あおり運転は暴行罪で逮捕? 道交法違反で済まない容疑の可能性
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昨今、「あおり運転」の厳罰化が進んでいます。交通量の多い東京都内、特に新宿区周辺では混み合うことが多く、さほどスピードが出ないことから、逮捕されることはないと思われるかもしれません。しかし、首都高速や青梅街道などの幹線道路もありますし、あおり運転とみなされる行為は多岐にわたります。運転される方にとっては、ひとごとではないニュースでしょう。
あおり運転によって警察のお世話になってしまうと、状況によっては、道路交通法違反の罪にとどまらず、刑法の暴行罪が成立する可能性もあるのです。
どのような行為があおり運転にあたり、さらに、刑法犯として逮捕される可能性があるのか、ご存じでしょうか。今回は、あおり運転で検挙される可能性があるのかなど、あおり運転の概要について、新宿オフィスの弁護士が説明します。
1、あおり運転で成立する犯罪とは
あおり運転とは、通常は前や横を走る自動車の運転を妨害するような行為を指します。実際に交通事故を起こしたかどうかに関わらず、あおり運転にあたる行為をすれば道路交通法違反や、暴行罪にあたる可能性があります。
具体的に、どのような犯罪が成立してしまうのかを、まずは知っておきましょう。
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(1)あおり運転の内容と実態
法律上、「あおり運転罪」という名前の犯罪はありません。つまり、実際のところは、あおり運転とみなされる運転をした状況や、実際にした運転の内容などによって、従来の道路交通法や刑法で定められている犯罪にみなされる、ということになります。
あおり運転とみなされる可能性がある行動は以下のとおりです。- 相手の車に対して、不必要な幅寄せや車間距離を詰める行為
- 相手の車周辺の蛇行運転
- 不必要なパッシングやハイビーム
- クラクションを鳴らすなどの行動
もともと、あおり運転によって人身事故を引き起こした場合は、道路交通法違反として逮捕され、過失運転致死傷罪、危険運転致死傷罪など、より重い刑罰が科される可能性がありました。しかし、平成30年1月からの厳罰化に伴い、道路交通法違反だけでなく、刑法犯として逮捕・起訴されたケースが多々見られるようになっています。
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(2)あおり運転で検挙される具体的ケース
平成30年6月1日から7日まで、全国であおり運転の取り締まりが一斉に行われました。期間中の1週間であおり運転とみなされて検挙された数は、なんと約1300件にも上ります。
実際に検挙されたあおり運転の態様は、次のようになりました。- 車間距離保持義務違反……1088件
- 追い越し方法違反……110件
- 進路変更禁止違反……56件
- 合図不履行違反……41件
なお、平成29年中に高速道路で車間距離保持義務違反として検挙された件数は6139件だったことからも、平成30年からより厳しく取り締まろうとする警察の姿勢がうかがえます。
では、今回、あおり運転の発露として取り締まられた主な違反行為が具体的にはどのような行為か、次で説明していきます。 -
(3)道路交通法違反のあおり運転行為
警視庁のサイトでは、あおり運転を「重大な交通事故につながる悪質・危険な行為」と明示しています。つまり、重大な交通事故を未然に防ぐため、あおり運転と判断される運転を行う者を厳しく取り締まるようになりました。
前述の、あおり運転の取り締まりで検挙された数をベースに、多かったものから、具体的にどのような理由で違反に該当し、どのような罰則に処されることになるのかを解説します。
●車間距離保持義務違反(道路交通法第26条)
前の車と必要以上に接近する行為です。走行する道路や速度などから、安全な運転をするために必要不可欠となる車間距離は厳密に定められています。該当した場合の罰則は、高速道の場合は「3ヶ月以下の懲役刑」または「5万円以下の罰金刑」に処されます。そのほか一般道の場合は「5万円以下の罰金刑」が科されることになります。
●追い越し違反(道路交通法第28条)
追い越しは、右車線からすることが決められています。左車線から追い越しをすると「追い越し違反」にあたり、検挙される可能性があります。該当した場合は、「3ヶ月以下の懲役刑」または「5万円以下の罰金」の罰則に処されることになります。
●進路変更禁止違反(道路交通法第26条の2)
隣の車線の車に幅寄せをする行為を指します。罰則は「5万円以下の罰金刑」に該当します。
●合図不履行違反(道路交通法第53条)
出すべき場所で方向指示器を出さなかった場合を指します。罰則は「5万円以下の罰金刑」に該当します。減点や反則金などの処分を受ける可能性もあります。罰則としては厳しいものではないかもしれませんが、合図を出さずに進路変更などをするとあおり行為とされる可能性もあります。
そのほかにも、道路交通法違反として取り締まりの対象となり、あおり運転行為とみなされる可能性がある道路交通法は以下のとおりです。- 急ブレーキ禁止違反(道路交通法第24条)
- 安全運転義務違反(道路交通法第70条)
- 警音器使用制限違反(道路交通法法第54条)
- 減光等義務違反(道路交通法第52条)
- 初心運転者等保護義務違反(道路交通法第71条)
なお、あおり運転とみなされて検挙された際、警察で「危険性帯有者」だと判断されると、運転免許の停止処分を受けることもあるでしょう。これは、「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある」と判断されたときに該当します。たとえ事故を起こしていなくても、点数制度による処分に至らない違反内容でも、処分を受ける可能性があるため、注意が必要です。
※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
>あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説
2、道交法だけではない! あおり運転が重い罪になるケース
あおり運転行為によって与えられる処罰は、道路交通法違反によるものだけではありません。状況によって暴行罪をはじめとした刑法犯とみなされ、逮捕・起訴される可能性があります。
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(1)あおり運転が暴行罪に該当する理由
暴行罪は、刑法第208条に規定されている罪です。刑法上の規定では、暴行しても相手がケガをしなかったときに該当します。ここで示されている「暴行」は、相手を殴る蹴るなどの明確な暴力だけではなく、相手が身体的な被害を受ける可能性がある不法な力を加えれば成立するとされています。たとえば、石を投げる、水をかけるなどの行為によって、暴行罪に問われる可能性があるということです。
あおり運転においては、車間距離を詰める、幅寄せをするなどの威嚇行為が、「相手に対して不法な力を加えた」と判断されます。被害者に対して、死傷事故を招く危険がある運転をしたケースでは暴行にあたるみなされる可能性があります。 -
(2)暴行罪にあたるあおり運転の実例
あおり運転による暴行の疑いで検挙された事件は、次のようなものがあります。
- 後方からハイビームをしながら車間距離を詰める行為
- クラクションによって威嚇しながら車間距離を詰める行為
- 並走する原動機付自転車に対して強引な幅寄せをした行為
- 高速道路で、大型トラックが被害者の車に嫌がらせ目的で幅寄せした
- 追い越しをして急ブレーキを繰り返す行為
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(3)あおり運転で成立しうるそのほかの罪
あおり運転とされる行為が幅広いこともあり、状態や結果などに伴い、適用される法律は多岐にわたります。道路交通法違反や暴行罪のほかに、適用される可能性がある罪は以下のとおりです。
●過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)
過失運転致死傷罪は、過失、つまり不注意で人身事故を起こした場合に成立する罪です。あおり運転によって注意散漫になり人身事故を起こしたようなケースでは、過失運転致死傷罪にあたるとして、「7年以下の懲役刑」もしくは「禁錮(きんこ)」または「100万円以下の罰金刑」が科される可能性があります。
●危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条)
危険運転致死傷罪は、故意に危険な運転をして人身事故を起こした場合に成立します。具体的には、「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」が対象になります。該当したとき、相手が負傷したケースでは「15年以下の懲役」、亡くなった場合は「1年以上20年以下の懲役」が科されることになります。
●殺人罪
あおり運転でも、殺人罪が成立する可能性があります。実際に、平成30年夏、加害者が運転する車が被害者のバイクに追い抜かれたことに腹を立ててあおり運転を繰り返し、最終的に時速96キロで追突して被害者を死亡させた事件では、ドライブレコーダーに残っていた音声から「相手が死んでも構わない」という未必の故意があるとして殺人罪で起訴されています。
3、あおり運転による逮捕をされたら?
「わりこみをされた」「前の車のスピードが遅い」などの理由で腹を立て、あおり運転をしてしまう方は少なくありません。それは、新宿区内のようにスピードが出しづらい道路でも起こり得ることです。
では実際に、あおり運転を理由に逮捕されてしまったとき、どのように刑事手続きが行われていくのかを、あらかじめ知っておきましょう。手順を知ることは、万が一の際、将来への影響を最小限に抑えるためにできる対応の幅を広げる第一歩となります。
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(1)あおり運転で逮捕されてから刑事手続きの流れを解説
逮捕後は身柄を拘束され、48時間以内に警察からの取調べを受けます。事件を裁く必要があると判断されれば、検察へ送検され、24時間以内に検察官による捜査を受けます。検察官が引き続き取り調べる必要があると判断し、裁判官も同じ見解の場合は、10日間「勾留(こうりゅう)」されます。勾留は最大20日間に及ぶこともあります。
もちろん、逮捕・勾留されている間は帰宅もできませんし、仕事や学校へ行くこともできません。留置場や拘置所で寝泊まりをすることになります。 -
(2)あおり運転で前科がつかない可能性は?
日本では、刑事訴訟法にのっとり、事件を裁判にかけるかどうかを決める権限は検察にあります。裁判にかけることを「起訴」といいます。起訴されなければ「不起訴処分」として、身柄を釈放され、前科がつくことなく事件は終わります。
起訴には正式裁判(公判)と、罰金のみの略式裁判の2種類があります。起訴となったとき、公判請求されたときは、引き続き身柄が拘束され続けることになります。なお、日本の刑事司法では、起訴後の有罪率は99パーセントと非常に高いのが実情です。起訴されれば、ほぼ有罪になり、前科がつくと考えておいたほうがよいでしょう。
将来への影響をできるだけ最小限に抑えるためには、まずは早期に身柄拘束が解かれることと、不起訴を目指すことが、重要なポイントになります。 -
(3)あおり運転で弁護士を頼むべき?
まず、逮捕から勾留が決まるまでの72時間は、家族や知人との面会や連絡を取ることが制限されます。逮捕された本人と接見し、直接話ができる警察関係者以外の人物は、依頼した弁護士だけになります。弁護士を呼び、アドバイスを受けることは今後の手続きを進める上でも、とても有効です。刑事手続きの部分だけでなく、家族や会社・学校などへの連絡をするほか、精神的な支えにもなるはずです。
また、釈放や、起訴後の保釈を目指すための活動はもちろん、裁判になったときも罪を軽くするための弁護活動は、弁護士しかできません。被害者の方に謝罪と賠償を尽くして示談に応じてもらうことは、大変大きな意味を持ちます。状況にもよりますが、反省度合いなどが認められれば、前科がつくことを回避することも可能となるでしょう。
4、まとめ
あおり運転について、該当する犯罪の種類や逮捕後の手続きについて解説しました。都内でも、あおり運転で検挙・逮捕される可能性は十分にあることをご理解いただけたかと思います。前述のとおり、昨今、あおり運転は厳罰化が進み、警察の対応も厳しくなっています。おそらく、自分が該当してしまわないか、不安に思われる方もいるでしょう。
まずは安全運転を心がけてください。カッとしないよう、心を落ち着けて運転することがもっとも大切です。それでも、万が一、あおり運転で逮捕されたら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。取るべき対応が明確になるため、安心につながるのではないでしょうか。
交通事故や刑事事件の対応経験が豊富な、ベリーベスト法律事務所・新宿オフィスの弁護士も力を尽くします。逮捕への不安があるなどお困りであればお気軽にご相談ください。
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