無償で借りていた土地は相続の対象外? 使用貸借と相続の関係
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相続財産のうち評価額で大きな割合を占めるものとして不動産があります。
新宿区の公示地価は、平均349万9692円/平方メートル(令和2年)で、全国5位の金額です。もし、新宿区内に不動産を有する方が亡くなった場合には、相続財産の総額が高額になることが予想されます。
さて、相続財産における不動産には、被相続人が所有していた不動産以外にも、他人に貸している物や借りている物も含まれています。「自分の親の土地だと思っていたが、親が亡くなり調べてみたところ、親戚から無償で借りている土地に家を建てていたことがわかった」ということも少なくありません。
このように、他人の土地を無償で借りていた場合、相続においてどのように取り扱われることになるのでしょうか? 今回は、無償で借りていた土地が相続の対象となるかについて、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、使用貸借と賃貸借の違い
土地を借りている場合に「使用賃借」という言葉を耳にすることもあるかもしれませんが、よく似た言葉に「賃貸借」というものがあります。それぞれ、どのような契約のことをいうのでしょうか。
まずは、使用貸借と賃貸借の内容および両者の違いについて確認していきましょう。
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(1)使用貸借とは
使用貸借は、無償で借りる、という契約です。
使用貸借について、民法593条は、「使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる」と規定しています。
たとえば、親の土地を無償で借りて、子どもが家を建てるような場合が挙げられます。 -
(2)賃貸借とは
賃貸借は、お金を払って借りる、契約のことです。
賃貸借について民法601条は、「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる」と規定しています。
家賃を払ってアパートを借りるというような場合が典型的なケースです。 -
(3)使用貸借と賃貸借の違い
使用貸借と賃貸借については、上記のとおり、物を借りるという共通点があるものの、無償か有償かという違いがあります。そのほかの違いについてまとめると以下のとおりです。
使用貸借契約 賃貸借契約 契約の成立 諾成契約(民法改正前は要物契約) 諾成契約 有償・無償 無償 有償 貸主の修繕義務 修繕義務なし 修繕義務あり 借主が死亡した場合 契約は終了する 契約は終了しない 対抗力 対抗力なし 対抗力あり 借地借家法の適用 適用なし 適用あり
相続との関係では、借主が死亡した場合に契約が終了するかどうかがポイントです。詳細について、次の項目で説明します。
2、使用貸借は相続の対象にならない?
賃貸借契約は、貸主又は借主が死亡したとしても終了しませんので、相続の対象となります。では、使用貸借の場合はどうでしょうか?
以下では、使用貸借の借主が死亡した場合と貸主が死亡した場合に分けて説明します。
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(1)使用貸借の借主が死亡したケース
使用貸借の借主が死亡した場合について、民法597条3項は「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」と規定しています。したがって、使用貸借の借主が死亡した場合には、その時点で契約が終了するため、原則として、使用貸借を相続するということはありません。
使用貸借には、賃貸借と異なり、無償で物を貸すという特徴があります。借主が一方的に利益を得る契約であるため、個人的な信頼関係や特別な人間関係を基礎として契約が成立していると考えるのが自然です。
そのため、借主が死亡し、貸主と面識のない借主の相続人が契約を承継するとなると、貸主が不測の不利益を被るおそれがあることから、借主の死亡によって契約が終了すると定められています。
一方、賃貸借契約の場合には、借主が死亡したとしても、その相続人によって賃料が支払われるのであれば貸主には不利益はないため、原則として相続の対象です。 -
(2)使用貸借の貸主が死亡したケース
使用貸借の借主が死亡した場合については民法に規定がありますが、貸主が死亡した場合についての法律上の規定はありません。貸主が死亡したとしても使用貸借契約は終了しませんので、貸主の相続人は使用貸借を相続し、借主に対して、引き続きその物を使用・収益させるという義務を負います。
そのため、貸主が死亡した場合、借主は貸主の死亡後も当該物を使用・収益することができます。
3、使用貸借における相続の例外
使用貸借は、借主の死亡によって契約が終了するため、原則として相続の対象とはなりません。しかし、例外的に相続の対象となる場合もあります。
以下では、例外的に使用貸借が相続の対象となるケースについて説明します。
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(1)契約で特別の定めがある場合
借主の死亡によって使用貸借が終了するという民法597条3項の規定は任意規定ですので、当事者の合意により、それと異なる定めを置くことが可能ですs。
そのため、使用貸借契約で、「借主が死亡した後も使用貸借は存続し、相続人が相続する」という規定を設ければ、借主が死亡した後、相続人がその使用貸借を引き継ぐことになります。
ただ、使用貸借契約は当事者の個人的な信頼関係に基づいて成立するものであるため、契約書などを作成していないことも少なくありません。
もし、民法の規定と異なる特別の定めを設けようと考えているのであれば、後日争いになることを避けるためにも、必ず契約書を作成しておくようにしましょう。 -
(2)建物所有目的の使用貸借契約の場合
土地を目的とした使用貸借契約は、その土地上に建物を建てることを目的としていることがほとんどです。
そして、建物所有を目的として使用貸借契約を締結する場合、当事者は、当事者間の個人的な信頼関係よりも、建物所有の目的を重視することがあります。
そのため、借主が死亡したとしても契約は終了せず、建物使用の目的に従った使用・収益を終えたときに終了する(民法597条1項参照)と考えるのが相当な場合もあります。 -
(3)黙示の承諾があったといえる場合
借主が死亡した後、貸主が、借主の相続人が借用物を利用していることを知りながら、何ら異議を述べていなかったという場合には、貸主による黙示の承諾があったとして、使用貸借の相続が認められることがあります。
4、注意したい相続税
土地が使用貸借の目的となっている場合には、相続税の課税に関しても注意が必要です。
借主が死亡したケースと貸主が死亡したケースで扱いが異なるため、以下では、両者を分けて説明します。
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(1)使用貸借の借主が死亡した場合
使用貸借の借主が死亡した場合、原則として使用貸借は相続の対象外ですから、相続税の対象にもなりません。
また、例外的に使用貸借が相続された場合についても、「建物等の所有を目的とした土地を使用貸借により借り受けた場合、その土地の使用に関する使用権の価額はゼロとして取り扱う」という内容の通達がありますので、相続税評価においても、そのように取り扱われることになります。
したがって、借主が死亡した場合における使用貸借の相続について、基本的に課税はありません。 -
(2)使用貸借の貸主が死亡した場合
では、使用貸借の貸主が死亡した場合には、どうなるのでしょうか。
貸主は所有する土地を他人に貸しているため、貸主の相続人は、貸主の死亡に伴ってその土地の所有権を相続することになります。
土地に借地権などの負担が付いている場合には、借地権などの敷地利用権の負担分を相続税評価額から控除するという扱いがされますが、ここにいう「借地権」に使用貸借は含まれません。
使用貸借の場合には、自用地価額、すなわち、何ら負担のない更地としての評価額を基準にすることになります。
そのため、使用貸借の貸主は、土地を自由に使うことができず、使用の対価を得ることもできないことに加え、相続の場面で賃貸借よりも不利に扱われることになりますので注意が必要です。
貸主側の使用貸借における相続税対策としては、使用貸借から賃貸借に切り替えるということが考えられます。ただし、この場合でも、権利金や地代がその地域の相場よりも明らかに低い価額であった場合には、その差額分について贈与税が課税される可能性があります。
いずれにしても、使用貸借の相続税対策にあたっては、契約の変更や税金の有利・不利など専門的な判断が必要になりますので、それらを考えている方は専門家に相談することをおすすめします。
5、まとめ
使用貸借の借主が死亡した場合には、原則として、使用貸借は相続の対象とはなりません。このような場合には、被相続人の死亡によって引き続きその土地を使用し、当該建物に居住できると考えていた相続人は不測の損害を生じる可能性があります。
しかし、使用貸借は、例外的に相続の対象となることもあります。また、仮に相続の対象とならなかったとしても、貸主と借主の相続人との間の関係が良好であるというような事情があれば、引き続き貸してあげてもよいと貸主が考える可能性もあります。
被相続人が死亡し、所有地だと思っていたものが無償で借りていた土地であったとしても、まずは弁護士などの専門家に相談するようにしてください。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士だけでなく税理士なども所属していますので、法律面だけでなく、税金面からもサポートをすることができます。
使用貸借の相続についてはお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
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