかなければならず、初めて導入するという企業では、どのように進めていけばよいのかわからないということもあります。
そのような場合には、弁護士に相談をすることによって、企業の事情に応じた適切な対策についてアドバイスしてもらうことができるでしょう。 -
(2)新型コロナウイルスの感染者が出た場合の対応も可能
十分な感染症対策を講じていたとしても、従業員が新型コロナウイルスに感染してしまうこともあります。そのような場合には、適切な対応をとることができるかどうかによって、その後の被害の拡大を防ぐことができるか、左右されるでしょう。
企業が行うべき対応としては、新型コロナウイルスに感染した従業員への対応、濃厚接触者の特定、接触場所の消毒、取引先への報告などが挙げられます。それらを迅速に行うためには、あらかじめ新型コロナウイルスに感染した場合のマニュアルを整備したり、担当者を決めておくなどの対策が必要です。
このような有事の対応に適切に対応するためには、顧問弁護士を利用することが有効な手段となります。有事の単発の相談だと、企業の実情を把握するだけで相当の時間を要することになってしまうため、迅速な対応が難しくなります。顧問弁護士であれば、普段から当該企業の相談を受け付け、企業内部の実情を把握していますので、有事の際には、迅速に対応することが可能です。
5、まとめ
企業が従業員のプライベートに干渉することは難しいですが、感染症対策という合理的な根拠がありますので、業務命令という形ではなく、従業員に対して十分に説明して、その理解を得たうえで自粛してもらうということがよいでしょう。
新型コロナウイルスを取り巻く状況は、日々変化していますので、企業には、常に最新の情報に基づく対応が求められています。各企業の実情に応じた対策を講じるためには、企業法務に関する経験豊富な弁護士による対応が不可欠です。
コロナ禍の企業法務についてお悩みの経営者の方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています