無免許運転は逮捕される? 規制や罰則を弁護士が解説
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令和4年2月、常習的に無免許運転を繰り返した都議に対する裁判で、懲役10か月、執行猶予3年の判決が言い渡されました。このケースで都議は任意の在宅捜査を受けており、逮捕されていません。
一方で、ニュースや新聞の報道をみると「無免許運転で逮捕」といった見出しをみかける機会も少なくないので、無免許運転は逮捕されるのか、逮捕されずに済まされるのか、その違いはどこにあるのか、気になる方も多いでしょう。
本コラムでは「無免許運転」の基本的な考え方に触れながら、逮捕されるケースや逮捕後の流れなどを解説していきます。
1、「無免許運転」とは? 不携帯・期限切れとの違い
「無免許運転」とは、運転免許を受けずに自動車や原動機付自転車を運転する行為です。
道路交通法第64条1項によって無免許運転が禁止されています。
ここでは、無免許運転の定義を詳しく説明した上、紛らわしい「不携帯」や「期限切れ」の考え方などを解説します。
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(1)無免許運転の定義
道路交通法64条1項では、無免許運転とは「何人も、第84条第1項の規定による公安委員会の運転免許を受けないで(…略…)、自動車又は原動機付自転車を運転してはならない」と定義しています。
ここでいう「公安委員会の運転免許を受けない」とは、次の状態を指します。- そもそも免許を取得していない
- 免許は取得しているが、免許対象外の車種を運転する
- 事故や違反が累積して免許停止を受けている
- 事故・違反の累積で免許が取り消された
- 免許の有効期限を過ぎている
一般的には「そもそも免許を取得していない」状態が無免許だと認識されている傾向がありますが、行政処分によって免許の効力が停止している場合や対象外の車種を運転した場合も無免許となります。
冒頭で紹介した都議のケースも、違反の累積によって免許停止の処分を受けている期間中の事件でした。 -
(2)免許不携帯との違い
運転免許は、公安委員会によって「交付」され、その有効期限内であれば効力を持ちます。運転中に免許証を携えていなくても、交付による効力がなくなるわけではないので無免許運転にはなりません。
ただし、道路交通法第95条1項は、自動車等を運転する際は「免許証を携帯していなければならない」と定めています。そのため、免許証を携帯せずに運転すると「免許不携帯」という違反となります。 -
(3)免許の有効期限切れの扱い
運転免許には有効期限があります。
- 基本は交付から5年
- 免許取得後5年未満・違反運転者・71歳以上の高齢者は、3年
※有効期限が完了する直前の誕生日に71歳を迎える人は4年
有効期限が過ぎた運転免許は効力を失うため、免許が失効しているのに自動車などを運転すると無免許運転です。
なお、免許証に記載している有効期限を過ぎた場合、有効期限の経過から6か月以内なら適性試験を受けるだけで再交付が可能です。
6か月を過ぎてしまうと、長期の入院や海外滞在などのやむを得ない理由がない限り改めて免許を取得しなければならないので注意しましょう。 -
(4)無免許運転に対する罰則
無免許運転は道路交通法第64条1項の違反です。同法第117条の2の2第2号が適用され、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。これは道路交通法という法律の違反に対する「刑事罰」です。無免許運転は、さらに「違反点数の加算」という処分も受けます。
無免許運転の違反点数は25点です。過去に免許停止・取り消しといった行政処分を受けた経歴がない場合でも一発で免許取り消しを受けたうえで、さらに2年間は再取得できません。
過去に行政処分を受けた経歴が2回なら再取得の欠格期間は3年、3回以上なら4年です。
2、無免許運転で人身事故を起こすとどうなる?
交通事故を起こすと、警察官から免許証の提示を求められます。無免許運転であれば、当然、どのような言い逃れをしても無免許であることは発覚してしまうでしょう。
仮に相手方に怪我を負わせてしまった場合、厳しい処分は免れられません。無免許運転で人身事故を起こすとどうなってしまうのでしょうか?
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(1)逮捕の危険が高まる
交通事故で逮捕され場合は、住所が不定である、相手の生死にかかわるほどの重大事故で厳しい処罰が予想される、事故現場から逃走を図ったなど、住所不定、逃走や罪証隠滅のおそれがある場合に限られます。
そのため、無免許運転で交通事故を起こした場合、厳罰も予想されることから、逃走や罪証隠滅のおそれがある判断され、逮捕の危険も高まります。相手方が怪我を負ってしまった人身事故の場合、逮捕される危険はより高くなると考えられます。
無免許運転は、交通社会における根幹ともいえる「運転免許」という制度を無視しているため法律を守る規範意識が欠けているという点や、厳罰が予想されるため逃亡・証拠隠滅を図る危険が高いという点から、警察は逮捕を視野に捜査を進めるでしょう。
一方、運転免許を受けていて、その場から逃走せず救護措置などの義務を尽くしていれば、相手方に怪我がない物損事故や、相手方に軽傷を負わせただけに留まる人身事故では、逮捕されるケースはまれといえます。 -
(2)通常の事故・違反よりも厳しい処分を受ける
人身事故を起こすと「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下「自動車運転処罰法」と呼称します)の定めによって刑事罰が科されます。
- 過失運転致死傷(法5条)
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合
7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金。ただしその傷害が軽いときは情状によりその刑を免除できる - 危険運転致死傷(法2条)
以下の行為を行い、よって、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役- 一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
- 二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
- 三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
- 四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- 五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(略)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
- 六 高速自動車国道(略)又は自動車専用道路(略)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(略)をさせる行為
- 七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- 八 通行禁止道路(略)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
これは、運転免許を受けている人が人身事故を起こした場合の刑事罰です。
無免許運転の場合は、以下のとおり、自動車運転処罰法第6条によって刑が加重されます。- 無免許運転+過失運転致死傷……10年以下の懲役
- 無免許運転+危険運転致傷(法2条3号を除く)……6月以上の有期懲役
このように、無免許運転の場合、不注意による過失運転致死傷でも禁錮・罰金の規定がなく、有罪判決の場合は懲役刑が言い渡されます。また、無免許運転かつ危険運転によって相手を負傷させた場合、有期懲役の上限が20年なので、6月以上20年以下の懲役刑になります。
処分が厳しくなるのは刑事罰だけではありません。無免許運転の違反点数に加えて、人身事故の付加点数が相手方の死傷程度に応じて2~20点が加算されます。
例えば、無免許運転に加えて、自分の不注意で相手を死亡させてしまうと、無免許運転の基礎点数25点に加えて人身事故の付加点数20点で、合計は45点です。
過去に行政処分を受けたことがなくても、一発で免許が取り消されたうえで5年間は再取得が認められません。 - 過失運転致死傷(法5条)
3、無免許運転で逮捕されるとどうなる?
無免許運転が発覚して警察に逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか?
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(1)基本的な刑事事件の流れ
逮捕された場合、次のような流れで刑事手続きが進みます。
- 警察による48時間以内の身柄拘束役
- 検察官への送致(送検)
- 検察官による24時間以内の身柄拘束役
- 釈放または10日間の勾留による身柄拘束+10日以内の勾留延長
- 検察官による起訴・不起訴
- 刑事裁判が開かれる
逮捕から起訴・不起訴の判断までには最長で23日間にわたる身柄拘束を受けるため、帰宅することも、会社や学校へ行くこともできません。
社会的な悪影響が大きいため、早期釈放を目指す必要があります。 -
(2)無免許運転はどのくらい身柄を拘束される?
無免許運転は悪質な違反ですが、必ず長期の身柄拘束を受けるわけではありません。
身元がはっきりしていて容疑を否認していない、家族などが無免許運転に加担していないといった単純なケースでは、警察の段階で釈放されたり、検察官の段階で勾留請求をされず釈放されたりするケースもあります。
一方で、身元を明らかにしない、家族や周囲の人が無免許を知っていて車両を提供していた疑いがある、人身事故が絡んでいて事故原因の究明や証拠の確保に時間がかかるといった場合は、身柄拘束が長引いてしまうおそれがあります。
4、早期釈放・処分の軽減を目指すなら直ちに弁護士へ!
無免許運転には刑事罰・行政処分の両面で重い責任が課せられます。
状況次第では身柄拘束が長引くおそれもあるので、逮捕されたら直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
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(1)早期釈放を目指した弁護活動が期待できる
無免許運転が事実でも、住所が定まっていて、逃亡や証拠隠滅を図るおそれがないにもかかわらず身体拘束を継続することは、違法かつ不当な処分です。
社会的な悪影響を抑えるためにも、早期釈放を目指さなくてはなりません。
弁護士のサポートがあれば、捜査機関に対して逃亡や証拠隠滅の危険がないことを客観的に主張したり、裁判所に対し不服申立てをしたりすることで、早期釈放を実現できる可能性が高まります。
身柄拘束を受けない在宅事件として処理される流れになれば、会社や学校などへの影響は最小限に抑えられるはずです。 -
(2)過度に厳しい処分を回避できる可能性が高まる
無免許運転には厳しい刑罰と行政処分が予定されています。しかし、さまざまな事情に照らして特に悪質性が高いケースでなければ、厳しい処分を科すことが不当な場合もあるでしょう。過度に厳しい処分が下されてしまうと、会社からの解雇や公的資格の喪失などにつながり、社会復帰を困難にしてしますこともあります。
弁護士に依頼すれば、特に悪質な意図があったわけではないことや過度に厳しい処分は不要であることを捜査機関や裁判所に主張し、よる軽い処分の獲得を目指すことが可能です。
初犯で単純な無免許運転であれば、簡易的な手続きによって迅速に処理を終わらせる「略式手続」によって罰金だけで済む可能性があります。また、公判が開かれた場合であっても、懲役に執行猶予がつくといった有利な結果が期待できるので、社会的な不利益を回避するためにも、弁護士による迅速な対応が必須です。
5、まとめ
「無免許運転」は悪質な交通違反のひとつとして取り締まりの対象になっており、摘発されれば法律の定めによって厳しい刑事罰や行政処分を受ける可能性があります。
逮捕・勾留によって長期の身柄拘束を受ければ家庭・会社・学校といった社会生活にも大きな影響が生じるので、素早い対応が必要です。
無免許運転が発覚して逮捕されてしまった場合は、交通事件・刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 新宿オフィスにご相談ください。
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