推定相続人とは? 法定相続人や相続人との違いも

2021年07月15日
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推定相続人とは? 法定相続人や相続人との違いも

東京国税局による相続税の申告事績の概要によると、東京都で平成30年に亡くなった方の人数は27万1066人で、このうち相続税の課税対象となった被相続人の人数は3万6782人でした。平成29年度と比較すると、亡くなった方の人数も相続税の課税対象となった被相続人の人数も増加していることから、今後も東京都での相続は、増加することが予想されます。

さて、相続について調べていくと、「推定相続人」や「法定相続人」「相続人」といった言葉を目にすることがあります。それぞれの用語を正確に理解しておかなければ、将来の家族や親族の相続対策を適切に行うことが難しくなってしまうかもしれません。

今回は、推定相続人とは何かについて、法定相続人や相続人との違いを踏まえて、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。

1、推定相続人とは

推定相続人とは、相続開始(被相続人死亡)前において、被相続人の相続人であると推定される人のことをいいます。簡単にいえば、「今亡くなったとしたら、相続人になるだろうという人」のことです。

たとえば、夫が亡くなったときに妻と子どもが相続するだろうということは何となくわかると思います。このような人を推定相続人というのです。

推定相続人という用語は、「相続をさせたくない人」がいるときに、特に意味を持ってきます。相続が開始すると、推定相続人とされていた人は、基本的には相続人になります。しかし、一定の要件を満たした場合には、推定相続人の相続権はなくなり、推定相続人にはならなくなるのです。

推定相続人から除外する手続きを、「相続人の廃除」といい、これについては、後で詳しく説明します。

2、推定相続人、法定相続人、相続人は何が違う?

推定相続人と似た言葉に「法定相続人」「相続人」というものがあります。これらは、推定相続人という言葉とどこが違うのでしょうか。

以下では、「法定相続人」と「相続人」という言葉について、推定相続人との違いを説明します

  1. (1)法定相続人とは

    法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。被相続人が亡くなったときに、どの範囲の人が、どのくらいの割合で遺産を相続するかについては、民法に規定があります。そのため、相続開始後は、民法の規定によって定められた法定相続人が被相続人の遺産を相続することになります。

    推定相続人と法定相続人の違いは、推定相続人が相続開始前の相続人の範囲を指すのに対し、法定相続人は、相続開始後の相続人の範囲を指すという点です。推定相続人と法定相続人は、時系列が異なるだけで、基本的には同じ範囲の相続人を指す用語になります。

  2. (2)相続人とは

    相続人とは、相続が開始し、実際に財産を相続する人をいいます。法定相続人とほとんど同じ意味合いですが、厳密にいうと少し違う部分があります。

    法定相続人は、相続開始後に相続放棄をすることによって、遺産を相続しなくなります。つまり、相続人ではなくなるのです。このように、法定相続人と相続人とは実際に遺産を相続する場面で違いが出てくることがあります

3、相続できるのは誰か

誰が被相続人の遺産を相続することができるかについては、民法に詳細な規定があり、相続人の範囲と順位が決まっています。

民法に規定されている相続人の範囲に入っていなければ相続権はそもそもなく、順位が下の相続人は先順位の相続人が死亡している等の事情がない限り相続することができません

以下で条文を交えながら、具体的に説明していきます。

  1. (1)配偶者

    被相続人が結婚しているときは、常にその配偶者は相続人になります(民法890条前段)。

    後述する直系尊属、兄弟姉妹については、先順位の相続人がいない場合に相続人となりますが、配偶者については、被相続人に子ども、直系尊属、兄弟姉妹がいたとしても常に相続人になります。

    ただし、内縁関係にあっただけでは配偶者にはあたりませんので、内縁の夫や妻には相続権はありません。

  2. (2)被相続人の子ども(第1順位)

    被相続人の子どもは第1順位の相続人となります(民法887条1項)。子どもには、被相続人の実子だけでなく養子も含みます。

    子どもは第1順位の相続人であるため、被相続人に子どもがいる場合には、第2・第3順位の相続人は遺産を相続することができません

    なお、被相続人の子どもが相続開始前に亡くなっていた場合には、子どもに代わって孫が相続人になり、これを代襲相続といいます。さらに、孫が亡くなっている場合には、曾孫が相続することが可能です。これを再代襲相続といいます。

  3. (3)被相続人の直系尊属(第2順位)

    被相続人に子ども(第1順位の相続人)がいないときは、被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)が相続人になります(民法889条1項1号本文)。

    直系尊属が複数いる場合には、被相続人と親等が近い人が相続人となります(同号ただし書)。たとえば、被相続人に父母、祖父母がいる場合には、父母が相続人となります。

  4. (4)被相続人の兄弟姉妹(第3順位)

    被相続人に子ども(第1順位)、父母や祖父母(第2順位)がいないときは、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります(民法889条1項2号)。

    兄弟姉妹の場合にも代襲相続があり、被相続人の甥・姪が相続することが可能です。ただし、被相続人の子どものときのような再代襲相続は認められていません(同条2項)。

4、相続させたくない相続人がいるときにできること

推定相続人には遺産を相続させたくないと考えたときに、被相続人が生前にできることとして、相続廃除という手続きがあります

以下では、相続廃除の手続きについて説明します。

  1. (1)相続廃除とは

    相続廃除とは、一定の要件を満たす推定相続人の相続権を失わせる手続きのことをいいます。被相続人が生前にこの手続きを利用する場合、家庭裁判所に廃除の請求をする必要があります(民法892条)。
    一方で、遺言執行者が指定又は選任されることが前提になりますが、遺言によって推定相続人の廃除を求めることもできます(民法893条前段)。

    この点について、「単に相続させたくない推定相続人へ財産を渡さないとする遺言書を作成すればいいのではないか」と考える方もいるかもしれません。

    たしかに遺言で法定相続分と異なる割合の相続分を定めることができます。しかし、「財産を渡さない」旨の記載にとどまる遺言では、推定相続人の遺留分まで奪うことはできないため、推定相続人の相続分をゼロにするということはできません

    これに対して、相続廃除は、推定相続人から相続権を奪う手続きですので、廃除を受けた相続人の相続分をゼロにすることが可能です

    相続廃除の対象となる相続人は、「遺留分を有する推定相続人」(民法892条前段)とされていますので、そもそも遺留分が存在しない被相続人の兄弟姉妹(民法1042条1項柱書)については、相続廃除の対象外となります。そのため、兄弟姉妹に対しては、財産を渡さないとする遺言書を作成することで相続分をゼロにすることができます

    なお、相続廃除と似た制度に、相続欠格(民法891条)というものがあります。相続欠格は、法定の欠格事由がある欠格者の相続権を当然に失わせるという点で相続廃除とは異なる制度です。

  2. (2)相続廃除の要件

    相続廃除をするためには、以下の廃除の原因事由が必要になります

    1. ① 被相続人に対する虐待をしたこと
    2. ② 被相続人に対し重大な侮辱を加えたこと
    3. ③ 推定相続人のその他著しい非行があったこと


    廃除が認められるかどうかについては、家庭裁判所が判断することになります。その際には、単に推定相続人と不仲であるという理由や喧嘩をしたなどの理由では、廃除が認められないことが多いでしょう。

    廃除は、推定相続人の遺留分まで奪う手続きですので、それに見合う重大な行為であったといえることが必要です。

  3. (3)相続廃除の手続き

    前述したとおり相続廃除の手続きは、以下の生前廃除と遺言廃除の方法があります。

    ①生前廃除
    生前廃除とは、被相続人が生前に家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求することです。家庭裁判所に対して相続廃除の請求をした場合には、審判によって相続廃除をするかどうかが判断されます。

    相続廃除の審判がなされた場合には、審判確定によって、推定相続人の相続権が失われます。審判確定後、相続廃除があった旨を市区町村役場に届け出ることで、戸籍に推定相続人が廃除されたということが記載されますので、後日相続手続きの際にその戸籍謄本が役に立つでしょう。

    ②遺言廃除
    遺言廃除とは、被相続人が推定相続人を廃除する旨の内容を遺言書で残す方法のことをいいます

    遺言廃除をするためには、被相続人の死亡後に廃除の手続きをしなければなりませんので、遺言執行者の選任が必要になります。そのため、遺言書で遺言執行者についても定めておくとよいでしょう。

    遺言廃除も家庭裁判所の審判によって相続廃除をするかどうかが判断されます。生前廃除と異なり、遺言廃除の効果は相続開始時に遡って効果が生じます。

5、まとめ

「推定相続人」「法定相続人」「相続人」など、相続を調べていくと似たような言葉が出てきて混乱する方も多いかもしれません。似たような言葉でもそれぞれ意味が異なってきますので、言葉の意味を正確に理解することが相続手続きを適切に行うためにも重要です。

また、虐待を受けたなどの理由で推定相続人に遺産を渡したくないと考えた場合には、相続廃除の手続きを経ることにより目的を達成できる可能性があります。しかし、裁判所に相続廃除を認めてもらうためには、該当する理由を論理的・説得的に裁判所に伝えなければなりません。
ご自身で冷静に該当理由を説明していくことは難しいと思いますので、専門家である弁護士にサポートに入ってもらうことをおすすめします。

相続手続きや相続廃除のことでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。

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