給料の前借りサービスは落とし穴も? 給料ファクタリングの注意点
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給料ファクタリング業者が債務者である顧客の債務不履行を訴えた裁判で、令和2年3月、東京地方裁判所は契約内容の違法性から原告であるファクタリング業者の訴えを退ける判決を言い渡しました。
一時期社会的な問題となった消費者金融やカードローンと同様に、給料ファクタリングに関する問題がクローズアップされるようになっています。
給料所得者にとって給料ファクタリングは生活資金の手軽な調達手段に思えるかもしれません。しかし、給料ファクタリング業者のなかには法の抜け穴をつくような悪質な業者も存在しており、その安易な利用によって資金的に行き詰まってしまう人が増えているのです。
そこで本コラムでは、給料ファクタリングの概要からこれから給料ファクタリングの活用を検討している人が注意すべき点、そして給料ファクタリングでトラブルになってしまったときの対処法について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、給料ファクタリングとはどのようなサービスか?
ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権などをファクタリング業者に売却して、現金化する、企業の資金調達手段のひとつです。このとき企業はファクタリング業者に手数料を支払いますが、企業としては早期に売掛債権の資金化ができること、売掛債権が回収されずに焦げ付くリスクをファクタリング業者に移転できるというメリットがあります。
そして、給料ファクタリングは、労働者が勤務先から受け取る予定の給料債権を給料ファクタリング業者に売却し、給料が支払われる前に現金を得るものです。
たとえば、個人が勤務先から受け取る予定の20万円の給料債権をファクタリング業者に売却し、手数料2万円を差し引いた金額18万円を受け取ったとします。この場合、後日勤務先から受け取った給与20万円をファクタリング業者に渡すことになるのです。
労働基準法第24条第1項は、企業などの使用者は労働者に対して直接給料を支払わなければならないと規定しています。もし、労働者が生活資金に困った場合、使用者に対して給料の「前借り」をする手段も考えられますが、給料の「前借り」に対応してくれる使用者は少ないでしょう。
そのため、あたかも給料の前借りのようにも見える給料ファクタリングの利用が広がってきたのです。
しかし、給料ファクタリングは、給料の前借りというよりは、実質的にファクタリング業者との給料債権の売買、さらには個人の給料債権を担保にしたファクタリング業者からの借金とみる方が適切と考えられます。
2、給料ファクタリングの問題点とは?
給料ファクタリングに、法的な問題点はないのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
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(1)各種法律による利息・金利の制限と罰則
違法な金利に対しては、かつて高金利の消費者金融が社会問題化したこともあり厳しい規制が設けられています。
●貸金業者による年20%を超える利息
「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)」第5条第2項は、貸金業者が年20%を超える利息の契約をしたときは5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する、と定めています。
●貸金業者による年109.5%を超える金利
さらに、「貸金業法」第42条第1項は、貸金業者が年109.5%(うるう年は109.8%、1日あたり0.3%)を超える金利で契約を締結していた場合その契約は無効になる、と定めています。また、「出資法」第5条第3項は、上記契約をした貸金業者に対して10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金を処し、またはこれを併科する、と定めています。
●貸金業者以外で年109.5%を超える金利
「出資法」第5条第1項は、貸金業者ではない立場でお金を貸していた場合でも、年109.5%(うるう年は109.8%、1日あたり0.3%)を超える金利で契約を行っていた場合は、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する、と定めています。 -
(2)手数料に対する規制
給料ファクタリング業者のなかには、「給料ファクタリングで利用者から受け取るのは債権売買に関する手数料であり、金利ではない。したがって、給料ファクタリングは金銭の貸し付けではなく、給料ファクタリング業者は貸金業者ではない」と主張する業者が存在します。
確かに、現行の法律では種類を問わず「手数料」の上限を規定する法律はありません。しかし、冒頭でご紹介した東京地方裁判所は、給料ファクタリングと給料ファクタリング業者について、以下のように判示しています。- 給料ファクタリングは、経済的には貸し付けによる金銭の交付と返還の約束と同様の機能を有し、貸金業法や出資法にいう貸し付けに該当する。
- 当該給料ファクタリング業者は貸金業法にいう貸金業を営む者に該当する。
- 貸金業法第42条1項の定める年109.5%を大幅に超過した契約は無効であり、当該給料ファクタリング業者は出資法第5条第3項に違反し刑事罰の対象になる。
- 被告は当該給料ファクタリング業者から交付を受けた金銭の返還義務を負わない。
このように、裁判例は「給料ファクタリング業者は貸金業者であり、貸金業法その他の法令に服すべき」としているのです。
3、違法業者の特徴とは?
他の借金と同様、給料ファクタリングはできれば活用すべきではありません。しかし、どうしても給料ファクタリングを活用せざるを得ない場合は、慎重に給料ファクタリング業者を選ぶ必要があります。
怪しい給料ファクタリング業者の特徴を押さえておきましょう。
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(1)貸金業者として登録していない
先述のとおり、裁判例からも給料ファクタリング業者は貸金業法における貸金業者に該当すると考えられます。貸金業を営む業者は、以下の規定を守らなくてはなりません。
- 財務局や都道府県に登録すること(貸金業法第3条)
- 無登録業者は貸金業の営業を行ってはならない(貸金業法第11条)
したがって、給料ファクタリング業者を選ぶときは、まず当該業者が合法的な貸金業者として登録されているかどうかを確認する必要があります。給料ファクタリングのサービスを提供しているにもかかわらず、当該業者が貸金業者として登録していなければ、取引すべきではありません。
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(2)金利が違法であること
先述の裁判例からも、給料ファクタリング業者のいう手数料は、債務者から受け取る「金利」といえます。したがって、給料ファクタリング業者から提示された手数料すなわち「金利」が利息制限法、貸金業法、出資法に定める上限を超えていないか、しっかりと確認してください。
もしファクタリング業者が提示した手数料の構造が複雑でわかりにくい場合は、契約を締結する前に弁護士に相談することがおすすめです。
4、給料ファクタリングで被害にあったら早めに弁護士に相談すべき理由
給料ファクタリング業者の以下のような取り立て行為は貸金業法第21条により規制されています。
- 正当な理由がないのにもかかわらず、電話や訪問などの方法で午後9時から午前8時の間に取り立て行為をすること。
- 正当な理由がないのにもかかわらず、債務者の勤務先など自宅以外の場所で取り立て行為をすること。
- 債務者の自宅・勤務先などへの訪問の際に、債務者から退去すべき旨の意思を示されたにもかかわらず、退去しないこと。
- 正当な理由がないのにもかかわらず、債務者の給料ファクタリングの利用状況に関することを、第三者に知らせること。
- 債務者に対し、第三者からの借金などにより債務弁済することを要求すること。
給料ファクタリング業者に上記のような行為があった場合、弁護士は給料ファクタリング業者に受任通知(弁護士が債務者の代理人として就任した通知のこと)を出し、あなたの代理人として違法な取り立て行為をやめるよう給料ファクタリング業者に対して交渉します。
給料ファクタリング業者の執拗な取り立て行為でお悩みの方は、お早めに弁護士へご相談ください。
また、裁判になったときも、違法な契約による債務が消滅するように適切な活動を行います。
5、まとめ
一見すると、給料ファクタリングのスキームは単なる給料の前借りのように見えてしまうため、消費者金融やカードローンといった借金よりも心理的な抵抗なく活用してしまう方もいるでしょう。しかし、給料ファクタリングは実質的に借金です。そして給料ファクタリングは裁判例はあるものの法的にグレーゾーンの側面があるため、それが落とし穴となり思わぬトラブルに陥ってしまうこともあります。
しっかりと業者を選定したにもかかわらず、トラブルになってしまったときはお早めに弁護士へご相談ください。弁護士であれば、これ以上トラブルが深刻化しないうちに代理人として適切な活動を行います。ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスでは、給料ファクタリングだけでなく債務に関するさまざまなご相談を承っております。お困りの際は、ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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