不正競争防止法における営業秘密の保護について弁護士が解説
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近年、企業の顧客情報や技術情報などの重要な営業秘密が競業他社に流出したとして、不正競争防止法違反により元従業員が逮捕・起訴されたという事件を目にするようになりました。企業間競争の激化やインターネットによる高度情報化社会の定着などによって企業の情報管理がより求められる時代となってきています。
特許や独自の営業ノウハウを持っている企業では、その営業秘密が外部に漏れてしまうと企業の存続に関わるような重大な損害を被る可能性があります。したがって、各企業においては、営業秘密を守るためにさまざまな対策がとられていることでしょう。
しかし、十分な対策をしていたと思っていても、競業他社に営業秘密が漏れてしまうことがあります。このような場合に、不正競争防止法ではどのように営業秘密が保護されているのでしょうか。
今回は、不正競争防止法における営業秘密の保護について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、不正競争防止法における不正競争行為とは
近年、企業の営業秘密の管理について、危機意識が高まっていますが、不正競争防止法では、営業秘密に関してどのような保護がなされているのでしょうか。不正競争防止法が定める、営業秘密に関する不正競争行為の類型について説明します。
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(1)不正競争防止法と営業秘密
不正競争防止法は、不正競争により営業上の利益が侵害され、または侵害されるおそれのある者に対し、不正競争行為に対する差止請求権を認めることによって、不正競争の防止を図ろうとする法律です。
また、営業上の利益が侵害された者の損害賠償請求にかかる措置などを整備することによって、事業者間の公正な競争を確保する法律でもあります。
不正競争防止法では、「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)についての定めがあり、同法の定める営業秘密に該当しなければ、不正競争防止法による保護を受けることができません。 -
(2)営業秘密に関する不正競争行為の類型
不正競争防止法は、営業秘密の不正取得・使用・開示行為を類型化して、それを「不正競争」と定義しています(不正競争防止法2条1項4号~9号)。
①不正競争防止法2条1項4号
営業秘密を保有する事業者から、窃盗、詐欺、強迫その他の不正の手段により当該営業秘密を取得する行為(不正取得行為)、または、不正取得行為により取得した営業秘密を使用・開示する行為のことをいいます。
たとえば、従業員が会社の保管する企業機密文書を盗んだり、盗んだ文書を産業スパイに開示したりする行為がこれに該当します。
②不正競争防止法2条1項5号
その営業秘密について不正取得行為が介在したことについて、故意にもしくは重過失により知らないで営業秘密を取得し、または、その取得した営業秘密を使用・開示する行為のことをいいます。
たとえば、会社の企業機密文書を盗んだ従業員から、産業スパイがそれを受け取る行為がこれに該当します。
③不正競争防止法2条1項6号
第三者が不正取得行為の介在について善意・無重過失で営業秘密を取得しても、その取得後に不正取得行為の介在したことについて悪意・重過失に転じ、当該営業秘密を使用・開示する行為のことをいいます。
たとえば、第三者が営業秘密を取得した後、企業機密不正流出事件が報道されたことにより、不正取得行為の介在を知るに至ったにもかかわらず、当該営業秘密を使用・開示する行為がこれに該当します。
④不正競争防止法2条1項7号
営業秘密の保有者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、または、その保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用・開示する行為のことをいいます。
たとえば、会社が従業員や下請企業などに営業秘密を示した場合、その従業員らが、不正の利益を得る目的で当該営業秘密を使用・開示する行為がこれに該当します。
⑤不正競争防止法2条1項8号
営業秘密について7号に規定された不正開示行為や守秘義務違反行為であること、もしくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことについて、悪意または重過失で営業秘密を取得し、またはその取得した営業秘密を使用し、もしくは開示する行為のことをいいます。
たとえば、会社の従業員が不正の利益を得る目的で競業他社に営業秘密の開示をした場合に、その開示を受けた競業他社が不正開示行為の介在を知るに至ったにもかかわらず、当該営業秘密を使用・開示する行為がこれにあたります。
⑥不正競争防止法2条1項9号
第三者が営業秘密を取得した後に、その取得が不正開示行為によるものであったこと、もしくは不正開示行為が介在したことについて、悪意または重過失により知らないで、その営業秘密を使用し、または開示する行為のことをいいます。
たとえば、第三者が営業秘密を取得した後に、その保有者から警告を受けて不正開示行為が介在した事実を知りながら、当該営業秘密を使用・開示する行為がこれにあたります。
2、営業秘密として保護されるために
企業にとってどれだけ重要な情報であったとしても、不正競争防止法の定める営業秘密の要件に該当しなければ、不正競争防止法による保護を受けることはできません。
営業秘密が不正競争防止法によって保護されるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
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(1)秘密管理性
秘密管理性の要件が認められるには、当該情報を秘密として管理していると客観的に認識できる状態であること、具体的には以下の2つが必要とされています。
①アクセス制限
アクセス制限とは、アクセスすることができる者が限定されていて、権限がない者によるアクセスを防ぐ手段がとられていることをいいます。
具体的には、以下のような手段を講じている場合には、アクセス制限の要件が認められやすくなるでしょう。- アクセス権者の制限
- 施錠されている保管室での保管
- 外部者の事務所入室の禁止
- 外部者からのコンピューターへのアクセス防止措置
- 自社システムと外部ネットワークとの遮断
- 電子データの複製などの制限
②客観的認識可能性
客観的認識可能性とは、その情報にアクセスした者がそれが営業秘密であることを認識できるような状況になっており、また、アクセス権限ある者がそれを秘密として管理することに関心を持ち責務を果たすような状況にあり、さらに、それらが機能するように組織として何らかの仕組みを持っていることをいいます。
具体的には、以下のような場合には、客観的認識可能性の要件が認められやすくなります。- マル秘マークの押印
- 秘密管理の責務を認知するための従業員教育の実施
- 誓約書や秘密保持契約による責務の設定
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(2)有用性
有用性とは、サービスの生産、販売および研究開発に役立つなど、事業活動によって有用なものをいいます。
具体的には、設計図、製法・製造ノウハウ、顧客名簿、仕入先リスト、商品販売マニュアルについては有用性が認められやすいでしょう。
他方、有害物質の垂れ流しや脱税といった反社会的活動に関する情報や取締役の不祥事・スキャンダルといった情報については、事業活動に役に立つとはいえませんので、有用性は認められにくいと思われます。 -
(3)非公知性
非公知性とは、刊行物などに登載されておらず、保有者の管理下以外では入手することができない状態にあることをいいます。
なお、多数の者が同じ情報を持っていたとしても、ライセンス契約を締結しているなど、秘密保持義務を負っているような場合には、非公知性が認められます。
3、不正競争行為に対する刑事的制裁と民事上の保護
情報漏えいなどの不正競争行為があった場合には、行為者に刑事上の制裁が科されるとともに、情報漏えいの被害を受けた企業に対し民事上の保護が与えられます。
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(1)不正競争防止法による刑事的制裁
不正競争防止法は、営業秘密の不正な取得・使用・開示行為のうち、一定の行為を営業秘密侵害罪として刑事罰の対象としています(不正競争防止法21条1項1号乃至9号)。
営業秘密侵害罪の法定刑は、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、またはこれらの併科です。なお、営業秘密侵害罪については、以前は、公訴提起に告訴を必要とする親告罪とされていましたが、平成27年の法改正によって非親告罪となりました。
また、不正競争行為をした行為者のみでなく、その者が所属する法人についても処罰の対象になります(不正競争防止法22条1項)。 -
(2)営業秘密漏えいが判明したときの企業の対策
営業秘密漏えいなどの不正競争行為が判明した場合には、企業としては、不正競争防止法上の以下の対応をとることができます。
①差止請求
営業上の利益が侵害され、または侵害されるおそれが生じたことを要件に、侵害の停止と予防に加えて、侵害行為の組成物(営業秘密を使用して作られた類似商品など)や設備の廃棄などを請求することができます。
②損害賠償請求
営業上の利益を侵害された場合には、故意・過失を要件として損害賠償を求めることが可能です。
営業秘密に関する不正競争の場合には、不正競争防止法5条によって損害額の推定規定が設けられていますので、侵害者が利益を上げていない場合や侵害者の利益が小さい場合の逸失利益の立証が容易になっています。
③信頼回復請求
営業上の利益を侵害された場合には、侵害した者の故意・過失を要件に、謝罪広告の掲載など、信頼の回復するために必要な措置を請求することができます。
4、企業ができる「営業秘密」の守り方
営業秘密の漏えいなどを防ぐためには、企業内部での事前の対策が重要です。どのようなことをしておくべきか、具体的に見ていきましょう。
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(1)情報管理のコンプライアンス体制の構築
営業秘密の安全管理については、技術的な情報セキュリティー対策とともに、組織面の体制構築・整備も重要です。
また、従業員からの流出の可能性もありますので、従業員との間で秘密保持契約を交わしておくことも有効な手段となります。さらに、業務委託に際して、営業秘密を含む情報が委託先に移転するような場合には、委託先の選定に十分に注意することはもちろんですが、委託先と秘密保持契約を交わしておく必要があります。
このように、情報管理を適切に行うためには、さまざまなリスクを想定しておく必要がありますので、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
普段から信頼できる弁護士との間で顧問契約を結ぶなどして、情報管理のコンプライアンス体制の構築に努めることが情報漏えい対策として有効な手段といえるでしょう。 -
(2)営業秘密の要件を満たす情報管理
不正競争防止法の営業秘密の要件を満たさなければ、どんなに重要な情報であっても、その漏えいに関しては法的な保護を受けることができません。
営業秘密の要件を満たすために必要な措置は、企業の規模や取り扱い分野などによって大きく異なってきます。
企業ごとに適切な対策を考えるためには、企業法務分野に詳しい弁護士によるサポートが必要です。弁護士と相談しながら、その企業にあった情報管理体制を構築していくとよいでしょう。
5、まとめ
情報漏えいなどがあった場合でも不正競争防止法による保護を受けることが可能です。しかし、不正競争防止法による保護を受けるためには、法律が定める営業秘密の要件を満たす必要がありますので、普段から適切な情報管理をしていなければ、いざというときに保護を受けられなくなります。
企業としては、営業秘密が漏えいした場合には、多大な損害を被る可能性がありますので、裁判所に差止請求の訴えを起こすといった事後の対応よりも事前の対策が重要となります。
営業秘密の漏えいに関する事前・事後の対策には、弁護士によるサポートが有効ですので、営業秘密の管理などでお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
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