交通事故で治療期間の数え方を間違えると慰謝料額が変わるって本当?
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令和5年に東京都新宿区で発生した交通人身事故は1092件であり、死者は7名、負傷者は1199名でした。
交通事故によるケガの治療期間は、入通院慰謝料の金額に直接影響します。正しい治療期間に基づき、適正額の入通院慰謝料を請求しましょう。
今回は、交通事故によるケガの治療期間の数え方(計算方法)や、治療期間が交通事故の慰謝料に与える影響などについて、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和5年の交通人身事故発生状況」(警視庁)
1、交通事故の治療期間の数え方(計算方法)
交通事故の治療期間は、加害者に請求できる入通院慰謝料の金額に影響します。治療期間の計算方法は、入通院慰謝料の計算に用いる算定基準によって異なるため、確認していきましょう。
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(1)自賠責保険基準|実通院日数または総治療期間で計算
「自賠責保険基準(自賠責基準)」は、自賠責保険から支払われる保険金額を算定する基準です。
自賠責保険基準によって入通院慰謝料を計算する場合、治療期間(対象日数)は以下の①②のいずれか短い方となります。① 実通院日数×2
② 総治療期間
(例)- 総治療期間が90日、その間の実通院日数が30日の場合
→治療期間(対象日数)は60日(①で計算) - 総治療期間が90日、その間の実通院日数が50日の場合
→治療期間(対象日数)は90日(②で計算)
自賠責保険基準に基づく入通院慰謝料の計算式は、以下のとおりです。
入通院慰謝料=4300円×対象日数
(例)
総治療期間が90日、その間の実通院日数が30日の場合、治療期間(対象日数)は60日。
したがって、入通院慰謝料は25万8000円(=4300円×60日) - 総治療期間が90日、その間の実通院日数が30日の場合
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(2)任意保険基準|保険会社が独自に計算
「任意保険基準」は、任意保険から支払う保険金額を算出するため、各保険会社が独自に設けている算定基準です。任意保険基準は非公開であり、その内容は保険会社によって異なります。
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(3)裁判所基準(弁護士基準)|治療期間で計算
「裁判所基準(弁護士基準)」は、過去の裁判例に基づき、被害者に生じた客観的な損害額を算定する基準です。
裁判所基準(弁護士基準)によって入通院慰謝料を求める場合、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通称:赤い本)の別表Ⅰまたは別表Ⅱに従い、入院期間と通院期間の合計(治療期間)を用いて金額を計算します。
別表I(骨折などの重症時)(単位:万円)入院期間 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 通院期間 0 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338 10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335 11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332 12月 154 183 211 236 260 250 298 314 326 13月 158 187 213 238 262 282 300 316 14月 162 189 215 240 264 284 302 15月 164 191 217 242 266 286
別表II(むちうち症、打撲、捻挫などの軽傷時)(単位:万円)
入院期間 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 通院期間 0 35 66 92 116 135 152 165 176 186 195 204 1月 19 52 83 106 128 145 160 171 182 190 199 206 2月 36 69 97 118 138 153 166 177 186 194 201 207 3月 53 83 109 128 146 159 172 181 190 196 202 208 4月 67 95 119 136 152 165 176 185 192 197 023 203 5月 79 105 127 142 158 169 180 187 193 198 204 210 6月 89 113 133 148 162 173 182 188 194 199 205 211 7月 97 119 139 152 166 175 183 189 195 200 206 212 8月 103 125 143 156 168 176 184 190 196 201 207 213 9月 109 129 147 158 169 177 185 191 197 202 208 214 10月 113 133 149 159 170 178 186 192 198 203 209 11月 117 135 150 160 171 179 187 193 199 204 12月 119 136 151 161 172 180 188 194 200 13月 120 137 152 162 173 181 189 195 14月 121 138 153 163 174 182 190 15月 122 139 154 164 175 183
(例)- 骨折、入院1か月、通院4か月の場合
→入通院慰謝料は130万円 - 打撲、入院なし、通院1か月の場合
→入通院慰謝料は19万円
- 骨折、入院1か月、通院4か月の場合
2、治療期間が交通事故の慰謝料に与える影響
交通事故の治療期間が影響するのは、損害賠償項目のうち「入通院慰謝料」です。
また、「後遺障害慰謝料」を請求する際にも、治療期間が間接的に影響する場合があります。
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(1)入通院慰謝料|金額に直接影響する
自賠責保険基準・裁判所基準(弁護士基準)によれば、入通院慰謝料は、いずれも治療期間を用いて計算することになっています。任意保険基準の場合も、基本的には同様と考えられます。
したがって、適正額の入通院慰謝料を請求するためには、医師の指示に従ってコンスタントに治療へ通うことが必要不可欠です。 -
(2)後遺障害慰謝料|短すぎると認定されにくくなる
交通事故の後遺症が残った場合、被害者は加害者に対して「後遺障害慰謝料」を請求できます。
後遺障害慰謝料の金額は、後遺症の部位・症状などに応じて認定される後遺障害等級に応じて決まります。治療期間については、後遺障害慰謝料の金額に直接影響するわけではありません。
ただし、治療期間があまりにも短い場合には、後遺障害等級の認定を受けることができず、結果として後遺障害慰謝料の請求が認められない可能性があります。
また、後遺障害等級の認定を申請するに当たっては、医師の作成する後遺障害診断書が重要となりますので、きちんと医師の指示に従って通院しましょう。
3、交通事故の慰謝料請求は、弁護士に依頼すると増額の可能性あり
前述のとおり、交通事故の損害賠償算定基準には「自賠責保険基準」「任意保険基準」「裁判所基準(弁護士基準)」の3種類があります。
このうち、損害賠償がもっとも高額となるのが「裁判所基準(弁護士基準)」です。裁判所基準(弁護士基準)は過去の裁判例に基づいており、被害者としては、裁判所基準(弁護士基準)により損害賠償を請求するのがもっとも有利となります。
たとえば、以下の設例を考えます。
- 骨折
- 入院1か月(=30日)
- 通院4か月(=120日、実通院日数は30日)
設例のケースでは、自賠責保険基準に基づく入通院慰謝料は38万7000円(=4300円×90日)です。任意保険基準に基づく入通院慰謝料も、自賠責保険基準の金額をやや上回る程度と考えられます。
これに対して、裁判所基準(弁護士基準)に基づく入通院慰謝料は130万円です。自賠責保険基準に比べると、90万円以上の増額となります。
被害者本人が裁判所基準(弁護士基準)に基づく請求を行っても、加害者側の任意保険会社に難色を示されるケースが大半です。その場合は、弁護士に示談交渉をご依頼ください。
弁護士が法的根拠を示して請求を行うことにより、任意保険会社が弁護士基準に基づく支払いに応じる可能性が高まります。
4、交通事故対応を弁護士に依頼するメリット
交通事故の損害賠償請求は、以下のメリットから弁護士に依頼するのがおすすめです。
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(1)適正額の損害賠償を請求できる
前述のとおり、弁護士に損害賠償請求を依頼することで、裁判所基準(弁護士基準)に基づく適正額の損害賠償を得られる可能性が高まります。
裁判所基準(弁護士基準)とその他の基準では、損害賠償額の差が数百万円から数千万円に及ぶケースもあります。任意保険会社の提示額を鵜呑みにせず、適正額の損害賠償を獲得するため、できる限り早めに弁護士へご相談ください。 -
(2)自分で交渉する必要がなくなる
ケガの治療や日々の生活の傍らで、交通事故の示談交渉を被害者自ら行うのは大変でしょう。また任意保険会社は、交通事故の損害賠償請求を専門的に取り扱っているため、示談交渉の相手方としてはかなり手ごわいです。
弁護士にご依頼いただければ、交通事故の示談交渉を被害者自ら行う必要がなくなります。交渉に要する労力が軽減されるほか、法的な根拠に基づく主張を行うことで、経験豊富な任意保険会社とも対等以上に議論することが可能となります。 -
(3)弁護士費用特約があれば実質無料で依頼できる
弁護士費用の支払いが難しい場合には、自動車保険などに弁護士費用特約が付帯されているかどうかを確認しましょう。
弁護士費用特約が適用されれば、交通事故の弁護士費用につき、300万円程度を上限として保険金が支払われます。損害賠償請求の金額にもよりますが、実質無料で弁護士に依頼できる場合が多いです。
なお弁護士費用特約は、本人が加入している保険だけでなく、家族が加入している保険に付帯されたものも利用できる場合があります。
交通事故の損害賠償請求に当たっては、弁護士費用特約のご利用をご検討ください。
5、まとめ
交通事故の治療期間は、加害者に請求できる入通院慰謝料の金額に直結します。適正額の入通院慰謝料を請求するため、医師の指示に従って継続的に通院しましょう。
なお、治療費は加害者に対して全額請求可能です。
交通事故の損害賠償請求を行う際には、弁護士へのご相談をおすすめいたします。弁護士が法的根拠に基づく請求を行うことで、適正額の損害賠償を獲得できる可能性が高まります。
ベリーベスト法律事務所は、交通事故の損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けております。交通事故の被害に遭われた方は、お早めにベリーベスト法律事務所 新宿オフィスへご相談ください。
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