投げ銭は法律で規制されている? 資金決済法や資金移動業、為替取引
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近年、動画配信サービスを中心に、コンテンツの視聴者などがコンテンツの配信者に対して、任意に金銭または有償のアイテムなどを送付することができるサービスが注目を集めています。このようなサービスを一般的に「投げ銭サービス」と呼びます。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、ライブやイベントが中止になっている状況下において、新たな収益源として、オンラインイベントによる投げ銭サービスに着目している事業者の方もいるかもしれません。このような投げ銭サービスを導入しようとした場合には、法律上どのような規制があるのでしょうか。
今回は、投げ銭サービスの導入時に問題となるさまざまな法規制について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、投げ銭サービスとは
投げ銭サービスとは、どのような内容のサービスをいうのでしょうか。以下では、投げ銭サービスの概要とその具体例について説明します。
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(1)投げ銭サービスの概要
「投げ銭」とは本来、大道芸人やストリートミュージシャンに対して、そのパフォーマンスへの称賛として、少額の現金を投げ入れる行為を指す言葉です。近年では、その意味が転じて、インターネット上で、視聴者から配信者に対して、金銭やギフトなどの提供をする行為やそのサービスを指す言葉として使われるようになりました。
インターネット上の投げ銭サービスは、良質なサービスに対する感謝の気持ちや配信者への支援的な意味合いで行われるものであり、投げ銭を受け取る側としては、本来のチケット代とは別に収入減を得ることができるというメリットがあります。投げ銭サービスを展開する事業者としても、利用者が増えれば、それに応じて手数料収入が増えるというメリットがあります。 -
(2)投げ銭サービスの具体例
実際に投げ銭サービスを提供しているライブ配信コンテンツとしては、以下のものがあります。
① YouTubeのスーパーチャット
世界的に有名な動画配信サイトであるYouTubeにも、「スーパーチャット」という投げ銭システムがあります。スーパーチャットでは、ライブ配信者に対して、100円から5万円までの金額を投げ銭として送金することが可能です。送金をするとYouTube上に表示されるコメントの色が変わりますので、ライブ視聴者としても配信者にコメントを取り上げてもらえるというメリットがあります。
送金したスーパーチャットは、全額がライブ配信者に届くわけではありません。一定の金額が運営側であるYouTubeやAppleに手数料として支払われることになります。実際に配信者が手にする金額は、スーパーチャットで送金された金額の6~7割程度です。
② SHOWROOM
SHOWROOMとは、スマートフォン端末やPCからライブ配信や視聴を行うことができるストリーミングサービスです。アプリ調査会社アップアニーが発表した平成29年1月から6月の統計によると、日本の動画配信アプリの収益部門でSHOWROOMはトップクラスのシェアを誇っています。
SHOWROOMの視聴者は、サイト内で「Show Gold」というポイントを購入します。そして、「Show Gold」を用いて有料ギフト(課金アイテム)を購入し、そのギフトを動画配信者にプレゼントするという仕組みです。
2、本来、投げ銭は資金移動業の登録が必要
投げ銭サービスを導入したサービスを新たに作りたい!と思う方もいるでしょう。しかし、投げ銭サービスを提供する場合には、その内容によっては、資金移動業の登録が必要になる可能性があるため、注意が必要です。
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(1)資金移動業の登録が必要な「為替取引」とは
資金決済法では、銀行以外の事業者が「為替取引」を業として営む場合には、資金移動業の登録を受ける必要があります。為替取引とは、隔地者間で直接現金を輸送することなく資金を移動する仕組みを利用して、資金を移動することをいい、銀行での振込送金などが代表的な例です。
資金決済法によって規制される為替取引に該当する場合には、当該サービスを提供しようとする事業者は、資金移動業の登録をしなければなりません。また、送金サービスで受領した金額の100%以上の金額の供託義務や当該サービスの利用者における本人登録が義務付けられています。
資金移動業の登録を受けることによって、送金行為を利用したサービスを提供することができるというメリットはありますが、資金移動業の登録を受けるためのハードルは高く、容易に選択することができる手段とはいえません。 -
(2)投げ銭サービスもシステムによっては資金移動業の登録が必要になる
ライブ動画視聴者から配信者に対して、金銭の移動が伴う投げ銭サービスは、資金決済法によって規制される為替取引に該当する可能性があります。
特に、動画視聴者から支払われた金銭がそのまま動画配信者へと移動するシステムを構築した場合には、為替取引に該当する可能性が高いといえます。
このような投げ銭サービスシステムを資金決済法の登録をすることなく提供した場合には、配信サービスが一時停止されるだけでなく、システム開発に要した莫大な開発コストが無駄になるというリスクがありますので十分に注意が必要です。
たとえば、動画サービスからは逸れますが、フリマアプリ「メルカリ」が、売上金を使ってそのまま商品を購入できたサービスを変更し、売上金をいったんポイントに交換して、そのポイントを商品購入に充てる、というサービス方式に変更したことを覚えている方も多いのではないでしょうか。これは、従前のメルカリのサービスが、為替取引に当たるのではないか、と指摘されたことを受けての変更でした。
これらのことから、ハードル高い資金移動業の登録を選択するのではなく、後述するような資金移動業に該当しない投げ銭サービスシステムを利用するということもひとつの方法といえるでしょう。
3、資金移動業に該当しない投げ銭サービスシステム
投げ銭サービスシステムとして、以下のような方法を利用することによって、ハードルの高い資金移動業の登録を回避することが可能です。
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(1)前払式支払手段
前払式支払手段とは、あらかじめサイト内で利用することができる通貨やポイントを購入し、その通貨やポイントを利用して配信者にアイテムを送る手段のことをいいます。視聴者から配信者に直接お金を送金するものではないため、資金決済法によって規制される為替取引には該当しません。
ただし、自家型前払式支払手段の発行者として事業を行う場合、基準日(3月31日、9月30日)の時点で未使用残高が基準額(1000万円)を超えることになったときは、その基準日の翌日から2か月以内に届出を行う義務が生じます。また、資金移動業と同様に供託義務が課されることになりますが、資金移動業と比較して緩やかな規制となっています。 -
(2)収納代行
収納代行とは、商品などの対価を支払う際に、サービス事業者が売主に代わって買主から代金を受領するサービスをいいます。
収納代行サービスの典型的な流れとしては- ① 売主は、サービス事業者に対して、代金の代理受領権限を付与する
- ② 買主は、サービス事業者に代金を支払った時点で、代金支払債務の弁済が終了する
- ③ サービス事業者は、代金から手数料を控除して、売主に支払う
というものです。
一般的に、収納代行サービスは、事業者が直接現金を使わずに資金を移動させているわけではないため、資金移動業とは異なると説明されています。
しかし、令和元年12月20日付の「金融審議会決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」によると、今後はこうした収納代行サービスにも資金決済法の規制が及ぶ可能性があるとされています。
実際に、令和2年6月5日の資金決済法改正では、いわゆる「割り勘アプリ」も、今まで収納代行として規制の対象外とされていましたが、実質的に一般利用者間の送金サービスとなっていたため、「為替取引」に当たるとする条文が追加されました(改正資金決済法2条の2)。
今後、規制対象が拡大する恐れもありますので、これから収納代行サービスを展開しようとしている事業者の方は、今後の動向に注意が必要です。
4、投げ銭サービスの導入には注意が必要
動画配信サービスの普及に伴い、ライブ配信での投げ銭システムが注目されるようになってきています。事業者としても新たな収益事業として投げ銭システムを構築し、市場に参入しようと考えている方も多いかもしれません。
しかし、投げ銭サービスシステムは、その仕組みによって、前述のとおり、資金決済法上の資金移動業に当たる可能性があります。資金移動業者に該当することになった場合には、非常に厳しいハードルをクリアしなければならず、事業展開は容易ではないでしょう。
そのため、新規に投げ銭サービスシステム事業を展開しようとする場合には、資金移動業の要件をクリアする方法ではなく、資金移動業に当たらないようなスキームを設計するということも選択肢のひとつとなります。ただし、そのような場合でも、前払式支払手段に該当する場合には、前払式支払手段の発行者としての登録や資金決済法上の義務が課されることになりますので、それを踏まえた社内体制の構築などが必要です。
このように、投げ銭サービスシステムの提供にあたっては、資金決済法上のさまざまなハードルをクリアしなければなりません。資金決済法上の要件を満たさずにサービスを提供した場合には、サービスの停止によって、システム開発に要した費用がすべて無駄になってしまいます。
そのため、専門家である弁護士に相談をしながらスキームの構築や社内体制の整備などを行っていくようにしましょう。
5、まとめ
対面でのライブやイベントではなく、オンラインライブやイベントがメインになってくると新たな収益手段として投げ銭システムの構築を検討している事業者の方もいるでしょう。
投げ銭サービスシステムを新規に展開していく場合には、資金決済法上のハードルをクリアする必要があるため、専門家である弁護士に協力が不可欠となります。弁護士であれば、投げ銭サービスシステムの法的問題点を指摘し、問題の改善に向けてサポートすることが可能です。
投げ銭サービスシステムを検討している事業者の方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています