覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕! 所持目的・使用頻度・前科で変わる罰則について解説
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令和元年8月23日、新宿区歌舞伎町に事務所を構える指定暴力団の会長ら5人が覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕されました。彼らは、覚せい剤の営利目的所持という容疑で逮捕されましたが、覚せい剤を単に所持しているだけで罪に問われることもあります。
令和3年4月に発表された「令和2年における組織犯罪の情勢」によると、令和2年の覚醒剤事犯の検挙人員は8471人で、そのうち暴力団構成員等は3577人でした。冒頭の事件のような、暴力団組員だけでなく覚せい剤を所持していれば一般人も逮捕される可能性があるのです。
そこで、本記事では覚せい剤取締法違反の種類や量刑、覚せい剤事件での弁護活動などをわかりやすく解説します。
1、覚せい剤取締法における覚せい剤の定義と罰則
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(1)覚せい剤の定義
そもそも、「覚せい剤」とは覚せい剤取締法によって規定されている物質が含まれている薬物を言います。覚せい剤取締法の条文に記載されているものは以下の成分です。
- フエニルアミノプロパン
- フエニルメチルアミノプロパン
- および各その塩類
- 上記と同種の覚せい作用を有するものであって政令で指定するもの
「覚せい剤原料を指定する政令」によってフエニルアミノプロパンやフエニルメチルアミノプロパン以外の成分も覚せい剤に指定されています。末端ユーザーが手に入れる際は、これらの成分名は使われず、「シャブ」などの通称で呼ばれることが多いようです。
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(2)覚せい剤取締法に違反した場合の罰則
次に覚せい剤取締法に違反すると科される罰則は、その行為と目的によって大きく異なるのが特徴です。
●使用・所持
覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕されるケースで一番多いのが、覚せい剤の「使用」や「所持」です。覚せい剤を使用した場合、もしくは所持していた場合の法定刑は、「10年以下の懲役」と規定されています。覚せい剤は、所持していなくても尿検査などで「使用」が確認されれば所持していたときと同等の罪になります。
なお、「所持」とは、持ち歩いているだけでなく自分の管理下にある自宅や車の中への保管でも該当します。また、「使用」も、自分が使うだけでなく他人に注射器などで使用させることも「使用」に当たる点に注意が必要です。
さらに、営利目的で覚せい剤を「使用・所持」していた場合の法定刑は、「1年以上の有期懲役、又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金」と規定されています。営利目的があった場合は、より重い罪に問われる可能性があるのです。
●譲渡・譲受
覚せい剤を友人や知人に譲り渡す行為も違法です。また、自分が使う目的で、覚せい剤を受け取る行為も違法です。覚せい剤譲渡・譲受の法定刑は、「10年以下の懲役」と規定されています。
譲渡や譲受に営利目的があった場合の法定刑は、「1年以上の有期懲役、又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金」と規定されています。
●輸入・輸出・製造
覚せい剤を輸入したり、海外に輸出したり、また製造したりした場合は、その目的によって罰則が異なります。覚せい剤を自分で使うために、輸入・輸出・製造した場合の法定刑は、「1年以上の有期懲役」と規定されています。
営利目的で輸入・輸出・製造した場合の法定刑は、「無期若しくは3年以上の懲役、又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金」と規定されています。
2、覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕され有罪となった場合の量刑の判断基準
次に覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕され有罪となった場合、量刑はどのような基準で判断されるでしょうか。
●薬物犯罪の回数
覚せい剤に関する犯罪の再犯率は非常に高く、平成29年に厚生労働省が発表した統計によると、平成28年の覚せい剤事件の全検挙人数のうち再犯者数が占める割合は64.9%でした。覚せい剤の再犯率は平成18年から10%以上増えており、覚せい剤に繰り返し手を出してしまう人が増えていることがわかります。
覚せい剤取締法違反に限らず、同種の犯罪の前科があることは量刑に悪影響をもたらします。覚せい剤取締法違反の前科がある場合は、執行猶予がつかない、懲役が長くなる、などより重い量刑が言い渡される可能性が高いでしょう。
●使用量や使用期間
覚せい剤取締法違反においては、所持していた覚せい剤の量、使用期間の長さなどが量刑を決める判断基準のひとつとなります。大量に所持していた、長期間使用していたなどのケースではより重い量刑が言い渡される可能性があります。
●依存度・再犯の可能性
覚せい剤に関する犯罪は再犯率が非常に高いことから、覚せい剤への依存度や、周囲の環境を総合的に判断して、再犯の可能性が高いかどうかも量刑に影響を与えます。
本人が反省しており、すでに更生施設のサポートが決まっているなど具体的に薬物から離脱できる環境が整っていれば、量刑が軽くなる可能性があります。しかし、覚せい剤への依存度が非常に高く、被告人が置かれた環境も劣悪なままであると判断されれば、厳しい判決が下されることもあるでしょう。
●所持目的
前述したとおり、覚せい剤の所持目的が、営利目的であった場合はそもそも法定刑が異なります。営利目的がない場合と比べ、より重い量刑が言い渡されることになるので、「何のために覚せい剤を持っていたのか」を明確にしなければなりません。
3、覚せい剤事件の特徴
覚せい剤事件は、傷害罪や痴漢などの他の犯罪とは大きく異なる点があります。それは「示談ができないこと」、「身柄拘束の可能性が高いこと」です。ここでは、それらの特徴を詳しく説明します。
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(1)示談ができず、不起訴になることが難しい
覚せい剤や麻薬などの薬物に関する事件には被害者が存在しません。傷害や痴漢などの事件では被害者と示談することで、不起訴処分や執行猶予付き判決などを目指すことができるのですが、薬物事件は被害者不在のためそれが不可能となります。
平成30年の犯罪白書によると、覚せい剤取締法違反の起訴率は77.7%と非常に高くなっており、不起訴処分を獲得することの難しさが伺えます。ただし、重すぎる刑罰を受けないようにする手段はゼロではありません。逮捕されたらすみやかに弁護士にアドバイスを求めることを強くおすすめします。 -
(2)ほとんどの確率で勾留される
覚せい剤事件の被疑者の多くは、覚せい剤に対して依存状態にあることから、逮捕・勾留される可能性が非常に高くなっています。勾留されると外界から遮断された留置場や拘置所で生活することになるため、物理的に被疑者と薬物を遮断できるからです。
なお、覚せい剤取締法違反だけでなく、すべての事件において逮捕されてから3日間は、たとえ家族であっても面会することはできません。このタイミングで面会できるのは弁護士だけです。早期に弁護士に依頼し、面会にいってもらい適切なアドバイスをしてもらいましょう。
4、覚せい剤事件の弁護方針
前述したとおり、覚せい剤事件では、不起訴処分を獲得することは難しく、勾留される可能性も非常に高くなっています。そのような状況下で、弁護士に依頼するとどのような弁護活動が行われ、どのようなメリットがあるのでしょうか。詳しく解説していきます。
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(1)接見して不利な立場にならないように助言する
覚せい剤取締法違反で逮捕されると留置場に身柄が拘束されます。前述の通り、逮捕後72時間は家族も面会することができません。密室下で取り調べが行われるため、自身にとって不利益な供述をしてしまうことがあります。弁護士は被疑者がそのような状況に陥らないように取り調べについてのアドバイスをします。具体的には、被疑者と接見して今後の見通しを説明した上で、現状況で取り調べに対しどのような対応をするのが最善かについてアドバイスをします。
取り調べで言うべきこと、気をつけるべきことなどを具体的に助言できますので、取り調べによって不利な立場に立たされるリスクを軽減できます。 -
(2)贖罪寄付などで罪を軽減するサポートができる
覚せい剤を使用・所持していたことが確かであれば、罪を認めて反省の意を表すことが重要です。また、被害者が不在のため示談はできませんが「贖罪寄付(しょくざいきふ)」を行うことで、情状酌量を目指すことは可能です。贖罪寄付とは、反省の気持ちを寄付で表すものです。被害者が不特定多数である犯罪や薬物犯罪の場合に行われることがあります。
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(3)検察官や裁判官に働きかけが可能
覚せい剤取締法違反においては、本人の反省度合いや今後の生活で受けられるサポートの有無などが量刑判断に影響を与えます。したがって、弁護士はこれまでの仕事ぶり、家族のサポート体制、今後の仕事のことなどから再犯の可能性が低いことを主張して、重すぎる量刑判断がされないように弁護活動を行います。
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(4)保釈請求で身柄の解放を目指す
覚せい剤事件では、逮捕されてから起訴されるまで身柄が拘束され続けることが少なくありません。身柄の拘束が続けば日常生活にも悪影響を与えてしまう可能性が高いでしょう。起訴が決定した時点で保釈請求して、身柄解放を目指す必要があります。
弁護士は、すみやかに保釈の申請を行い身柄解放に努めます。保釈が認められれば、逮捕された本人や家族が今後受ける可能性がある悪影響を最小限に抑えることができます。
5、まとめ
覚せい剤事件は、示談ができないこと・再犯率が高いことにより、他の事件と比べると重い量刑が言い渡される傾向にあります。また、身柄の拘束が長期間続くため社会生活にも大きな悪影響を与える可能性が高いでしょう。
弁護士に依頼することで、贖罪寄付などの刑軽減を目指した行動をすすめるとともに、保釈請求を行い身柄解放を求めることも可能となります。覚せい剤事件においては、弁護士による適切な弁護活動と再犯しないための環境構築が重要であるといえます。覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕されたら早い段階で弁護士に弁護を依頼してください。
もし、ご家族が覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕されてしまったときは、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスにご相談ください。刑事事件の経験が豊富な弁護士が適切な弁護活動を行います。
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