結婚が破談になった……。 取り決めておきたいお金の扱い
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東京都福祉保健局が公表している資料によると、令和元年度の新宿区内の婚姻件数は、2786件でした。同資料では平成14年度からの婚姻件数の推移がまとめられており、全国的に婚姻件数が減少しているにもかかわらず、新宿区内では、毎年2700件前後の夫婦が婚姻をしていることがわかります。
夫婦が結婚をする際には、プロポーズや両親への挨拶、結納などの段階を踏み、婚約をすることが一般的です。婚約をしたカップルは、結婚に向けて結婚式場を探したり、新生活を行う新居を探したりすることでしょう。しかし、そのようなカップルの中には、結婚目前で婚約が破談になるということも少なくありません。結婚に向けてさまざまな準備をしてきた場合には、それまでの費用はどのように清算すればよいのでしょうか。また、突然婚約を破談にしてきた相手に対して慰謝料などを請求することができるのでしょうか。
今回は、婚約が破談になったときのお金の扱いについて、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、婚約とはどのような状態をいうのか
婚約とはどのような場合に成立するのでしょうか。以下では、婚約についての基本的事項について説明します。
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(1)婚約とは
婚約とは、男女の間で将来婚姻する約束をすることをいいます。
結婚は男女が婚姻届けを市区町村役場に提出することによって成立しますので、婚姻関係が成立しているかどうかの判断は明確です。これに対して、婚約については特別な届出は要求されておらず、当事者同士が単に「約束」をすることだけで成立します。
そのため、婚約が成立しているかどうかを法的に判断することは、実は非常に判断しづらいものなのです。 -
(2)婚約を証明する方法
婚約をして無事に婚姻に至ったカップルであれば、特に婚約を証明する必要はありませんが、婚約中に婚約を破談にされたときには、後述する慰謝料請求のためにも婚約をしていたということを証明する必要があります。
一般的に以下のような事情がある場合には、婚約が成立していると判断される可能性が高いです。- ① 婚約指輪を購入し、渡していること
- ② 結納金の授受や結納の儀式を行っていること
- ③ お互いの両親へのあいさつや両家の顔合わせをしていること
- ④ 結婚式場や新婚旅行の予約をしていること
- ⑤ 婚姻後の新居の契約をしていること
どれかひとつに該当すればよいということではなく、上記のような事情の有無を総合的に考慮して、当事者間の関係を婚約ということができるかが判断されます。そのため、上記の事情を裏付ける領収書などの証拠があるときには、大切に保管をしておくようにしましょう。
2、婚約中の破談は慰謝料を請求できる?
婚約を破談にされたときには、その理由によっては、婚約を破談にした相手に対して慰謝料請求をすることが可能です。
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(1)破談の理由によっては慰謝料請求可能
婚約は、婚約をした男女に対して婚姻を強制させる法的効力はありませんので、一方の申出により婚約を破談にすること自体は可能です。しかし、婚約は、単なる約束ではありませんので、正当な理由なく婚約を一方的に破棄したときには、慰謝料請求をすることが可能になる場合があります。
たとえば、婚約中に婚約相手が浮気をしたことや婚約相手から暴力を振るわれたという場合、浮気や暴力の被害者側から婚約を破棄することには正当な理由がありますので、婚約を破棄したとしても慰謝料を請求されることはありません。 -
(2)正当な理由のない婚約破棄の具体例
婚約破棄に正当な理由かあるかどうかは、法律的な判断になりますので、それぞれの事案毎に考えなければいけませんが、正当な理由の有無が争われる代表的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
① 不貞行為をした婚約者による婚約破棄
婚約中に浮気をしてしまい、その浮気相手に心変わりをしたため婚約者に婚約破棄を申し出るということがあります。このような理由の婚約破棄には、当然正当な理由はありません。
浮気をした婚約者に対して、慰謝料請求をすることが可能です。
② 性格が合わないという理由での婚約破棄
単に性格が合わない、価値観が違うなどの理由は、婚約を破棄する正当な理由になりません。婚約をするかどうかを判断するにあたっては、相手の性格や相性なども慎重に判断したうえで行うようにしましょう。ただし、婚約相手の性格・価値観が社会通念から逸脱しており、そのために婚約関係が維持できないというような場合は、正当な理由が認められる場合があります。
③ 親が結婚に反対しているという理由での婚約破棄
結婚をする当事者は、婚約をしたカップルですので、親が結婚に反対しているというのは婚約破棄の正当な理由にはなりません。婚約にあたっては、お互いの両親にあいさつに行き、納得を得たうえで行うようにするとよいでしょう。ただし、親が反対している状況で婚約することによって結婚後の夫婦生活にも多大な影響が出るようなケースでは、正当な理由として認められることもあります。
④ 明確な理由のない婚約破棄
何となく結婚したくないという明確な理由のない婚約破棄も正当な理由のない婚約破棄になります。お互い結婚に向けて準備をしているにもかかわらず、このような身勝手な理由で婚約を破棄することは、婚約相手の信頼を裏切るものですので、慰謝料請求をされてしまうことになります。
3、結納金はどうなるの?
婚約にあたって結納金が授受されていることがあります。婚約を破棄したときには、すでにもらってしまった結納金については返還する必要があるのでしょうか。
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(1)結納金とは
結納金とは、結納儀式の際に、男性から女性に贈られる結婚の準備金のことをいいます。結納で用意される結納品のひとつとして結納金があります。
結納金の金額は、地域や家柄などによってケースバイケースですが、100万円程度になることが多いでしょう。 -
(2)原則として結納金の返還が必要
結納金の法的性質としては、婚姻の成立に向けて授受される贈与契約の一種であると考えられます。そのため、贈与の目的である婚姻が成立しなかった場合には、原則として、結納金を返還しなければなりません。
もっとも、婚約破棄に関して責任のある婚約者からの結納金の返還請求は、信義則上許されないとされています。そのため、結納金を渡した男性が浮気や暴力を振るったなどの理由で婚約を破棄することになった場合には、男性側からの結納金の返還は認められない可能性があります。
なお、結納金の返還を認めないかどうかの判断は、婚約の解消にあたって責任があるかどうかが基準であり、どちらが婚約の破棄を申し入れたかということだけで決まる問題ではありませんので注意が必要です。
4、式場のキャンセル料や新居費用の清算は?
婚約をしたカップルは結婚式場を予約していたり、新居の契約をして初期費用などを支払っていることがあります。これらをキャンセルしたときに発生する費用については、どちらが負担することになるのでしょうか。
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(1)結婚式場のキャンセル料について
結婚式場の予約をしているカップルが婚約破棄をしたときには、その予約もキャンセルすることになります。挙式まで日がない状況でキャンセルとなった場合には、式場から高額なキャンセル料を請求されることもあります。
当事者間の円満な合意で婚約を破談にしたのであれば、当事者のどちらにも非はありませんので、お互いが話し合って負担割合を決めることになります。一般的なケースでは、両者が折半で支払うということが多いでしょう。
他方、一方的にされた婚約破棄の場合は、婚約破棄に正当な理由があるかどうかを考えたうえ、婚約破棄に関して有責である婚約者がキャンセル料を負担する必要があります。 -
(2)新居の費用について
新居として2人で生活するアパートをすでに契約をしていたという場合には、敷金礼金などの初期費用や家具家電などの生活必需品を購入していることでしょう。婚約を破棄することになったときには、これらの費用も無駄になってしまいますが、どのように対処すればよいのでしょうか。
基本的な考え方は、上記の結婚式場のキャンセル料の場合と同じです。婚約の破談に関してお互い責任がないときには、どちらの名義で契約をしたか否かに関わらず、基本的にはかかった費用を折半することが多いでしょう。他方、婚約破棄の場合には、有責婚約者が費用を負担することが多いです。
5、婚約解消のご相談は弁護士へ
婚約を解消することになったが、納得がいかないという方は弁護士に相談することをおすすめします。
すでに説明したとおり、婚約の成立については客観的な要件はありませんので、婚約が成立しているといえるかどうかが曖昧なことが多いです。不当な婚約破棄を理由として損害賠償請求をする場合には、その前提として婚約が成立していることが必要となります。婚約の成立については、さまざまな事情を総合考慮して判断することになりますので、婚約が成立しているかどうかを正確に判断するためには専門家である弁護士に相談するのが不可欠です。
そのうえで、婚約の破棄に正当な理由がないという場合には、弁護士が交渉の窓口となり、婚約相手との交渉を進めることが可能です。
6、まとめ
婚約破棄の当事者同士が話し合いをすると、どうしても感情的になってしまい、冷静に話し合いをすすめることができません。経験豊富な弁護士が間に入って交渉をすることによって法的観点から適切な結論を導くことが可能になります。
婚約破棄の理由に納得ができない場合には、正当な理由に基づかない婚約破棄の可能性もあります。まずは、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています