警察官に暴行を加えた場合はどうなる? 公務執行妨害罪の概要を解説
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令和3年7月、東京都新宿区の国立競技場近くの路上で、東京オリンピックへの抗議活動をしていた男性が警備をしていた警察官ともみ合いになり、公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕されました。
公務執行妨害のニュースはたびたび耳にすることがありますが、暴力団員など特別に乱暴な人たちだけが公務執行妨害事件を起こすわけではありません。思いがけない人物でも、ほんのわずかなトラブルから公務執行妨害に発展して逮捕されてしまうケースもあるのです。
もし、あなたの家族が公務執行妨害で逮捕されたとしたら、どうしたらよいのかご存じでしょうか。今回は、公務執行妨害罪の概要や罰則などを、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、公務執行妨害罪の概要
「公務執行妨害」は、ニュースやドラマなどでも耳にすることが多い犯罪でしょう。しかし、具体的に何をしたら公務執行妨害として罪に問われることになるのか? について、詳しく知る機会はなかなかないものです。まずは、公務執行妨害の概要について解説します。
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(1)公務執行妨害罪の法的根拠
公務執行妨害は、刑法第5章「公務の執行を妨害する罪」の中に規定されている犯罪のひとつです。公務執行妨害罪は刑法第95条1項に規定されており、条文では「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者」と示されています。
この条文が、公務執行妨害罪という犯罪の根拠となっています。 -
(2)公務執行妨害の罰則
公務執行妨害罪を犯し、刑事裁判で有罪判決を受けた場合は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」という刑罰が科せられます。
実際に刑事裁判に発展した場合は、この罰則の範囲内で判決が下されることとなります。
ただし、冒頭の事例のように、「公務執行妨害」と個人に対する「殺人未遂罪」(自動車で故意に歩行者を轢くような場合には殺人罪が成立する可能性があります。)など、そのほかの犯罪も同時に成立しているときは、法律上より刑罰が重いほうの犯罪の刑罰が処されることになります。
2、公務執行妨害罪が成立する条件
冒頭の事例では、職務質問中の警察官に車を接触させて逃走した点について、公務執行妨害罪の成立を認めています。職務質問中の警察官は、条文のとおり、「職務執行中の公務員」であることは間違いありません。しかし、車を接触させる行為は暴行にあたるのでしょうか?
どのような場合に公務執行妨害罪が成立するのかを解説していきましょう。
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(1)公務員とは?
公務員とは、刑法第7条に規定されている次の者を指します。
- 国または地方公共団体の職員
- 法令により公務に従事する議員、委員、その他職員
具体的には、事例のように警察官はもちろん、自衛官や消防官、市区町村の役所の職員などが挙げられます。また、国や地方公共団体に採用されている職員であれば公務員に該当するため、公立学校の教職員・公立病院の医師や職員なども公務員に該当します。具体的には、採用試験などを経て定年退職するまで勤務できる公務員のほか、選挙を通じて選出された国会議員・都道府県や市町村の議員なども公務員とみなされます。
さらに、国や地方公共団体からの嘱託を受けて公務に従事する職員は「みなし公務員」として公務員と同じ扱いを受けることになります。たとえば、アルバイトや契約職員として役所の窓口応対をする人や、市街地で違法駐車を取り締まる駐車監視員などは、一般企業の職員であっても、その職務中は公務執行妨害罪に規定される公務員となります。
ただし、公務執行妨害罪が保護するのは「公務員」や「公務員という立場の個人」ではありません。刑法によって保護しているのは「公務員の職務」そのものです。つまり、公務員という身分を特別に保護し守っているのではなく、公務員が担う「公務」が妨害されないように保護しているのです。
たとえば、適切に職務質問を行っている警察官に暴行を加えた場合は公務執行妨害罪が成立するとともに、警察官個人に対する「暴行罪」が成立します。しかし、勤務を終えて帰宅途中の同じ警察官個人に暴行を加えた場合は、公務執行妨害ではなく、「暴行罪」のみが成立することになります。 -
(2)暴行・脅迫とは?
「暴行・脅迫」とは、単純にイメージする、殴る・蹴るなどの暴力や「殺すぞ」などと危害を加える言葉を投げかけることだけではありません。
公務執行妨害における「暴行」とは、暴行罪で定義されている「不法な有形力の行使」よりもさらに広い解釈がなされます。つまり、身体そのものには接触していなくても、該当の行為によって相手の身体に物理的な影響を与える可能性がある行為すべてが含まれます。
具体的には、殴る蹴るなどの暴力はもちろん、胸ぐらをつかむ、強く引っぱる、押し倒す、足元に物を投げつける、持ち物を蹴飛ばす、あおり運転をする……など、暴行罪における暴行行為のほか、パトカーを蹴飛ばすなどの行為も、広い意味で「暴行」とみなされる可能性があります。
もし、公務執行妨害に該当する行為によって相手が負傷したら、「傷害罪」も適用されることになります。なお、冒頭の事例では、職務中の警察官に車を接触させ、負傷させていることから、公務執行妨害罪が成立することになります。さらに生身の人間に車を接触させるという行為自体に殺意があったとみなして「殺人未遂罪」としても罪が問われていると考えられます。
また、公務執行妨害における「脅迫」は、「害悪の告知」とみなされれば成立します。たとえば、殺すぞなどの直接的な言葉のほかにも、言われた相手が恐怖を感じる内容であれば、適用される可能性があるということです。
ただし、役所に「爆弾を仕掛けた」と電話をかけることは、公務執行妨害における「脅迫」というよりも、威力業務妨害容疑として捜査を受ける対象となる可能性があります。
3、公務執行妨害罪と別の犯罪が同時に発生したらどうなる?
前述したとおり、冒頭の事例のように、職務中の警察官に対して車を衝突させる行為は、公務執行妨害罪である以前に、個人に対する「車を衝突させる」という暴行罪が成立しています。また、本事例では、車と衝突した警察官は骨折などの重傷を負っているため、傷害罪が成立することにもなります。さらに、車を衝突させた暴力団員に殺意があったことが明確になれば、本格的に殺人未遂罪にも問われることになるでしょう。
このように、ひとつの行為が複数の犯罪に該当することを刑法では「観念的競合」と呼びます。観念的競合とみなされる状況で罪に問われ、有罪となったときは、「競合している罪の刑罰を比べ、より重いほうの刑によって処断する」よう、刑法第54条第1項によって定められています。
たとえば冒頭の事例では、公務執行妨害罪のほか「殺意があった」として殺人未遂罪でも立件しているため、公務執行妨害罪よりも刑罰が重い殺人未遂罪で刑罰を受けることになると考えられます。
4、公務執行妨害事件で弁護士を選任するメリット
公務執行妨害罪で逮捕された場合、次のような刑事手続きを受けることになります。
- 逮捕(48時間以内の身柄拘束)
- 送致(検察庁への身柄引き渡し)
- 勾留(送致から24時間以内に決定、継続捜査のため10日~20日間の身柄拘束)
- 起訴(刑事裁判の提起)
- 被告人勾留(裁判の判決までの身柄拘束)
公務執行妨害罪は、ほかの犯罪と比べると捜査項目や証拠収集の手間が少ないことから、長期の勾留が不要となることが多く、身柄拘束は短期間で終わる可能性もあります。
ただし、たとえ短期間であっても、身柄拘束を受けることで仕事を欠勤したり、逮捕による実名報道を受けたりして、社会的な不利益を被る可能性は否めません。また、もちろん有罪となれば、前科がつくことになります。
そのため、もし家族や友人・知人などが公務執行妨害事件の容疑者として逮捕されてしまった場合は、速やかに弁護士に相談し、アドバイスを求める必要があります。
なお、そのほかの被害者がいる犯罪では、被害者との示談によって減刑を望めるケースがありますが、公務執行妨害の場合は示談ができません。これは、前述したとおり、公務執行妨害罪の被害者は「公務員個人」ではなく、「国や地方公共団体」となるためです。
しかし、弁護士を選任するメリットは多々あります。
たとえば、逮捕されて勾留が決定するまでの最大で72時間以内は、たとえ家族であっても逮捕された人との面会はできません。この期間中に面会ができるのは弁護士だけです。
逮捕された人に、取り調べに臨むためのアドバイスを与えることや、今後のサポートについて詳しく説明することは、身柄を拘束されている現状においては強い心の支えになります。また、示談交渉ができなくても、これまでの生活態度や社会的な立場などを踏まえた意見書を弁護士が作成し、捜査機関に提出することで、勾留期間の短縮や釈放、起訴の回避や刑罰の軽減などが期待できるでしょう。
もし、家族や友人・知人が公務執行妨害事件の容疑者として逮捕された場合は、迷うことなく速やかに弁護士に相談し、対策を講じてもらうことをおすすめします。
5、まとめ
公務執行妨害事件で逮捕されてしまった方の中には、日頃はごく普通な生活を送っている人も少なくありません。酔っ払っていた、トラブルで興奮していたなど、ささいな小競り合いから公務執行妨害罪に問われるケースのほうが多いかもしれません。
本人が深く反省していて、相手が無傷でかつ本人に前科がなく、家族が身元引受人となれば、長期にわたる身柄の拘束は受けずに済む可能性があります。
家族や友人・知人が公務執行妨害罪で逮捕されてしまったときは、ベリーベスト法律事務所・新宿オフィスへ相談してください。公務執行妨害事件の対応実績が豊富な弁護士が、適切な弁護活動を行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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