孫への生前贈与|教育資金援助の場合の非課税や注意点
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子どもや孫に対して教育資金の援助をしようと考えている方の中には、「贈与税がかかるのではないか」など税金に関して心配している方もいるでしょう。
一般的には、生前贈与をした場合には、贈与額に応じて贈与税が課税されることになりますが、教育資金に関しては、一定の要件を満たす場合に限り、最大で1500万円までを非課税で贈与することが可能です。
教育資金贈与の制度を利用することによって、贈与税の負担だけでなく、将来の相続税の負担を軽減する効果もありますので、相続対策としても有効な手段です。今回は、教育資金贈与と贈与税の関係について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、教育資金とは、どのようなもの?
教育資金に関しては、贈与税が非課税となる制度が存在します。では、非課税となる教育資金にはどのようなものが含まれるのでしょうか。以下では、教育資金の範囲について説明します。
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(1)1500万円までの非課税枠の対象となる資金
学校などに対して直接支払われる以下のお金については、1500万円までの範囲であれば非課税となります。学校などに「直接」支払われることが必要になりますので、学校で必要な費用であっても、個人が直接業者に支払う費用に関しては、1500万円までの非課税枠の対象とはなりません。
- 入学金、授業料、入園料、保育料
- 施設設備費、教育運営費、教育充実費
- 修学旅行費、遠足費
- 入学検定料
- 在学証明書、卒業証明書、成績証明書などの手数料
- PTA会費、学級会費、生徒会費
- 学校の寮費
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(2)500万円までの非課税枠の対象となる資金
上記のように学校などに対して直接支払われるお金以外であっても、社会通念上相当と認められる以下のお金については、500万円までの範囲内であれば非課税となります。
① 塾や習い事など学校以外に直接支払われる費用- 教育(学習塾、そろばんなど)に関する対価や施設使用料
- スポーツ(水泳、野球など)や文化芸術(ピアノ、絵画など)などの向上のための指導への対価
② 物品の販売店などに支払われる費用- 教科書、副教材費、教科教材費(リコーダーなど)
- 学校指定の学用品費(制服、体操着、上履き、通学かばんなど)
- 卒業アルバム費用、卒業写真・行事写真代金
- 修学旅行、林間学校などの校外活動費
- 給食費
- 通学定期券代
2、生前贈与の非課税と教育資金
教育資金の贈与に関しては、一定の範囲まで非課税となる特別な制度が存在します。以下では、教育資金一括贈与の制度について説明します。
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(1)教育資金一括贈与とは
教育資金一括贈与とは、正式名称を「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」といい、両親や祖父母などから子どもや孫に対して教育資金を一括贈与する場合に、最大で1500万円まで贈与税が非課税になるという制度です。
非課税枠は、子どもや孫ごとに設定されています。たとえば、2人の孫に対して教育資金の一括贈与をする場合には、2人あわせて最大3000万円までの贈与資金が非課税となります。
教育資金一括贈与を利用することによって、贈与税の負担なく子どもや孫に教育資金を渡すことが可能です。また、教育資金一括贈与によって、手元の資産を減らすことができますので、将来の相続税の負担を軽減するという効果も期待できます。 -
(2)教育資金一括贈与を利用するための要件
教育資金一括贈与の制度を利用するためには、以下の要件を満たす必要があります。
① 直系尊属からの贈与であること
教育資金一括贈与によってお金を渡すことができるのは、受贈者の直系尊属にあたる方が贈与者になる場合に限られます。たとえば、子どもや孫からみて、自分の両親、祖父母などが直系尊属にあたります。おじやおばから贈与を受けたとしても、直系尊属からの贈与にはあたりませんので、教育資金一括贈与の適用はありません。
② 受贈者が30歳未満であること
教育資金一括贈与の制度を利用するためには、教育資金をもらう受贈者が30歳未満であることが必要になります。
③ 受贈者の所得金額1000万円以下であること
平成31年の法改正によって、教育資金一括贈与を利用する場合において、受贈者に所得制限が設けられることになりました。その結果、平成31年4月以降に贈与する分については、受贈者の所得が1000万円を超えている場合には、非課税とはならなくなります。
④ 金融機関に専用口座の開設
教育資金一括贈与によって教育資金を贈与する場合には、贈与者から受贈者に直接お金を渡すということはできず、必ず金融機関に専用の教育資金口座の開設をする必要があります。口座の開設は、教育資金贈与信託を取り扱っている金融機関でのみ可能です。
⑤ 期限
教育資金一括贈与は、令和5年3月31日までに行われる贈与が対象となります。
3、教育資金の生前贈与で注意するべき点
教育資金一括贈与の制度を利用して教育資金の生前贈与をする場合には、以下の点に注意が必要です。
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(1)使い切れなければ贈与税が課税される
教育資金一括贈与の制度を利用して教育資金の贈与を受けた場合には、受贈者が30歳になるまでに教育資金を使い切る必要があります。受贈者が30歳になった時点で、教育資金に余りがあった場合には、余った金額に対して贈与税が課税されることになります。
ただし、受贈者が30歳になったとしても、その時点で学校などの在籍している場合には、例外的に卒業をする年の年末または40歳まで期限が延長されます。 -
(2)お金を引き出す際に領収書などが必要
受贈者名義の教育資金口座に入れられたお金であっても、受贈者が自由に引き出せるというわけではありません。受贈者がお金を引き出すためには、教育資金口座を開設している金融機関に対して領収書を提出する必要があります。
領収書を提出して、教育資金への支出に充てられたと認められた場合に限って、口座からお金を引き出すことが可能です。 -
(3)贈与者が途中で死亡した場合には相続税が課税される
教育資金の信託をした日から教育資金管理契約終了の日までの間に、贈与者が死亡した場合には、その時点の教育資金の残額について受贈者に相続税が課税されることになります。そして、教育資金の贈与を受けたのが、孫やひ孫など相続人以外であった場合には、相続税額が2割加算されることになるため、注意が必要です。
ただし、受贈者が以下に該当する場合には、相続税の課税対象外となります。
- 受贈者が23歳未満である場合
- 受贈者が学校などに在学している場合
- 受贈者が教育訓練給付金支給対象となる教育訓練の受講をしている場合
4、相続対策は弁護士へ相談
教育資金一括贈与を含め、相続対策をお考えの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)相続人同士の争いを回避
生前に適切な相続対策を講じておくことによって、相続人同士の争いを回避することができる場合があります。
たとえば、被相続人の遺産を分けるためには、相続人全員による遺産分割協議を行う必要がありますが、相続人に認知症の方や行方不明の方がいる場合、そのままの状態では遺産分割を進めることができません。遺産分割を進めるためには、成年後見人の選任や不在者財産管理人の選任という面倒な手続きをとらなければならず、残された相続人にとって大きな負担となります。
このような場合には、あらかじめ遺言書を作成しておくことによって、相続人の負担を軽減することが可能です。遺言書は、法律上の要件をひとつでも欠いてしまうと無効になってしまいますので、そのようなリスクを減らすためにも専門家である弁護士に遺言書の作成をサポートしてもらうとよいでしょう。 -
(2)節税対策によって相続税の負担を軽減
相続財産が相続税の基礎控除(3000万円+600万円×相続人の数)を上回る可能性がある場合には、相続税の申告と納税が必要になります。しかし、生前にしっかりと対策を講じておくことによって、将来相続人が納める相続税の負担を軽減することも可能です。
今回ご紹介した教育資金一括贈与も相続税の節税対策として有効な手段ですが、それ以外にもさまざまな制度や特例が存在しています。個別具体的な事案に応じて適切な制度や特例を選択することによって、大幅に相続税の負担を軽減することも可能です。
適切な節税対策は、具体的な状況によって異なってきますので、まずは、どのような対策が最適であるかを弁護士に判断してもらうとよいでしょう。 -
(3)納税資金の確保
相続人が相続税の負担をすることになった場合には、どのように支払うかが問題となります。相続人自身に相続税を負担するだけの余裕がある場合や相続財産に十分な現金・預貯金が含まれている場合には、心配は少ないですが、そうでない場合には、期限までに相続税を支払うことができないかもしれません。
相続財産の大部分が不動産であるという場合には、生前に売却して現金化しておくことによって将来の納税資金を確保することができます。また、生命保険に加入して死亡保険金の受取人を相続人に指定しておくことも有効な対策です。
このような納税資金の確保の対策を考える場合にも、法律に詳しい弁護士のサポートが必要になります。
5、まとめ
子どもや孫に対して教育資金を渡したいという場合には、教育資金一括贈与の制度を利用することによって贈与税の負担なく教育資金の贈与が可能になります。もっとも、贈与税の負担を回避することができるという反面、手続きの利用にあたっては複雑な要件がありますので、間違いなく進めていくためにも専門家のサポートが必要になるでしょう。
教育資金の贈与や将来の相続対策をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
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