民泊を行うために知っておくべきこととは? 民泊で起こりやすいトラブルとその対応
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新宿では多くの外国人観光客を見かけます。政府は観光立国を目指しており、外国人誘致のための積極的施策を行った結果、外国人旅行者は飛躍的に増加しました。他方で、宿泊施設不足が深刻化しており、特に外国人旅行者は長期間滞在するため低コストである民泊の需要は大きいといえます。
そのため、自宅やマンションの空き部屋などを利用して民泊をはじめる方も多くなりました。しかし、文化の違いもあり、近隣住民とのトラブルや部屋の使用方法に関するトラブルなども発生しています。
そこで、今回は、民泊経営をする際の手続きやよくあるトラブル、また、トラブルとならないための対策などについてベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説していきます。
1、民泊を行うために知っておくべきこと
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(1)民泊とは?
「民泊」という言葉の法律上の明確な定義はありませんが、一般的に自宅、空き別荘、マンションの一室などを旅行者などに有償で貸し出すサービスのことをいいます。インターネットが普及したことによって、個人でも情報を発信し、また、その連絡を受けることができるようになったことから、急速に普及しています。
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(2)民泊が注目されている理由
平成18年12月に観光立国推進基本法が成立し、日本では国を挙げて観光客の誘致に取り組んでいます。その結果、独立行政法人国際観光振興機構の資料によると、日本を訪れた外国人観光客の数は、平成21年には678万9658人だったものが、平成30年には、3119万1856人と直近10年間で4.6倍も増えています。
それに対し、宿泊施設数は、観光庁の資料によると平成21年が8万4411軒だったのが、平成30年には8万2150軒と減少しています。オリンピック需要なども見込んでホテル数は増えているものの旅館は大幅に減少しており、全体的に宿泊施設が足りない状態になっています。
そこで注目されたのが「民泊」です。訪日外国人観光客の宿泊施設不足を民泊によって補おうというわけです。政府も民泊市場の拡大を推進しつつ、健全な運営を行うよう法整備を進めてきました。また、社会問題化している空き家対策にもつながることからも民泊は期待されています。最近の流行のシェアリング・エコノミーの考え方にも合致し、空いているスペースを有効活用できるということで、民泊ブームが起こりました。 -
(3)民泊の種類
●旅館業法の簡易宿所営業
「簡易宿所営業」とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものをいいます(旅館業法第2条第2号)。「簡易宿所営業」を営もうとする者は都道府県知事の許可を受けなければなりません(旅館業法第3条第1項)。客室数に規制はありませんが、客室の延床面積が33平方メートル以上(宿泊者数を10人未満とする場合には、3.3㎡に当該宿泊者の数を乗じて得た面積以上)必要になります。なお、フロントの設置は条例がなければ不要です。
「簡易宿所営業」の許可を得れば、365日間民泊を運営することができます。これが最大のメリットです。また、Expedia、Booking.com、楽天トラベルなどのサイトにも掲載できるので、集客の点でも有利になります。
●特区民泊
特区民泊とは、「国家戦略特別区域(通称、国家戦略特区)」として「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」を定めた区域で行う民泊のことを指します。国家戦略特区に指定されている自治体が条例を定め、都道府県知事が認定した施設については、特例として旅館業法の適用除外を受けられるという仕組みです。現在特区民泊を実施している地域は、東京都大田区、北九州市、新潟市、千葉市、大阪府、大阪市、八尾市になります。
特区民泊の認定を受けるためには、一居室の床面積が25㎡以上であること、近隣住民との調整や滞在者名簿の備え付けが義務付けられること、施設の使用方法に関する外国語を用いた案内や緊急時における外国語を用いた情報提供が必要、などの条件があります。また、宿泊数に下限があり、2泊3日以上の宿泊が必要になります。特区民泊は、国家戦略特区でなければ活用ができない、条例によって2泊未満の宿泊者は受け入れができないといったデメリットがあるものの、簡易宿泊所営業に比べ手続きが簡単でコストもかからないため、国家戦略特区に該当している場合には検討するとよいでしょう。
●住宅宿泊事業法
旅館業法や特区の活用だけでは民泊需要に応えることはできず、このままではヤミ営業が増えてしまうという懸念があったことから、「住宅宿泊事業法」が2017年6月に可決されました。「住宅宿泊事業法」は「民泊新法」とも呼ばれています。
住宅宿泊事業法は、2018年6月15日に施行され、住宅宿泊事業者は、都道府県知事に「届出」さえすれば、旅館業法の許可がなくとも民泊を運営することが可能になりました。
ただ、1年間の営業日数の上限が180日と少ないため、本格的に事業を行うと考えると収益の面で厳しいといえます。また、衛生確保措置、騒音防止のための説明、苦情への対応、宿泊者名簿の作成と備え付け、標識の掲示などが義務付けられます。
●その他
この他、一時的なイベントの開催時に自宅を提供する「イベント民泊」や農村地域の方々との交流を楽しむ「農泊」などがあります。
このように、民泊と言ってもいろいろな種類があります。事業としてしっかりやっていきたいということであれば、365日営業できる「簡易宿所営業」、特区の地域にある場合には「特区民泊」、副収入として民泊事業を行いたいのであれば「住宅宿泊事業法民泊」というように、事業スタイルに合わせて選択する必要があります。これらの手続きをせずに民泊をすれば違法営業になりますので注意してください。
2、民泊を行うための手続き
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(1)旅館業法の簡易宿所営業
簡易宿所の営業許可取得までの手続きは、①事前相談、②許可申請、③現地検査、④許可という流れになります。①事前相談は、許可申請をする前に申請が無駄にならないように、事前に各地方自治体の保健所や担当課に対し事前に相談しておくということです。②許可申請にあたっては、許可申請書と施設の図面、その他、自治体の条例で定める書類の提出が必要になります。③現地検査では、施設が基準に適合しているかを実際に確認するため保健所職員などによる立ち入り検査が行われます。これらを踏まえ許可が得られれば営業を開始することができます。
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(2)特区民泊としての営業
特区民泊の認定取得までの手続きは、①事前相談、②消防署などの関係部署と調整、③近隣住民への周知、④認定申請、⑤現地調査、⑥認定という流れになります。簡易宿泊営業との違いは、消防署などとの調整が必要なことと近隣住民への説明がある点です。これだけ見ると特区民泊の方が手続きの面で大変のように思いますが、簡易宿泊営業の方が設備などの条件が厳しいので、特区民泊の方が認定を取得するのは簡単です。
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(3)住宅宿泊事業法による営業
住宅宿泊事業を営もうとする者は、住宅宿泊事業届出書に必要事項を記入の上、必要な添付書類と合わせて、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等に届け出る必要があります。なお、住宅宿泊事業の届出は、原則として民泊制度運営システムを利用して行うこととしています。届出なので行政庁の許可や認定を受ける必要はありません。都道府県にて届出書類の確認が完了すると、届出番号を記載した標識が発行されます。事業を行う際には、標識を公衆の見やすい場所に掲示する必要があります。
3、民泊で起こりやすいトラブル事例
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(1)近隣住民とのトラブル
民泊で一番問題になるのが近隣住民とのトラブルです。マンションの一室を民泊で利用する場合、ホテルなどと異なり、隣の部屋は一般の住民ということになります。居住する場合、長く住むことから近隣への配慮も生まれますが、一時的な利用である民泊の場合、そのような配慮は期待できません。共有スペースでの大声での雑談、深夜に部屋で騒いだり、ゴミ出しのルールを守らずゴミが捨てられたりするなどの問題が生じることがあります。
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(2)衛生上の問題
ホテルの場合、毎日ハウスキーパーが掃除を行い、衛生管理が徹底されています。他方、民泊の場合、衛生管理をすることは義務付けられていますが、毎日掃除するかどうかはオーナー次第となります。特にキッチンやトイレは掃除を怠ると衛生上問題が発生しやすく、感染病発症のリスクが高まります。
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(3)犯罪の拠点となる
ホテルの場合、犯罪者などの情報は警察から連絡があるので、見つけた場合にはすみやかに警察に連絡することが可能です。しかし、民泊の場合には、犯罪者の情報は警察より連絡されないため、犯罪者に隠れ家として利用されるおそれがあります。また、監禁場所や違法薬物の保管場所として利用されるなど犯罪の拠点にされてしまうことも考えられます。
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(4)設備の破壊や備品の盗難
民泊は、ホテルなどと異なり人の目が行き届かないことから、利用者のモラルも低下しがちです。そのため、設備や備品が壊されたり、タオルなどの備品を持ち帰られたりするなどのトラブルが生じることがあります。
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(5)場所がわからない
ホテルなどの場合、地図にも名称があるし、看板などもあるので道に迷うことは少ないですが、民泊の場合、普通の民家やマンションなので地図には載っておらず、看板もないので場所がわかりにくいという問題があります。
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(6)喫煙トラブル
禁煙として部屋を提供してもそれを守らず喫煙してしまうという問題があります。一度喫煙してしまうと、消臭するのが大変で次の宿泊客からクレームが来ることがあります。ホテルであれば他の部屋を提供するなどで対処できますが、民泊の場合、多くの部屋があるわけではないので、営業に支障がでます。
4、民泊を運営するなら弁護士へ相談
どのような種類の民泊を運営するかによって、手続きや罰則も異なりますが、たとえば、住宅宿泊事業法による営業を行う場合で虚偽の届出をした場合には、法定刑は6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金となっています。民泊開業のための行政庁への申請手続きは、結構手間の掛かるものなので、行政書士や弁護士に依頼するのもひとつの方法です。
また、民泊によるトラブルを避けるためにも、利用規約の作成や備品の持ち去りや設備の破壊の場合には損害賠償として一定のペナルティーがあることを事前に示すなどの対策も必要になります。これらは法的な観点から作成する必要があるので、開業前に弁護士に相談しておくとよいでしょう。
さらに、民泊の事業開始後もさまざまなトラブルが発生することが予想されますし、最悪の場合には訴訟に発展することもあるでしょう。このような場合に備えて、弁護士と顧問契約をしておくと安心です。
5、まとめ
今回は、現在注目されている民泊について、開業するための手続きや開業後のトラブルなどについて見てきました。使っていない部屋や建物を有効活用することができるという意味で不動産の所有者にとってメリットがあり、利用者側にもホテルに比べ安価に泊まれるというメリットがあります。
2020年は東京でオリンピックも開催されますし、今後も、宿泊業界についてはインバウンド需要が期待できることから、これから民泊を始めたいと思われている方も多いと思います。一方で、トラブルに巻き込まれるのではないかと心配する方もいると思います。
そのような不安を解消したい場合には、顧問弁護士サービスを利用するのがおすすめです。ベリーベスト法律事務所は、全国対応32拠点、顧問契約数1200社以上。弁護士が180名以上在籍しており、業種別に専門チームがあります。月額3980円からと手頃なプランも用意していますので、顧問契約について関心がありましたら、ご検討ください。
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