下請法で禁止されている買いたたきとは? 親事業者との取引で困ったら

2025年03月31日
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下請法で禁止されている買いたたきとは? 親事業者との取引で困ったら

令和4年度に東京都内の労働基準監督署が定期監督等を行った事業所は1万5160事業所で、そのうち労働基準関係法令違反があったのは1万1050事業場でした。

下請代金支払遅延等防止法(下請法)では、親事業者による「買いたたき」が禁止されています。親事業者から商品・サービスの値段を低く抑えるように要求されている下請事業者は、公正取引委員会への報告などを検討しましょう。

本記事では、下請法に基づく親事業者の禁止行為である「買いたたき」について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。

出典:「東京都内の労働基準監督署における令和4年の定期監督等の実施結果」(東京労働局)

1、親事業者による「買いたたき」とは

下請法では、取引上の力関係において優る親事業者が、劣位にある下請事業者を搾取することを防ぐため、親事業者の禁止行為を定めています
「買いたたき」は、下請法において定められている親事業者の禁止行為のひとつです(同法第4条第1項第5号)。

  1. (1)買いたたきの定義

    買いたたきは、「下請事業者の給付の内容と同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」(下請法第4条第1項第5号)と定義されています。

    「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種、または類似の給付について、当該下請事業者の属する地域で一般に支払われる対価です。ただし、通常の対価を把握することが不可能、または困難な場合は、従前の給付に係る対価が通常の対価として取り扱われます。

  2. (2)買いたたきと下請代金の減額の違い

    買いたたきと同じく、下請法によって親事業者に禁止される行為として「下請代金の減額」(同法第4条第1項第3号)が挙げられます。

    買いたたきと下請代金の減額は、いずれも下請代金について下請事業者に不利益を与える行為ですが、その内容は以下のとおり異なります。一度定めた金額を減らすのが、減額。定める金額を不当に安くするのが買いたたきです

    • 下請代金の減額:下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、あらかじめ定められた下請代金の額を、親事業者が一方的に減らす行為
    • 買いたたき:最初に下請代金の額を決める段階で、通常の対価に比べて著しく低い金額を定める行為
  3. (3)買いたたきをした親事業者に対するペナルティ

    買いたたきをした親事業者は、公正取引委員会による是正勧告や立入検査などの対象になります(下請法第7条、第9条)。

    親事業者から商品やサービスを買いたたかれている下請事業者は、公正取引委員会に対する報告を検討しましょう

2、買いたたきに当たる親事業者の行為の具体例

公正取引委員会が公表している「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」では、以下のような方法で下請代金の額を定めると、買いたたきに該当するおそれがあるとされています。

  1. ① 多量の発注を前提とする見積価格の単価を、少量の発注しかしない場合の単価でも同額を定めること

  2. ② 大量生産期間が終了し、発注数量は大幅に減少しているが、単価を見直すことなく大量生産時と同様の単価で代金の額を定めること

  3. ③ 労務費・原材料価格・エネルギーコストなどの上昇分の反映について明示的に協議せず、従来どおりに取引価格を据え置くこと

  4. ④ 労務費・原材料価格・エネルギーコストなどの上昇により、下請事業者が取引価格の引き上げを求めたにもかかわらず、下請事業者に回答することなく従来どおりに取引価格を据え置くこと

  5. ⑤ 一律に一定の比率で単価を引き下げて、下請代金の額を定めること

  6. ⑥ 親事業者の予算単価のみを基準として、一方的に通常対価よりも低い単価で下請代金の額を定めること

  7. ⑦ 短納期での発注について、下請事業者に発生する費用増を考慮せずに、通常の対価より低い下請代金の額を定めること

  8. ⑧ 給付の内容に含まれる知的財産権の対価を考慮せず、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めること

  9. ⑨ 合理的な理由なく特定の下請事業者を差別して取り扱い、他の下請事業者より低い下請代金の額を定めること

  10. ⑩ 同種の給付について、特定の地域または顧客向けであることを理由に、通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること


参考:「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(公正取引委員会)

3、買いたたき以外に、下請法で禁止されている親事業者の行為

下請法では買いたたきのほか、下請事業者を保護するため、親事業者に対して以下の行為を禁止しています。



  1. (1)受領拒否

    下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、親事業者が下請事業者の給付の受領を拒むことは禁止されています(下請法第4条第1項第1号)。

    (例)
    下請事業者が仕様書に従って納期どおりに製品を納品したのに、親事業者が一方的な仕様変更を要求して、納品の受領を拒否した。
  2. (2)下請代金の支払遅延

    親事業者が下請代金を支払期日までに支払わないことは禁止されています(下請法第4条第1項第2号)。
    なお、下請代金の支払期日は、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内において定めなければなりません(同法第2条の2)。

    (例)
    親事業者が繁忙期を理由に納品物の検収を先延ばしにした結果、下請代金が支払われたのは納品の4か月後だった。
  3. (3)下請代金の減額

    下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、親事業者が下請代金の額を減ずることは禁止されています(下請法第4条第1項第3号)。

    (例)
    親事業者が競合他社の値下げに対応するため、下請代金を一方的に減額した。
  4. (4)返品

    下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、親事業者がいったん受領した給付物を下請事業者に引き取らせることは禁止されています(下請法第4条第1項第4号)。

    (例)
    経営戦略上の都合で販売予定がなくなったことを理由に、下請事業者から納品を受けていた製品を返品した。
  5. (5)自社製品等の購入・利用の強制

    給付内容の均質化・改善など正当な理由がある場合を除き、親事業者が指定する物を下請事業者に強制的に購入させ、または役務を強制的に利用させることは禁止されています(下請法第4条第1項第6号)。

    (例)
    親事業者が下請事業者に対して、自社が運営するイベントのチケットを強制的に購入させた。
  6. (6)公正取引委員会などへの報告を理由とする不利益な取り扱い(報復措置)

    下請事業者が下請法違反の事実を公正取引委員会・中小企業庁長官に知らせたことを理由として、親事業者が取引数量の減少・取引停止など、下請事業者を不利益に取り扱うことは禁止されています(下請法第4条第1項第7号)。

  7. (7)原材料費などの前倒し控除

    親事業者・下請事業者間の取引では、下請事業者による納品等に必要な半製品・部品・付属品・原材料(=原材料等)を、親事業者から購入することを義務付けるケースがあります。
    このような場合において、下請代金の支払期日より早い時期に、親事業者が下請事業者に原材料等の対価を支払わせることは禁止されています(下請法第4条第2項第1号)。

    (例)
    2024年1月末納品・2月末支払いの製品について、製造に必要な原材料の購入費用を、同年1月末に支払うべき下請代金から控除した。
  8. (8)支払期日までに割引困難な手形の交付

    下請代金の支払いに関して、親事業者が下請事業者に対し、支払期日までに一般の金融機関では割引を受けることが困難な手形の交付は禁止されています(下請法第4条第2項第2号)。

    (例)
    親事業者が下請事業者に対して、2024年2月末に支払うべき下請代金の代わりとして同額の約束手形を交付したが、約束手形の支払期日は同年4月末だった。
  9. (9)不当な経済上の利益の提供要請

    親事業者が下請事業者に対して、自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させることは禁止されています(下請法第4条第2項第3号)。

    (例)
    親事業者が下請事業者に対して、自社が運営するイベントに無償で従業員を派遣するよう求めた。
  10. (10)不当な給付内容の変更・やり直し

    下請事業者の故意または過失がないのに、親事業者が下請事業者に対して給付内容を変更させ、または給付受領後に給付をやり直させることは禁止されています(下請法第4条第2項第4号)。

    (例)
    親事業者が一方的に検収基準を変更し、下請事業者に対して納品を無償でやり直すよう求めた。

4、下請取引に関する企業間トラブルは弁護士に相談を

親事業者から買いたたきなどの不当な取り扱いを受けた場合は、下請法違反や独占禁止法違反を指摘して対抗しましょう。

弁護士は、親事業者による行為の内容を踏まえて、下請事業者の権利を守るためにどのような対応がとり得るかをアドバイスいたします。親事業者との協議や公正取引委員会のとの折衝などについても、弁護士にお任せいただけるので安心です。

親事業者から搾取されていると感じている下請事業者は、お早めに弁護士へご相談ください。

5、まとめ

買いたたきをはじめとして、下請法や独占禁止法に関する親事業者の違反行為に対抗するためには、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、下請事業者からのご相談を随時受け付けておりますので、親事業者から搾取されてお困りの下請事業者はベリーベスト法律事務所 新宿オフィスにご相談ください。

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