離婚すると健康保険は抜けなければいけない? ケース別に対処法を解説
- 離婚
- 離婚
- 保険証
離婚をする際には、財産分与や親権の問題がフォーカスされがちですが、忘れてはいけないのが年金や保険などの社会保険の手続きです。
特に健康保険は、切り替えを忘れて無保険の期間ができてしまうと、窓口で全額自己負担になる可能性があります。
そこでこの記事では、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が離婚前に知っておきたい健康保険の手続きについて、ケース別に解説します。
1、健康保険とは?
子どもから高齢者まで、私たちが当たり前に入っている健康保険ですが、そもそも健康保険にはどのような種類があるのでしょうか。簡単にご説明します。
-
(1)健康保険の種類
日本は「国民皆保険制度」を採用しており、すべての国民は公的医療保険への加入が義務付けられています。
健康保険に加入して健康保険料を支払っていることで、病院にかかった際には窓口での医療費の自己負担額は通常は3割、後期高齢者であれば1割に抑えられます。
一方で無保険の場合は、全額自己負担です。
主な健康保険は次の通りです。- 国民健康保険(自営業、無職など)
- 企業の健康保険(会社員)
- 全国健康保険協会(中小企業の従業員)
- 共済組合(公務員、私立学校教員など)
- 船員保険
- 後期高齢者医療制度
一般的に国民健康保険は「国保」、企業の健保や全国健康保険協会は「社保」と呼ばれています。職種や年齢によって加入できるものが異なり、転職や離婚の際に切り替えが必要となることがあります。
-
(2)健康保険によって異なる保険料
保険料負担は健康保険によって大きく異なります。
国保以外の健康保険の場合、保険料は一般的に会社と折半で、扶養家族の保険料はかかりません。そのため夫の扶養に入っている専業主婦や子どもは、保険料を払わずに保険者になることができ、健康保険証を受け取ることができます。
一方で国保の場合、保険料は全額自己負担です。扶養という概念がないため、専業主婦でも子どもでも保険料はそれぞれ支払う必要があります。つまり家族の人数が多いほど家計への負担も大きくなります。 -
(3)離婚時は健康保険の切り替えに注意
配偶者が加入していた社保の被扶養者になっていた場合、離婚をしたときはその社保から脱退しなければいけません。
そもそも社保は従業員とその家族のための保険であり、被保険者である従業員と離婚して法律上の家族でなくなれば加入資格を喪失します。健康保険証も組合に返還する必要があるのです。
社保を脱退したら自動的に国保に切り替えられるというシステムではないため、別の健康保険に加入しなければ無保険となり、保険証もありません。そのタイミングで病院にかかると、医療費の窓口負担は10割です。
ただし、一旦窓口で払った後、社保や国保に加入して無保険期間の保険料を支払えば、本来の自己負担分を超えて払った分は返還してもらえます。
2、離婚する場合の健康保険の手続き
離婚する場合は健康保険の切り替えなどの手続きが必要です。手続きの内容は加入していた保険と今後加入する保険の種類によって異なります。ケース別に解説します。
-
(1)会社員として働く場合
配偶者の社保の被扶養者で、離婚後に自分が勤める会社や新たに就職した会社の社保に加入する場合は、次の手続きが必要です。
- 被扶養者として加入していた健康保険の脱退
- 自分が勤める会社・団体の健康保険への加入
配偶者の社保は離婚で加入資格を失うため、まずは健保組合に扶養を外れることを申し出て、脱退したことを示す「健康保険資格喪失証明書」を発行してもらいましょう。保険証は、配偶者の会社に返還してください。
資格喪失証明書を受け取ったら、自分の勤め先に提出して加入手続きを進めてもらいましょう。証明書以外に必要な書類は、勤め先に確認してください。
離婚から就職までに期間があく場合、その間は国保に加入して無保険を避けましょう。もともと国保に加入していて離婚後に企業に就職した場合は、社保に加入してから14日以内に自治体の国保窓口で脱退の手続きをしてください。 -
(2)親の扶養に入る場合
配偶者の社保の被扶養者で、離婚後は親元に戻って親の加入する社保の扶養に入る場合は、次の手続きを行いましょう。
- 被扶養者として加入していた健康保険の脱退
- 親が勤める会社・団体の健康保険への加入
会社員として働く場合と同様、まずは加入していた社保から資格喪失証明書をもらい、親が加入する社保に加入を申請しましょう。必要な手続きや書類は、親を通して健保組合に確認してもらってください。
国保に加入していた場合は、親の加入する社保の被扶養者になってから14日以内に、国保の脱退手続きをしましょう。 -
(3)国民健康保険に加入する場合
離婚後に自営業や無職になる場合は、国保に加入しましょう。配偶者の社保の被扶養者から国保に入る場合には、次の手続きが必要です。
- 被扶養者として加入していた健康保険の脱退
- 自治体の窓口で国保への加入
加入していた社保から資格喪失証明書をもらったら、住んでいる自治体の国保担当窓口に提出して加入手続きをしましょう。手続きには社保の脱退から14日以内という期限があります。
もともと夫を世帯主とする国保に加入していて離婚後も国保のままでいる場合は、世帯主の変更が必要です。
離婚前に住んでいた市区町村に住み続ける場合は、世帯主を自分に変更しましょう。地域内で引っ越す場合は住所変更もしてください。
離婚後に別の市区町村に引っ越す場合には、住んでいた自治体の国保の資格喪失手続きをし、引っ越し先の自治体で国保の加入手続きをしましょう。国保は自治体ごとに運営されていますので、面倒ですが忘れずに手続きをしてください。 -
(4)自分名義の健康保険に加入している場合
夫婦共働きでそれぞれ被保険者として社保に加入していた場合、切り替えの必要はありません。名字や住所が変わる場合は変更手続きをしてください。
配偶者が自分を被保険者とする社保の被扶養者になっていた場合、健保組合に申し出て扶養から外してもらい、資格喪失証明書を相手に渡しましょう。
3、離婚後の保険の手続きに関する注意点
離婚で相手の社保から別の社保や国保に切り替える場合は、できるだけ早めに進めておく必要があります。
-
(1)国保の手続きは脱退から14日以内
国保への加入には、「社保の脱退から14日以内」という手続き期限があります。
社保から資格喪失証明書を発行してもらうのに時間がかかる場合もありますので、できるだけ早めに行いましょう。離婚に合意できているのであれば、離婚届けを提出する前に社保に連絡し事情を説明しておくという手もあります。
逆に国保から社保に移る場合には、社保に加入してから14日以内に国保の脱退手続きをしましょう。
脱退を忘れると保険料が二重に請求されるおそれがあるので注意してください。 -
(2)無保険になると窓口で全額自己負担
社保を脱退した場合、保険証も返還しなければいけません。脱退後に病院にかかった際は、医療費の10割を窓口で負担しなければいけません。
後に健康保険に加入して保険料を支払えば、自己負担分以上は返還してもらえますが、急な病気で入院するなど高額な医療費がかかった場合、一時的にでも10割を支払うのは負担が大きいでしょう。
不測の事態に備えて、無保険の期間はできるだけ作らないようにしましょう。
4、保険料の支払いが難しい場合は?
特に専業主婦の場合、離婚後に収入がなく、国保の保険料の支払いが厳しいという方もいるでしょう。その場合には、保険料の免除を受けられる可能性があります。
免除の割合は「全額」「4分の3」「半額」「4分の1」があり、前年度の所得に応じて、どれが適用できるかが異なります。
支払いが厳しいからといって保険料を滞納すると医療費が全額自己負担になったり、財産の差し押さえをされたりするかもしれません。滞納する前に、まずは自治体の国保窓口に相談してみましょう。
5、子どもの健康保険も切り替えが必要?
配偶者と違い、子どもは親が離婚したという事実だけで健康保険の加入資格を失うことはありません。
たとえば父親の社保に加入していて、離婚で母親が親権を持ったとしても、父親の社保に入ったままでいることができます。ただし、そのためには、子どもが「被扶養者」であること、つまり養育費の支払いなどによって父親が子どもを扶養していることを示す事実が必要です。
もちろん親権を持った親の社保への切り替えも可能です。加入していた社保の資格喪失届を取得し、新たに親権者の社保に加入しましょう。
親権者が国保に加入する場合は、同じ国保に加入できます。ただし国保には扶養がないため、新たに子どもの分も保険料がかかるので注意が必要です。
子どもは思いも寄らないことでケガをしたり、学校の集団生活で病気をもらってきたりすることがあります。病院に行ってから困らないよう、早急に保険の切り替え手続きを進めましょう。
6、まとめ
離婚は届けを出せばそれで終わりではありません。子どもの親権や財産分与のほか、健康保険のことまで考え、手続きをする必要があるのです。
なかには、離婚の条件でトラブルになったり、元配偶者が資格喪失証明書の取得に協力してくれなかったりすることもあるでしょう。
離婚をめぐりトラブルになった場合は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスにご相談ください。弁護士が離婚の話し合いから各種手続きまで幅広くサポートし、健康保険で困らないようにお手伝いいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています