不倫相手が同性だった! 相手に慰謝料を請求できる可能性はある?
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令和3年2月16日、東京地方裁判所は、夫が妻と不倫をした女性に対して慰謝料などの支払いを求めた訴訟で、同性同士の不倫であっても不貞行為にあたるとして女性に対し慰謝料など11万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
従来は、不貞行為とは異性との間で肉体関係を持つことだと考えられていたことから、同性と不倫をしたとしても不貞行為にはあたらないとの見解が有力でした。近年、性の多様化への理解が進んできたこともあり、上記事件のように、同性同士の不倫も問題になる可能性があります。
今回は、不倫相手が同性だった場合の慰謝料請求の可能性について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、配偶者の不倫相手に慰謝料を請求できるケース
同性不倫に関する説明をする前提として、まずは、一般的な不倫に関して慰謝料を請求することができるケースについて説明します。
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(1)不貞行為とは
不貞行為とは一般的に、「配偶者のいる者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶ」ことをいいます(最判昭和48年11月15日判決参照)。不貞行為のことを「不倫」などと表現することもありますが、両者は同じような意味であるとイメージしてよいでしょう
不貞行為は、民法上に離婚事由として挙げられています(民法770条1項1号)。そのため、一方の配偶者が不貞行為をしたと認められる場合、裁判上の離婚が認められることはもちろん、調停手続や交渉段階においても、離婚の原因があると主張していくことができます。
また、不貞行為をした場合には、他方の配偶者が有している婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害することになります。
そのため、不貞行為をした配偶者は、他方配偶者に対して慰謝料の支払い義務を負うことになります。そして、配偶者と不貞関係にあった人も不貞行為をした配偶者と同様に慰謝料の支払い義務を負います。 -
(2)不倫相手に慰謝料を請求することができるケース
不貞行為があったからといってすべてのケースで慰謝料を請求することができるわけではありません。不倫相手に対して慰謝料を請求するには、以下の要素が満たされている必要があります。
① 故意または過失があること
不倫相手に慰謝料を請求するためには、不倫相手に「故意」または「過失」が必要になります。不貞行為における「故意」とは、既婚者であることを知りながら肉体関係を持ったことをいい、不貞行為における「過失」とは、既婚者であることを知り得る状況であったにもかかわらず不注意によって知らなかったことをいいます。
以上の内容を踏まえると、不倫相手は相手が既婚者だとは知らなかったと主張すれば責任を免れるとも思えますが、実際のところ、故意または過失を否定するのは簡単なことではありません。
不貞行為の当事者は、職場の同僚や友人など、何らかの関係性を有している場合が多いからです。こういった関係性がある場合、一定期間2人で親密に過ごすことも多いため、相手が既婚者であることについて認識するきっかけがあることが通常です。故意または過失が否定されるケースとしては、以下のようなケースといえるでしょう。- 出会い系サイトで知り合った者同士でお互いの素性を全く知らない場合
- 婚活パーティで出会い、独身であると偽っていた場合
- 強制性交など自由な意思によらず肉体関係を持った場合
② 権利の侵害があること
不貞行為を理由に慰謝料を請求するためには、請求者の権利が侵害されていることが必要です。
婚姻関係にある夫婦の場合には前述のとおり、婚姻共同生活の平和の維持という、権利または法的保護に値する利益が認められますので、不貞行為をすることはこの権利または利益を侵害することになります。
しかし、長期間別居している夫婦など不貞行為時に婚姻関係が破綻していたと認められる場合には、上記の権利または利益が存在しません。そのため、不貞行為があったとしても慰謝料請求をすることはできなくなります。
ただし、故意または過失の場合と同様に、婚姻関係が破綻していたという主張が認められるのも極めて限定的です。
2、不倫相手が「同性」でも慰謝料請求は可能?
では、不倫相手が「同性」であった場合にも慰謝料請求をすることは可能でしょうか。
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(1)従来の判例の考え方
従来の判例は、不貞行為を「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義してきました(前掲昭和48年11月15日判決)。
判例では、「配偶者以外の者」と判示しているだけであり、「配偶者以外の異性」と判示しているわけではありませんので、従来の判例を前提としても、不倫相手が同性であった場合の慰謝料請求を積極的に排除しているわけではありません。
しかし、一般的に、不貞行為とは、配偶者以外の「異性」と肉体関係を持つことをいうと考えられていたため、不倫相手が同性であった場合の不貞行為を否定した裁判例も存在していました(名古屋地裁判決昭和47年2月29日)。
そのため、基本的には、同性同士の不貞行為については、否定的な見解が多かったといえます。 -
(2)「同性」不倫に対する裁判例
従来の裁判例では、同性同士の不貞行為を否定的に解する傾向にありましたが、令和3年2月16日の東京地裁判決では、同性同士の不倫についても不貞行為にあたると判断して慰謝料請求を認めました。被告の女性は、「不貞行為は異性との間にのみ成立する」と主張していましたが、裁判官は「異性に限らず、夫婦生活を破壊するような性的行為があれば不貞行為に当たる」と判断して、被告の女性からの主張を退けています。
地裁の判断であるとはいえ、従来は、不貞行為とは異性間の肉体関係を指すものと考えられてきた中、同性間の肉体関係についても認められたという点で画期的な判決であると評価できます。
日本でもパートナーシップ制度を導入する自治体が出てくるなど、同性カップルの存在が世間的にもかなり認知されるようになってきました。性の多様化などもあり、今後も同性同士の肉体関係に関しても不貞と判断する裁判例は増えていく可能性があります。
なお、上記の東京地裁の判決については、慰謝料の金額を不服とする原告男性から控訴がなされたため、まだ確定したものではありません。
3、慰謝料を請求するために必要なこと
不貞行為を理由に慰謝料を請求するためには、以下の点に注意が必要です。
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(1)不貞行為の証拠が重要
不倫相手が自らに不利な不貞行為を認めることは多くはありません。不倫相手が不貞行為を否定した場合には、慰謝料を請求する側で不貞行為の事実や不倫相手の故意または過失について証明しなければなりません。裁判になった場合にも、不貞行為を立証する証拠がなければ、慰謝料請求を認めてもらうことはできません。
一般的には、ホテルに2人で宿泊したことを証明する写真・動画、肉体関係があったことを推認することができるメール・LINEなどのやり取り、肉体関係中の写真・動画などが証拠となります。
同性同士の不倫であっても上記の証拠が必要であることは変わりありません。ただし、同性同士の場合には、ホテルや自宅に宿泊したからといって直ちに性的行為があったことが推認されるわけではありませんので、異性同士の不倫とは異なる立証が必要になってくるでしょう。 -
(2)離婚をしなくても不倫相手への慰謝料請求は可能
不倫相手に対して慰謝料を請求する場合には、配偶者と離婚をすることなく請求することも可能です。
ただし、離婚をしたかどうかに関しては、慰謝料額を算定する際に考慮される事情ですので、離婚をしていないという事情は、慰謝料金額を低く抑える事情として考慮されることになります。
また、離婚をせずに、不倫相手のみに慰謝料請求をする場合には、不倫相手から慰謝料の支払いがあった後に、不倫相手から不倫をした配偶者に対して求償権の行使がなされる可能性もあります。
離婚をしなければ家庭の財布は共通ですので、求償権が行使された場合には、その分手元に残る慰謝料額が減ることになります。そのため、慰謝料を請求する際には、不倫相手に対して求償権を放棄してもらうなどの交渉も必要になってくるでしょう。
4、まとめ
不貞行為といえば、従来は「異性」との間で肉体関係を持つことだと考えられてきました。しかし、近年、性の多様化が認識されてきており、同性同士のパートナーやカップルが認められるようになってきました。一部の自治体では、パートナー制度を導入するなどして、同性カップルの存在を積極的に認めるようになっています。
法律や裁判所の考え方も時代の変化によって変わっていきますので、今後は、同性同士の不貞行為についても慰謝料請求を認める裁判例が増えてくることが予想されます。これまで配偶者の不倫相手が同性という理由で慰謝料請求を諦めていた方も、今後は慰謝料請求が可能になるかもしれません。
不倫相手に対する慰謝料請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています