結婚20年超の熟年離婚で知っておくべき、財産分与・年金分割の考え方
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東京都が公表する統計データによると、令和3年に新宿区で離婚が成立した件数は484件でした。
離婚をするときは、お金に関する取り決めをしなくてはなりません。特に、婚姻期間が長期にわたる場合、そのやり取りは複雑となります。
このコラムでは「結婚20年の夫婦の離婚」に注目しながら、財産分与や年金分割など、離婚の際に取り決めておくべき重要な事項について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、結婚20年を超える夫婦の離婚|協議のポイント
夫婦生活のなかで「離婚したい」と考えていても、子どもの養育や経済的な事情から離婚に踏み切れなかったという事情を抱えている方は少なくありません。
そう考えると、子どもが成長し、子育てに忙殺されずに済むので再就職も可能になるなど、結婚20年の頃は離婚に踏み切る現実的なタイミングといえるでしょう。
しかし、焦って大した協議もなく離婚に踏み切るのは危険です。特に、結婚20年を超える夫婦であれば、さまざまな事情を考慮して慎重な協議を重ねておくべきでしょう。
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(1)離婚後の生活資金の確保
専業主婦・専業主夫の場合は、離婚後の生活資金の確保を第一に考えるべきです。
離婚してしまえば配偶者の収入を期待した生活はできなくなるので、直ちに生活費のことを考えなくてはなりません。また、結婚20年を超える夫婦であれば、そう遠くないタイミングで訪れる老後の生活資金についても考える必要があるでしょう。
一般的に、結婚生活が長いと、不貞行為やDVなどの不法行為よりも、長きにわたって耐えてきた性格の不一致や価値観の違いが主な離婚理由となりやすいと考えられます。この場合、高額の慰謝料請求は難しくなるため、注意が必要です。
一方だけに非がある離婚でなければ、慰謝料請求は期待できないので、財産分与・年金分割といった「これまでに得た財産・権利を分割する」という方向で生活資金を確保する必要があります。 -
(2)実際の生活や健康面の考慮
結婚20年を超えての離婚になると、新たなパートナーを探して再婚するのは難しい年齢に達している方も多いでしょう。その場合、実家や子ども方に身を寄せるでもない限り、ひとりきりでの生活を送ることになるはずです。
これまで仕事一本で働いてきた男性でも、家事や身の回りのことをすべて自分自身で行う必要があります。また、持病などの不安があれば、配偶者によるサポートや介護を受けることができないので、自分の健康をすべてひとりで管理していくという覚悟が求められるでしょう。
2、「財産分与」の基本的な考え方と準備
離婚にあたって考えるべき重要事項のひとつが「財産分与」です。
令和4年の司法統計によると、離婚に伴う財産分与について争い認容・調停成立した事件のうち、1000万円以上の財産分与の取り決めとなったケースの割合は、結婚生活25年以上で約35%、結婚生活20年以上で17.5%と高い割合を占めています。結婚20年超ともなれば、離婚後の生活資金を確保する手段として十分な財産分与を主張できる可能性が出てくることを知っておくべきでしょう。
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(1)離婚に伴う財産分与とは
民法第768条1項は「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」と定めています。これが「財産分与」です。
財産分与とは、婚姻中に夫婦が共同で形成した財産を分ける手続きをいい、基本的には夫婦の共有財産を半分ずつ、つまり2分の1の割合で分割することになります。
ただし、一方が2分の1を超える割合を主張したり、「財産分与はしない」と主張したりするなど、夫婦間の協議によって割合が決まらない場合は、家庭裁判所への申し立てにより、裁判官が分与額や分与の可否を決定する場合もあります(民法第768条2、3項)。 -
(2)対象となる財産
財産分与の対象は、結婚生活を送るなかで形成した夫婦の共有財産です。どちらが生活費を捻出していたのか、どちらの名義の財産なのかなどは問わず、夫婦が協力して築き上げた財産は共有財産とみなされます。
夫婦の共有財産として財産分与の対象と考えられる財産は、以下のとおりです。- 結婚後に得た現金や預貯金
- 土地・建物などの不動産
- 自動車
- 有価証券
- 宝飾品や家財道具
- 保険金
また、結婚生活が長い夫婦の場合、一方が定年退職を控えていることもあるでしょう。この場合、退職金も共有財産として財産分与の対象となる可能性があります。
ここで注意すべきなのは、「財産分与の対象となるのは必ずしもプラスの財産だけではない」ということです。
夫婦の共同生活のなかから生じた借金も財産分与の対象として考える必要があります。ただし、残った借金を夫婦で半分ずつに分けて分担して返済の義務を負う、というわけではありません。財産分与の対象となるプラスの財産を借金に充てても、まだ残ってしまう借金については、借金をした方が残りを返済する必要があります。
たとえば、マイホーム購入時に夫が組んだ住宅ローンが残っており、マイホームの売却価額や他のプラスの財産をすべて返済に充ててもまだローンが残っている場合、この残ローンはローンを組んだ夫が返済しなければいけません。
他方、マイホームの売却価額が住宅ローンの残額を上回っている場合、財産分与の対象は、マイホームの売却価額からローンを完済した残りの部分となります。 -
(3)対象にならない財産
財産分与の対象にならないのは、夫婦それぞれの「特有財産」です。特有財産とは、配偶者とは何も関係なく形成された財産のことをいい、たとえ結婚生活中に形成されたものだとしても、個人の所有が認められます。
特有財産と扱われる財産は、たとえば以下のものがあります。- 結婚前から所有していた預貯金・不動産・自動車など
- 結婚後に相続・贈与で得た財産
- 別居後に得た財産
ここで挙げたもの以外でも特有財産として認められるケースがあります。
反対に、特有財産だと思っていても共有財産と判断されて財産分与の対象になることもあるので、判断が難しい場合は弁護士への相談がおすすめです。
3、年金分割とは
離婚に際してもうひとつ考える必要があるのが「年金分割」です。
結婚生活が長かった場合は、年金分割についてしっかりと検討する必要があります。
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(1)年金分割の基本的な考え方
年金分割とは、夫婦がそれぞれ婚姻中に払い込んだ厚生年金や共済年金について、保険料を「夫婦が共同で納めたもの」として分割する制度です。「年金額の半分がもらえる」という制度ではなく、実際に支給される年金額は分割後の納付記録で計算されることになります。
分割の方法は、「合意分割制度」と「3号分割制度」の2つです。 -
(2)合意分割制度
合意分割制度とは、一定の条件を満たしている場合に、婚姻期間中の厚生年金・共済年金の記録を当事者間で分割できる制度です。
合意分割制度が適用できるのは、次の条件を満たしている場合に限られます。- 離婚または事実婚関係の解消が平成19年4月1日以降である
- 当事者間の合意または裁判所の手続きによって年金分割の割合が決まっている
- 請求期限を過ぎていない
この制度を利用することになるのは、配偶者の扶養に入っていない場合や、平成20年3月以前の年金保険料の払い込みがある方です。
すでに結婚20年超を迎えている方であれば、配偶者・元配偶者との協議、または裁判所の手続きによって按分割合を決定する必要があります。 -
(3)3号分割制度
平成20年5月1日以後に離婚をする場合で、次の条件を満たす場合は、国民年金の第3号被保険者だった一方からの請求によって、婚姻期間中の厚生年金記録を2分の1に分割できます。
- 婚姻期間中に平成20年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録がある
- 請求期限を過ぎていない
配偶者・元配偶者の扶養に入っていた、平成20年3月以前の年金保険料の納付がないという方は、3号分割制度の対象です。
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(4)分割請求の期限
合意分割の場合も、3号分割の場合も、請求期限は原則として離婚後2年以内です。
ただし、期限が到来するまでに、裁判所へ審判・調停や按分割合に関する付帯処分を求める申し立てをしていた場合は、期限がさらに6か月に限って延長されます。
4、結婚20年超での離婚は弁護士に相談
結婚20年を超えての離婚では、財産分与や年金分割によって離婚後の生活資金や老後資金を確保することまで考える必要があります。
判断が難しい問題も多いので、離婚に際しては法律問題の専門家である弁護士への相談がおすすめです。
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(1)財産分与を主張できる
離婚後の生活資金を確保するためには財産分与が不可欠です。
ところが、配偶者・元配偶者が「私が稼いで得た財産だ」「専業主婦(主夫)には財産を得る権利はない」という誤った認識で財産分与を拒むケースは少なくありません。
弁護士に相談すれば、財産分与の対象となる財産をピックアップしたうえで、あなたの代理人として配偶者・元配偶者に対し財産分与を主張できます。
相手が拒んだ場合は、弁護士が代理人となって裁判所での手続きを進めることも可能です。 -
(2)年金分割の按分割合を定めることができる
年金分割が合意分割の対象となる場合は、離婚に際して按分割合を決める必要があります。
配偶者・元配偶者が話し合いに応じないケースでは、弁護士が代理人として交渉できるだけでなく、裁判所の手続きを利用して裁判官に按分割合を決めてもらうことも可能です。 -
(3)婚姻費用が請求できる
離婚に先立って別居期間があった場合は、その期間の「婚姻費用」を請求できます。婚姻費用とは、別居した夫婦が離婚をするまでの間に必要とする月々の生活費を指します。
たとえば、離婚前に夫が家を出て別居状態となり、専業主婦の妻が残されてしまったなどのケースでは、別居期間中の生活費を請求できます。
離婚前に別居状態となり生活費も渡してもらえないといった場合は、弁護士に相談することで婚姻費用の請求もスムーズになるでしょう。
5、まとめ
結婚から20年も過ぎれば、子どもたちは自立し、夫婦はお互いの幸福を考え始めることになります。もし、結婚生活を続けることがあなた自身の幸福に結びつかない場合は、離婚という選択肢もあり得るでしょう。
ただし、長い結婚生活を経てからの離婚では、離婚後の生活資金を確保する手段として、財産分与や年金分割をしっかりと主張する必要があります。
ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスでは、離婚問題の解決実績を豊富に持つ弁護士が、離婚が不利な結果にならないように全力でサポートします。
財産分与や年金分割といった問題も、あなたの代理人として配偶者・元配偶者との交渉や裁判所の手続きによって解決できるので、まずはお気軽にご相談ください。
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