戦略法務とは|法的なリスク管理から企業価値を高める実践方法

2025年05月01日
  • 一般企業法務
  • 戦略法務
戦略法務とは|法的なリスク管理から企業価値を高める実践方法

企業法務は、戦略法務・予防法務・臨床法務という3つに分類する考えがあります。このうち、戦略法務は、「攻めの法務」とも呼ばれ、会社の成長のために経営戦略を法的にサポートする業務を指して使われる言葉です。

会社の発展のためには、戦略法務の充実が重要ですが、社内では十分な成果が期待できなときは、顧問弁護士などに依頼することもひとつの選択肢となります。

今回は、戦略法務を取り入れて企業が法的なリスクを管理し、企業価値を高める実践方法について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。

1、戦略法務とは? 予防法務や臨床法務との違い

戦略法務とは、どのようなものなのでしょうか。以下では、戦略法務の概要と予防法務・臨床法務との違いについて説明します。

  1. (1)戦略法務とは

    戦略法務は、「攻めの法務」とも呼ばれ、会社の成長のために経営戦略を法的にサポートする業務をいいます。具体的には、新規事業の立ち上げ、M&A、海外展開などの新たな企業戦略を実践する際に、法的側面からサポートするのが戦略法務とされています。

    企業が成長・発展していくためには、既存のビジネスを進めるだけでなく、市場のグローバル化に対応するための海外展開やM&A取引が必要になってきます。経営者の方は、現状の満足するのではなく、戦略法務を充実させ、攻めの経営戦略を進めることも検討すべきでしょう。

  2. (2)予防法務や臨床法務との違い

    ① 予防法務
    予防法務とは、企業が法的紛争やトラブルに巻き込まれないよう予防することを目的として行われる業務です。戦略法務が「攻めの法務」と呼ばれるのに対して、予防法務は「守りの法務」と呼ばれます。

    予防法務の具体的な業務としては、以下のものが挙げられます。

    • 契約書などのレビューやリスク評価
    • 法規制や法改正のチェック
    • 就業規則など社内規定の整備や見直し
    • 法令順守やコンプライアンス教育などの社内研修
    など


    ② 臨床法務
    臨床法務とは、法的紛争やトラブルが発生した場合にその被害を最小限に抑えることを目的として行われる業務です。臨床法務も予防法務と同様に「守りの法務」に分類されるものになります。

    臨床法務の具体的な業務としては、以下のものが挙げられます。

    • クレーム対応
    • 訴訟対応
    • 行政処分や行政指導への対応
    • 再発防止策の検討、実施
    • 事業縮小や倒産処理
    など


    このように予防法務や臨床法務は、企業に生じる不利益を回避し、被害を最小限に抑えることを目的とするものですが、戦略法務は、企業の利益を最大化することを目的に行われるものになりますので、それぞれが目指す方向性は大きく異なります。

    なお、法務が予防法務的な側面を常に持つのは当たり前です。そこに加えて、戦略法務的な視点を加えると、たとえば各国の規制法などを前提に、どこにどのような拠点を置くか、おどのような事業形式で想定している商品やサービスを扱うかの、当初の戦略まで考えることになってきます。

2、戦略法務を取り入れるメリット

企業が戦略法務を取り入れるメリットには、以下のようなものがあります。

  1. (1)市場のグローバル化に対応できる

    市場のグローバル化により、貿易を通じた商品やサービスの取引や海外への投資などが増加しています。このような市場のグローバル化に対応するには、国内での取引だけではなく、海外にも目を向ける必要があります。

    しかし、従来の予防法務中心の企業法務では、利益を増やす戦略的な企業経営という観点からは十分な成果を上げることができません。

    これに対して、戦略法務を取り入れれば、新規事業や海外展開を実施するにあたって生じるリスクを最小限に抑えながら、利益を最大化することが可能になります。

  2. (2)事業の安定性の向上

    戦略法務では、ビジネスのリスクを適切に評価し、それを管理するための仕組みを確立していきますので、事業の安定性を向上させることが期待できます。

    従来の予防法務に戦略法務の視点を組み合わせることで、予防と発展という異なる概念を融合した企業法務を展開することが可能になります。企業の継続的な発展には、リスクを最小限におさえることももちろん大切ですが、利益を最大化することも重要になりますので、戦略法務を積極的に取り入れていくようにしましょう。

3、戦略法務の実践方法

戦略法務の主な業務としては、以下のようなものが挙げられます。それぞれの業務ごとの戦略法務の実践方法をみていきましょう。

  1. (1)新規取引・新規事業のサポート

    新規取引や新規事業を行う際に、その法的リスクを事前に検討して、それを最小限に抑えるという業務は、戦略法務の重要な内容となります。

    法的紛争やトラブルを未然に防ぐという点では、予防法務に近い部分もありますが、新たなビジネス展開に向けた積極的な提案をしていくという点で予防法務とは異なる役割があります。

    具体的には、以下のような形で、新規取引や新規事業のサポートを行っていきます。

    • 必要な許認可の取得
    • 新規取引先との契約の締結
    • 担当部署の体制整備
    • 業務マニュアルなどの作成
    など


    新規取引や新規事業にあたっては、戦略法務を担当する法務部門がメンバーに加わりますが、新規取引や新規事業が軌道に乗った後は、予防法務や臨床法務という形でかかわっていきます。

  2. (2)M&Aのサポート

    M&Aにより自社の経営戦略やニーズにマッチした企業を買収することができれば、経営の効率化や競争力の強化を図ることができます。

    M&Aの規模によっては、巨額な資金が必要となり、実施後の影響力も大きいため、徹底した事前調査(デューデリジェンス)が必要になります。

    M&Aにおいて、戦略法務は、以下のようなサポートを行っていきます。

    • 買収スキームの作成、決定
    • デューデリジェンス
    • 契約書の作成
    など


    M&Aでは戦略法務が担う役割は非常に大きく、戦略法務のサポートなしではM&Aを成立させることは困難といえるでしょう。

  3. (3)知的財産の取得と活用

    企業が独自に開発した技術や商品・サービスなどは企業の重要な財産となります。このような知的財産を活用して、企業価値を高めるのが戦略法務の役割となります。

    自社の知的財産が侵害されている場合には、侵害を排除するために訴訟手続きを検討することも必要になるでしょう。

  4. (4)海外展開のサポート

    海外展開のサポートも戦略法務の重要な役割のひとつとなります。

    海外展開で、戦略法務が行うべきサポートとしては、以下のようなものが挙げられます。

    • 英文契約書のレビュー
    • 現地の法規制や商慣習の調査
    • 法人設立や従業員の雇用のサポート
    など


    近年では、市場のグローバル化が進んでいますので、海外展開を成功させるためには、諸外国の法令や商慣習に精通した戦略法務担当者の存在が不可欠といえます。

4、戦略法務を実現できる顧問弁護士の選び方

企業の戦略法務は、顧問弁護士を利用することで実現が可能です。以下では、戦略法務を実現できる顧問弁護士の選び方を紹介します。

  1. (1)経営者の立場やビジネスへの理解

    予防法務や臨床法務については、一般的な企業法務を担当する弁護士であれば対応が可能ですが、戦略法務については、経営上の積極的な提案や改善などが役割として求められますので、経営者の立場やビジネスへの理解が不可欠となります。

    弁護士に相談をする際に、経営に関する議論を交わすことができるかどうか、業界特有の法規制や商慣習についての理解があるかどうかを見極めるのが弁護士選びの重要なポイントとなります。

  2. (2)明朗な費用体系

    顧問弁護士を利用するには、毎月の顧問料の支払いが必要になります。また、実際にM&Aなどの対応をしてもらうには、顧問料とは別に弁護士費用が必要になります。

    企業内に新たに戦略法務を担当する法務部門を立ち上げるよりも、顧問弁護士を利用した方が法務コストを低く抑えることができますが、どの程度の費用がかかるのかが明確でなければ安心して依頼することができません。

    そのため、戦略法務を実現できる顧問弁護士を探すときは、相談時に顧問料や弁護士費用などを明確に示してくれるところを選ぶとよいでしょう。

  3. (3)戦略法務の経験や実績

    企業法務を取り扱う弁護士であっても、主に取り扱うのが予防法務や臨床法務という場合には、戦略法務を実現は期待できません。戦略法務を実現できる顧問弁護士を探すときは、企業法務という広い概念ではなく、「戦略法務」の経験や実績があるかどうかを判断のポイントにするとよいでしょう。

    なお、法律事務所のホームページなどで戦略法務の経験や実績などが掲載されているようであれば、経験法務を得意とする弁護士といえます。

5、まとめ

戦略法務は、企業が継続的に成長・発展していくために不可欠な法務となります。適切な戦略法務を実現するためには、法的な知識や経験が重要です。

企業内部で適切な人材を確保するのが難しいときは、顧問弁護士に戦略的法務を依頼するのがおすすめです。戦略法務を実現できる顧問弁護士をお探しの経営者の方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています