未成年者略取とは? 誘拐罪との違いと本人の望みでも逮捕されるのか

2023年11月21日
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未成年者略取とは? 誘拐罪との違いと本人の望みでも逮捕されるのか

警察庁生活安全局が公表している「インターネット利用に係る子供の犯罪被害等の防止について」によると、SNSに関連して犯罪被害にあった未成年の児童は令和4年中だけで1732人にのぼるとのことです。

過去最多となった令和元年の2082人よりは減少しているものの、児童の犯罪被害とSNSが密接に関係している事実が浮き彫りになりました。

被害児童が関係した事件のうち、多くは青少年健全育成条例・児童買春、児童ポルノ禁止法違反として立件されていますが、一部は「重要犯罪」として扱われています。

このコラムでは、SNSに関連して児童が被害者となる事件のうち、重要犯罪として扱われる「未成年者略取罪」について、罪となる要件や「誘拐」との違いなどを、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。

1、「未成年者略取」とは? 法的根拠や成立の要件

スマートフォンの普及やSNS利用率の増加に伴って増加している犯罪に「略取・誘拐」があります。

令和4年版の犯罪白書によると、略取・誘拐・人身売買の罪の認知件数は389件でした。前年と比較すると52件も増加しており、捜査機関の取り締まり体制も強化されているのは確実でしょう。

ここでは、略取・誘拐の罪のうち「未成年者略取」についてみていきましょう。

  1. (1)未成年者略取の法的根拠と罰則、刑法改正で新設された罪に問われうる可能性も

    未成年者略取は刑法第224条に規定されている犯罪です。

    「未成年者を略取した者」が対象となり、3か月以上7年以下の懲役刑に処されます。

    さらに、令和5年7月13日に改正刑法が施行されています。これにより、16歳未満の子どもにわいせつ目的で面会要求等を行う行為そのものが罪に問われうることになりました。新設された「面会要求などに対する罪」は、通称グルーミング罪とも呼ばれているものです。

    グルーミング行為により罪に問われる可能性について、詳しくは以下のコラムをご確認ください。
    【弁護士が解説】不同意性交等罪への改正で、性犯罪の規定はどのように変わるのか
    「4、性的目的で子どもを手なずけてコントロールする「グルーミング」も犯罪に」

  2. (2)「略取」が成立する要件

    「略取」とは、暴行・脅迫などの強制的な手段を用いることで、相手の意思に反して従前の生活環境から離脱させ、自己または第三者の支配下に置くことをいいます。

    ここでいう暴行・脅迫は、相手に殴る・蹴るなどの具体的な暴力を加えることや「抵抗すると痛い目に遭わせるぞ」などと明確に脅すことに限られません。

    相手の反抗を抑圧する程度であることを必要とせず、支配下に置くことを可能とする程度の有形力であれば足りるとされています。たとえば、自分でちゃんと走ったりすることのできない乳幼児を連れ去る、腕を握って車内に引き込むなどの行為は、ここでいう暴行・脅迫であると認められ、略取が成立します。

    なお、未成年者略取罪は、対象となった20歳未満の未成年者の自由だけでなく、親などが有する保護監護権も法益として守るものです。

    そのため、略取される未成年者ではなく親などの保護者・監護者に暴行・脅迫が向けられた場合でも、未成年者略取罪が成立します。

2、「略取」と「誘拐」の違い

「略取」と区別しにくい行為として「誘拐」が存在します。未成年者の連れ去りトラブルについては、刑事ドラマなどでも「誘拐」として描かれることが多いため両者の違いが判然としないという方も多いでしょう。

「誘拐」とは、虚偽の事実をもって相手を錯誤に陥らせたり、誘惑や甘言によって判断を誤らせたりすることで支配下に置く行為をいいます。

幼児を「お母さんのところに連れていってあげる」とだますケースや「おもちゃを買ってあげるからおいで」と誘惑するといったケースが典型的でしょう。

両者の違いを簡単にまとめると次のとおりです。

  • 強引に連れ去るなど有形力の行使があれば「略取罪」
  • 相手をだまして連れ去るなどは「誘拐罪」


連れ去った相手が未成年者であるとき、それぞれ「未成年者略取罪」「未成年者誘拐罪」となります。

なお、略取・誘拐を総じて「拐取(かいしゅ)」という用語が用いられることがありますが、法学上では、拐取した人を「拐取者」、拐取された人を「被拐取者」と呼びます。

3、本人の同意があっても略取が成立するのか?

実際に起きた未成年者略取事件では、逮捕された被疑者が「略取ではない」と否認する事例も少なくありません。特にSNSなどを通じて知り合った中高生などが被拐取者となるケースでは「本人の合意があった」という状況も多いでしょう。

本人の同意があった場合でも、未成年者略取は成立するのでしょうか?

  1. (1)本人の同意のみで親の同意がない場合

    家出した未成年者が寝泊まりできる場所を求めてSNSなどに「泊めてほしい」と投稿し見知らぬ相手のもとへと身を寄せる、いわゆる「神待ち」などでは、被拐取者である未成年者本人の同意が前提となります。

    このような状況では、未成年者本人の同意が得られているうえに宿泊・食事の負担なども伴うため「罪を問われるはずがない」と感じるかもしれません。

    ここで注目すべきは、親などが有する保護監護権の存在です。

    未成年者略取罪は、略取された未成年者の自由だけでなく、親などがわが子を育て、教育するといった権利も保護しています。

    つまり、たとえ略取された未成年者の同意が得られていたとしても、親などの同意が得られていない場合は、未成年者略取罪の成立は避けられません。

  2. (2)実の親でも略取とみなされることがある

    未成年者略取が起こる典型的な状況として「わが子を連れ去る行為」が問題となります。

    離婚協議中で夫婦が別居しているなか、一方が相手方のもとから子どもを連れ去った場合は、被拐取者がわが子であっても未成年者略取罪が成立することがあるので注意が必要です。

    実際に起きた事例では、別居中の妻が監護している2歳の子どもについて、保育園からの迎えのすきを突いて夫が連れ去った行為が未成年者略取にあたるとされています。この事件では、連れ去りが発生した約6時間半後に、夫が通常逮捕されました。(平成16(あ)2199 最高裁 未成年者略取被告事件)

    たとえ連れ去ったのがわが子であっても、現に子どもを監護しているのが別居中の妻であり、たとえばその子どもが妻からDVを受けていて避難させる必要があったなどの特別な事情がない限りは、未成年者略取が成立します。

    未成年者の生命・身体の安全を考慮すれば、警察が素早い捜索態勢を敷いて被疑者の身柄確保と未成年者の保護を急ぐのは確実です。逮捕は避けられない大変な事態になってしまうおそれがあるので「子どもを自分のもとに置きたい」と考えるなら、親権の獲得などを含めて弁護士に相談するのが賢明でしょう。

4、未成年者略取の容疑をかけられたら弁護士に相談を

SNSで知り合った未成年者とドライブしていたところ警察官に確保された、別居しているわが子を連れて出たことから配偶者とトラブルになったなどのケースでは、未成年者略取の容疑をかけられてしまうおそれがあります。

未成年者略取罪は最長で7年の懲役という刑罰が科せられる重大犯罪なので、容疑をかけられてしまった場合は直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。

  1. (1)逮捕の回避に向けた示談交渉が期待できる

    未成年者略取にあたる状況があれば、警察は未成年者の安全確保に向けて素早い捜索・捜査を徹底します。未成年者を帯同している状況で捜査員に発見されれば、直ちに身柄を確保されてしまうでしょう。

    警察に逮捕されてしまうと、警察段階で48時間、検察官の段階で24時間の合計72時間にわたる身柄拘束を受けたうえで、勾留が認められればさらに最長20日間の身柄拘束が続きます。

    身柄拘束を受けている期間は自宅へ帰ることも仕事に行くこともできず、実名報道を受けて社会生活に甚大な悪影響を及ぼすおそれもあるので、まずは逮捕・勾留を避けたいところです。

    弁護士に依頼すれば、代理人として親などの保護者・監護者との示談交渉を進めてもらうことで、穏便に解決できる可能性があります。

    加害者自らが示談交渉を進めようとしても、保護者・監護者が憤っている状況では思うように話し合いがまとまりません。代理人として弁護士が交渉にあたることで相手方の警戒心も和らぎ、建設的な示談交渉が可能となるでしょう。

  2. (2)逮捕後の早期釈放・刑罰の回避が期待できる

    未成年者略取は、未成年者の生命・身体の安全を第一の保護法益としているという特性から、逮捕されるおそれの高い犯罪です。逮捕されてしまった場合でも、直ちに弁護士に相談してサポートを受けることで早期の釈放が期待できます。

    SNSなどで知り合った相手を略取したと疑いをかけられたケースでは、相手が積極的だった、未成年者であることを隠していたなどの有利な事情があるかもしれません。有利な事情を証明する証拠があれば、検察官が起訴を断念して不起訴処分とする可能性もあります。

    たとえ起訴されたとしても、悪質性が高くないことを証明できれば執行猶予付き判決や刑罰の減軽も期待できるでしょう。

5、まとめ

未成年者略取罪の規程は、社会的な判断能力が乏しく有形力への対抗も難しい未成年者の生命・身体を保護し、さらに保護者・監護者の保護監護権も守っています。

たとえ未成年者の同意が得られていたとしても、親などの同意が得られていなければトラブルとなり重い刑罰が科せられてしまうおそれがあります。さらに、令和5年に刑法が改正されたことで、グルーミング行為があったとみなされると罪に問われうる可能性があるでしょう。いずれにしても、容疑をかけられてしまった場合は直ちに弁護士への相談をおすすめします。

未成年者略取の容疑をかけられてしまい対応に困っている、未成年者略取の疑いをかけられてしまうような行動をとってしまったので逮捕の不安があるという方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスにご相談ください。

未成年者略取事件をはじめとした刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決や逮捕・刑罰の回避に向けて全力でサポートします。

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