Coinhive裁判のポイントを弁護士が解説

2022年03月28日
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Coinhive裁判のポイントを弁護士が解説

2022年(令和4年)1月20日に、最高裁で「Coinhive事件」に関する逆転無罪判決が言い渡されました。

仮想通貨の無断マイニングに関する重要な判例ですので、どのような論点があり、どのような要素が無罪の決め手になったのか、この機会に理解しておきましょう。

今回は、Coinhive事件の概要・法的論点・裁判の推移などについて、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。

1、Coinhive事件の概要・法的論点

Coinhive事件は、近年社会的に話題となった「仮想通貨(暗号資産)」に関連して、インターネット上に設置されたツールの違法性・犯罪性が問題となった刑事事件です。

  1. (1)ウェブサイト上に仮想通貨のマイニング装置を設置

    Coinhive事件の被告人は、ウェブサイト上に「モネロ(Monero)」という仮想通貨のマイニング装置「Coinhive」を設置していました。

    仮想通貨の「マイニング」とは、ブロックチェーンに取引履歴を追記する承認作業のことをいいます。参加者はその報酬として仮想通貨を受け取ります。
    中央銀行を持たない「非中央集権」型である仮想通貨は、不特定多数の者が承認作業(マイニング)を行うことにより、取引の正確性・公正性が確保されているのです。

    マイニングを行うためには、電子計算機(PCなど)による大量の演算が必要となります。

    Coinhiveには、設置されたサイトを閲覧中のPCに対して、モネロのマイニングを行わせるようなプログラムが組み込まれていました。
    マイニングによって得られたモネロは、Coinhiveの設置者に7割、運営元に3割が割り当てられる仕組みです。

    つまり、Coinhiveが設置されたサイトの閲覧者(利用者)は、知らないところで自分のPC(のCPU)をモネロのマイニングに使われているという結果になっていました。

    ただし、Coinhiveが占めるCPUの使用率は比較的低く、一般的な広告表示プログラムと比較して、PCに与える影響の程度に差はないと最高裁では認定されています

  2. (2)不正指令電磁的記録保管罪の成否が論点に

    検察官は、このようなCoinhiveによるモネロの「無断」マイニングを問題視し、「不正指令電磁的記録保管罪」(刑法第168条の3)に基づき、被告人に罰金10万円の略式裁判を請求しました。

    これに対して、被告人は略式裁判を拒否し、正式裁判を請求したため、公開法廷にてCoinhiveの犯罪性の有無が争われることになったのです。

2、不正指令電磁的記録保管罪とは?

「不正指令電磁的記録保管罪」とは、人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を保管した場合に成立する犯罪です。

なぜCoinhiveの犯罪性の有無が問題となったのかを理解するため、同罪の内容を詳しく確認しておきましょう。

  1. (1)不正指令電磁的記録保管罪の成立要件

    不正指令電磁的記録保管罪は、「反意図性」と「不正性」という2つの要件を満たす場合に成立します。

    ① 反意図性
    他人が電子計算機を使用するに際して、その意図に沿うべき動作をさせず、またはその意図に反する動作をさせるような指令を与えるプログラムであることが必要です。

    ② 不正性
    指令が「不正」であること、すなわち社会的に許容し得ないものであることが必要です。
  2. (2)不正指令電磁的記録保管罪の法定刑

    不正指令電磁的記録保管罪の法定刑は、「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。
    罰金刑については、略式裁判によっても科すことができます(刑事訴訟法第461条)。

    略式裁判であれば、検察官は公開法廷における厳密な立証を求められることがありません。
    罰金自体が少額の場合は、被告人の側も正式裁判で争って泥沼化することを恐れて、略式裁判を受け入れてしまうケースも多いです。

    そのため、不正アクセス関連の犯罪については、略式裁判を中心的に活用して、不正指令電磁的記録取得等罪での立件を行うケースが多かったようです。
    この点でも、被告人があえて正式裁判で争うことを決断したCoinhive事件には、刑事実務上の大きな意義があったと考えられます。

3、Coinhive裁判の推移

Coinhive事件の刑事裁判では、不正指令電磁的記録保管罪の成否に関して、前述の「反意図性」と「不正性」の2点が充足されているかどうかが問題となりました。

その結果、第一審の横浜地裁では無罪、第二審の東京高裁では有罪となった後、最終的には最高裁で逆転無罪の結論でした。

各審級において、どのような理由で有罪・無罪の結論が示されたのかを見てみましょう。

  1. (1)第一審|無罪・不正性なし

    第一審の横浜地裁は、反意図性は肯定したものの、不正性は認められないとの理由で、不正指令電磁的記録保管罪は不成立、被告人を無罪としました。

    第一審判決では、以下の点を考慮したうえ、Coinhiveの機能について一般の使用者が認識すべきとは言えないとして、反意図性を認めています

    • マイニングに関する説明がなく、閲覧中にマイニングが行われることについて同意を得る仕様にもなっていなかった
    • ウェブサイトの収益方法として、閲覧者の電子計算機にマイニングを行わせる仕組みは、一般の使用者に認知されていない
    • マイニングによる電子計算機への負荷の程度に照らして、一般の使用者がその実行に気づくことはない


    その一方で、以下の2点を根拠として、Coinhiveが社会的に許容されていなかったとは言えず、不正性は認められないと判断しました。

    • マイニングにより運営者が得る利益は、ウェブサイトの質の維持向上のための資金源になり得るから、閲覧者にとって利益となる面がある
    • Coinhiveの実行により生じる、閲覧者の電子計算機の処理速度の低下等は、広告表示プログラム等の場合と大差ないうえ、サイト閲覧中に限定されている
  2. (2)第二審|有罪・不正性あり

    第一審とは異なり、第二審の東京高裁では、反意図性とともに不正性も肯定し、不正指令電磁的記録作成等罪は成立、被告人を有罪(罰金10万円)としました。

    東京高裁は、反意図性を認めた第一審の判断を正当としたうえで、不正性については、以下の理由から肯定すべきと判示しました。

    • Coinhiveは、閲覧者に利益を生じさせない一方で、一定の不利益を与えるものであるため、プログラムに対する信頼保護の観点から許容すべき点はない
    • サイト閲覧中に、閲覧者の電子計算機を無断で使用するものであるため、適正な情報処理の観点からも、社会的に許容されない
    • ウェブサイトの質の維持向上による閲覧者の利益は、意に反するプログラムの実行を閲覧者が気づかないような方法で受忍させたうえで実現されるべきものではない
    • 広告表示プログラムとCoinhiveには大きな相違があり、比較検討になじまない
    • 意図に反して電子計算機が使用されるプログラムであったことが主な問題であって、処理速度の低下等が閲覧者の気づかない程度であったとしても、不正性の有無を左右しない
  3. (3)最高裁|無罪・不正性なし

    最高裁では、結論としては第一審を踏襲し、反意図性あり・不正性なしとして、不正指令電磁的記録保管罪は不成立、被告人を無罪としました。

    最高裁は、反意図性と不正性について、それぞれ以下の規範(判断基準)を示しています。

    「反意図性は、当該プログラムについて一般の使用者が認識すべき動作と実際の動作が異なる場合に肯定されるものと解するのが相当であり、一般の使用者が認識すべき動作の認定に当たっては、当該プログラムの動作の内容に加え、プログラムに付された名称、動作に関する説明の内容、想定される当該プログラムの利用方法等を考慮する必要がある。」


    「不正性は、電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し、電子計算機の社会的機能を保護するという観点から、社会的に許容し得ないプログラムについて肯定されるものと解するのが相当であり、その判断に当たっては、当該プログラムの動作の内容に加え、その動作が電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響の有無・程度、当該プログラムの利用方法等を考慮する必要がある。」


    反意図性については、最高裁は、第一審の理由付けをほぼ踏襲して肯定しました。

    これに対して、不正性については、「プログラムに対する信頼という観点から、より適切な利用方法等が採り得た」と指摘しながらも、以下の点を理由に挙げて否定しました。

    • Coinhiveが電子計算機の機能や情報処理に与える影響は、消費電力が若干増加したり、CPUの処理速度が若干遅くなったりするが、閲覧者がその変化に気づくほどのものではなかった
    • サイト運営者が閲覧を通じて利益を得る仕組みは、ウェブサイトによる情報流通にとって重要であるところ、Coinhiveは社会的に受容されている広告表示プログラムと比較しても、電子計算機の機能や情報処理に与える影響において有意な差異は認められず、事前に同意を得ることなく実行され、閲覧中に閲覧者の電子計算機を一定程度使用するという点も同様である


    最高裁で無罪判決が言い渡されたことに伴い、今後は不正指令電磁的記録作成等罪での立件につき、捜査機関側の慎重な検討・対応が求められます。

4、犯罪の疑いをかけられたら弁護士に相談を

捜査機関に逮捕されたり、取調べを受けたりしたとしても、その段階では有罪判決が確定したわけではありません。
その後の活動によって不起訴になったり、刑事裁判で無罪判決を得られたりするケースもあります。

刑事手続きからの早期解放を目指すには、弁護士へのご依頼がおすすめです。
弁護士は、不起訴に向けた弁護活動や、公判手続きでの無罪主張などを通じて、1日も早く依頼者やご家族を刑事手続きから解放できるように尽力いたします

ご自身やご家族が刑事事件の被疑者となってしまったら、すぐに弁護士へご相談ください。

5、まとめ

Coinhive事件において最高裁で逆転無罪判決が言い渡されたことにより、今後の不正アクセス関連事件の刑事立件に大きな影響を与えるものと考えられます。

もし捜査機関に犯罪を疑われたとしても、Coinhive事件のように、弁護士による精力的なサポートにより、無罪判決を得られる可能性は残されています。

ベリーベスト法律事務所は、1日も早い刑事手続きからの解放を目指し、親身にサポ―トいたします。刑事事件で逮捕されてしまった方やそのご家族は、すぐにベリーベスト法律事務所 新宿オフィスへご相談ください。

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