形見分けは勝手に行ってもいい? 故人の形見は誰のものなのか

2022年11月28日
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形見分けは勝手に行ってもいい? 故人の形見は誰のものなのか

被相続人が亡くなった場合には、被相続人の親族や親しかった友人などに対して、形見分けとして被相続人の愛用品や思い出の品などが贈られることがあります。

何気なく行っている形見分けですが、法的にはどのような意味があるのでしょうか。また、相続人が他の相続人の了解を得ることなく勝手に形見分けをしてしまった場合にはどうなるのでしょうか。

形見分けには、法律が関係する部分もありますので、しっかりと理解したうえで慎重に行っていくことが大切です。今回は、形見分けの意味や方法、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。

1、故人の形見は誰のものなのか

形見分けとは、法的にどのような意味があるのでしょうか。以下では、形見分けの意味とその手続きについて説明します。

  1. (1)形見分けとは

    形見分けとは、被相続人の親族や特に親しかった友人などに対して、被相続人の愛用品や思い出の品を分ける行為をいいます。被相続人の愛用品を贈られた人がそれを使うことで、被相続人のことをいつまでも忘れることなく、思いしのぶことができますので、被相続人を供養しようという気持ちから行われるものといえます。

    形見分けの時期については、特にルールがあるわけではありませんが、四十九日法要などで親族が集まったタイミングで行われるのが一般的です。

  2. (2)形見分けの法的性質

    形見分けというと慣習的な行為であるため、あまり法的な意味合いを意識したことがない方も多いかもしれません。

    被相続人が死亡すると、被相続人の所有していたものはすべて相続財産となりますので、遺産分割が成立するまでは、相続人全員の共有に属することになります。そのため、形見分けとして贈られる被相続人のアクセサリー、衣類、時計なども相続財産であり、厳密にいえば、形見分けは相続財産の贈与という性質を有しています。

    このことから、形見分けをする場合には、通常の遺産分割協議と同様に相続人全員の同意が必要になります。

2、形見分けとして勝手に持ち出した場合は?

前述のとおり、形見分けで贈られる被相続人の愛用品や思い出の品については、すべて相続財産に含まれますので、形見分けをするためには、厳密にいえば、相続人全員の同意を得たうえで行わなければなりません。そのため、形見分けとして、被相続人の愛用品や思い出の品を勝手に持ち出した場合には、他の相続人は、その返還を求めることができます

もっとも、一般的に形見分けでは、それほど財産的な価値のない物が贈られることが多いことから、他の相続人の了解を得ることなく勝手に持ち出したとしても、それほど問題になることはありません。形見分け自体が慣習的な行為であると一般に認識されていることも、その理由でしょう。

ただし、高価なアクセサリーや時計などを持ち出してしまった場合には、他の相続人から問題視されてしまう可能性がありますので注意が必要です。本来、遺産分割協議によって分けられるべきであった財産が勝手に持ち出されてしまうと、いったん成立した遺産分割協議自体が無効と判断され、遺産分割協議のやり直しをしなければならなくなる場合もあります。

そのため、「形見分けだからよいだろう」という安易な気持ちで、勝手に財産を処分してしまわないように注意しましょう

3、形見分けの注意点|税金や相続との関係

形見分けをする際には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)相続放棄ができなくなる可能性

    被相続人に多額の借金がある場合には、相続放棄を検討することになります。相続放棄をする場合には、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要がありますが、その際に気を付けなければならないのが法定単純承認事由です。

    法定単純承認事由に該当する行為があった場合には、相続放棄をすることができません。民法921条では、以下のような行為を法定単純承認事由として定めています。

    • 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき
    • 相続人が熟慮期間内に、限定承認または相続の放棄をしなかったとき
    • 相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき


    形見分けについては、どのようなものを形見分けとして贈ったかがポイントとなります。財産的価値がほとんどないようなものであれば、慣習的な行為であるとして、相続財産の処分や隠匿に該当しないと判断される可能性が高いといえます。しかし、高価なアクセサリーやブランド物の時計など財産的価値の高いものを形見分けで贈ってしまうと、相続財産の処分または隠匿と判断される可能性があります

    そのため、相続放棄を考えている場合には、安易に形見分けをせずに、弁護士などの専門家に相談をしてから行うようにするとよいでしょう。

  2. (2)相続人以外の人への形見分けは贈与税が課税される可能性がある

    被相続人と親交のあった友人などに対して形見分けが行われることがあります。このように相続人以外の人に対して形見分けが行われた場合には、形見分けを受けた人に対して贈与税が課税される可能性があります

    ただし、贈与税には、基礎控除がありますので、1月1日から12月31日までに贈与された金額が110万円以下であれば、基礎控除の範囲内ですので贈与税は課税されません。通常、形見分けではそれほど高価なものを贈ることはありませんので、贈与税が課税されるケースは少ないといえるでしょう。

  3. (3)相続人への形見分けは相続税の対象となる

    形見分けで贈る物についても相続財産に含まれますので、被相続人の現金、預貯金、不動産、有価証券などと同様に相続税の課税対象となります。金銭的価値がほとんどないようなものであれば、特に気にする必要はありませんが、高価なアクセサリーやブランド物の時計などを形見分けする場合には、当該財産をしっかりと評価したうえで、相続税の計算をしなければなりません。

    ただし、相続税には、基礎控除がありますので、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算をした基礎控除額の範囲内であれば、相続税の申告は不要であり、相続税を納める必要はありません。

  4. (4)形見分けの品は別に保管をしておく

    被相続人が亡くなると被相続人の持ち物のうち、不要なものについては徐々に処分していくことになります。親族としては不要なものであったとしても、親しい友人からみれば思い入れのある品であることもありますので、将来形見分けを行うことを予定している場合には、残すものと処分するものを慎重に判断していく必要があります。

    遺品整理業者などに任せてしまうと、すべて処分されてしまう可能性もありますので、形見分けの品については、別に保管をするなどの工夫をするようにしましょう。

4、弁護士は遺産分割の相談に対応している

遺産相続に関するお悩みは、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)形見分けの進め方について法的なアドバイスをもらえる

    形見分けは、慣習的な要素が強いため、遺産分割のように法律問題として意識することは、あまりありません。形見分けの品が財産的価値のほとんどないようなものであればよいですが、高価なものを形見分けで贈るような場合には、贈与税・相続税といった税金面、相続放棄の可否などに影響を及ぼす可能性もあります。

    安易に形見分けをしてしまうと、将来相続放棄をすることができなくなってしまう可能性もありますので、法的に問題ない方法で進めるためにも、まずは弁護士に相談をするようにしましょう

  2. (2)相続人や相続財産の調査を任せることができる

    遺産分割協議の前提として、共同相続人が誰であるか、どのような相続財産があるのかをしっかりと調べる必要があります。遺産相続にあたっては、相続放棄をする場合の3か月という期限や相続税の申告をする場合の10か月の期限がありますので、相続開始後は、すぐに相続人調査や相続財産調査に着手する必要があります。

    しかし、相続人は、被相続人の葬儀や法要などに時間や労力を割かなければならず、不慣れな相続人調査や相続財産調査を行う余裕はないでしょう。弁護士に依頼をすれば、相続人調査や相続財産調査を適切に行ってもらうことができます。遺産相続に関する負担を軽減するためにも弁護士への依頼をおすすめします。

  3. (3)遺産分割に関する争いを解決することができる

    被相続人の遺産は、法定相続人による遺産分割協議によって分けることになります。遺産が現金や預貯金だけであれば、法定相続分に従って分割すればよいため、遺産分割方法をめぐって争いになることは少ないといえます。しかし、土地や建物といった不動産が含まれている場合には、不動産をどのように評価するのか、誰が不動産を取得するのかで揉めることがありますので、弁護士のサポートが不可欠となります。

    また、生前に被相続人から多額の贈与を受けていた相続人がいる場合には、特別受益が問題になりますし、被相続人の介護に従事していた相続人がいる場合には、寄与分が問題になることもあります。このように相続手続きを進めていくにあたっては、遺産相続に関する知識や経験が不可欠となりますので、争いが生じた場合には、弁護士への依頼を検討しましょう

5、まとめ

形見分けは、慣習的な面が強いため、法的影響をあまり意識せずに形見分けが行われています。しかし、形見分けの品も厳密にいえば相続財産に含まれることになりますので、形見分けをするにあたっては、遺産分割協議と同様に相続人全員の同意が必要になります。

また、形見分けをした物の財産的価値によっては相続放棄の可否にも影響を及ぼす可能性もあります。そのため、形見分けをする場合は、まずは弁護士に相談をしてから行うのが安心といえるでしょう。

遺産相続に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています