離婚は年末調整に関係がある? 控除との関係性

2022年05月19日
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離婚は年末調整に関係がある? 控除との関係性

東京都福祉保健局が公表している離婚件数の統計資料によると、令和元年の新宿区の離婚件数は572件でした。それ以前の統計も踏まえれば、毎年600件前後の夫婦が離婚を選択していることがわかります。

会社員の方は、年末調整によって所得税の過不足を精算しており、さまざまな控除を利用することによって、払いすぎた税金の還付を受けることが可能です。しかし、離婚をした場合には、家族構成が大きく変わることになりますので、それまで利用してきた各種控除を利用することができなくなる結果、所得税の金額が増える可能性があります。

離婚を検討している方は、離婚だけでなく、離婚をしたことによる年末調整への影響についても確認しておきましょう。今回は、離婚と年末調整との関係について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。

1、離婚による年末調整の影響

離婚によって年末調整にはどのような影響があるのでしょうか。以下で詳しく説明します。

  1. (1)年末調整とは

    年末調整とは、簡単にいうと所得税の過不足を精算する手続きのことです。企業で勤務する会社員などの給与所得者の場合、企業が本人に代わって所得税などを納税しています。給与明細に「源泉所得税」と記載されているのを見たことがある方も多いと思いますが、それが会社によって天引きされている所得税です。

    しかし、会社によって天引きされている所得税はあくまでも概算によって算出されたものですので、正確な税額ではありません。正確な税額は、1年間の所得額が確定した時点で再計算をしなければなりません。それが「年末調整」です。

  2. (2)離婚によってさまざまな控除を受けることができなくなる

    離婚をすることによって家族関係が大きく変化しますので、それに応じて年末調整で利用することができる各種控除を受けることができなくなる可能性があります。離婚によって受けることができなくなる代表的な控除としては、以下のものが挙げられます。

    ① 配偶者控除、配偶者特別控除
    配偶者控除とは、年収が103万円以下(給与収入のみの場合)の配偶者がいる方が受けることができる所得控除です。配偶者控除の控除額は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額に応じて13万円から38万円です。
    配偶者特別控除とは、配偶者の年収が103万円(給与収入のみの場合)を超えてしまい配偶者控除を利用することができない方が、配偶者の年収が201万円以下(給与収入のみの場合)であるときに受けることができる所得控除です。配偶者特別控除の控除額は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額と配偶者の所得金額に応じて1万円から38万円です。
    配偶者控除又は配偶者特別控除を受けるためには、その年の12月31日の時点で法律上の婚姻関係にある配偶者がいることが必要になります。離婚をすると、控除対象配偶者がいなくなるため、配偶者控除又は配偶者特別控除を受けることはできません。

    ② 子どもの扶養控除
    子どもの「扶養控除」とは、扶養親族に該当する子どもがいる場合に、38万円または63万円の所得控除を受けることができる制度です。子どもの面倒をみなければならない納税者は、独身者よりも生活費の負担が重いことから税負担が軽減されています。
    扶養控除を受けるためには、その年の12月31日の時点で16歳以上の子どもを養っている必要があります。そのため、離婚をして子どもと別々に暮らすことになった場合には、子どもの扶養控除を受けることはできません。

    ③ 保険料控除
    生命保険の保険料や社会保険料を支払っている場合には、年末調整の際に保険料控除を利用することができます。
    配偶者の保険料や社会保険料を納税者が支払っていた場合には、納税者自身の控除として保険料控除を利用することができますが、離婚をしてそれらの支払いがなくなると、その分の保険料控除を利用することができなくなります。
    他方、納税者自身の生命保険料や社会保険料については、離婚後も保険料控除を利用することができます。

  3. (3)養育費を支払っている場合

    子どもがいる夫婦が離婚した場合、子どもと別々に暮らすことになった非監護親が監護親に対して養育費を支払うことになります。このような養育費の支払いをしている非監護親は、離婚をして子どもと別々に暮らすことになった場合でも、子どもの扶養控除を利用することができる場合があります。

    ただし、扶養控除は、元夫と元妻のうちいずれか一方だけしか利用することができません。子どもが元夫と元妻の双方にとって控除対象扶養親族に該当する場合、どちらが子どもの扶養控除を利用するかを話し合って決める必要があります。

2、離婚後に適用される控除

離婚をすることによって、それまで利用していたさまざまな控除を利用することができなくなる反面、離婚によって新たに利用することができる控除もあります。

  1. (1)寡婦控除

    寡婦控除とは、夫と離婚または死別をした女性が、合計所得金額500万円(給与収入678万円)以下の場合に受けることができる所得控除をいいます。ポイントは、「生計を一にする子」がいない場合のみ利用することができるという点です。
    なお、「生計を一にする子」がいる場合は、下記のとおり、ひとり親控除が優先的に適用されるため、寡婦控除の対象にはなりません。

    寡婦控除を利用した場合、所得税については27万円が控除され、住民税については26万円が控除されることになります。

  2. (2)ひとり親控除

    ひとり親控除とは、シングルマザーやシングルファザーといった同一生計の子どもがいるひとり親が受けることができる所得控除です。ひとり親控除は、令和2年の税制改革によって新設された制度ですので、まだ聞きなれない方もいるかもしれません。

    ひとり親控除を受けるためには、生計が同一の子どもがいて、本人の所得金額が500万円以下(給与収入が678万円以下)であることが必要です。寡婦控除とは異なり、婚姻歴があることは要件とされていませんので、未婚のシングルマザーやシングルファザーも利用することが可能です。
    ひとり親控除を利用した場合の所得控除額は、35万円です。

    ひとり親控除と寡婦控除は、共通する部分も多い制度ですが、両者を重複して利用することはできません。ひとり親控除と寡婦控除が重複する場合には、控除額の大きいひとり親控除が優先的に適用されます。
    また、ひとり親控除についても、寡婦控除についても、内縁の配偶者(「事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者」)が居ないことが必要となりますので、ご注意ください。

  3. (3)寡婦控除やひとり親控除を利用する場合の手続き

    寡婦控除やひとり親控除を利用する手続きは、会社に提出する「給与所得の扶養控除等(異動)申告書」という書類の「C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」の欄にある「寡婦」または「ひとり親」のいずれかにチェックを入れるだけです。

    非常に簡単ですので、該当する方は忘れずに利用するようにしましょう。

3、年末調整後に離婚した場合

すでに年末調整を終えた後に離婚をした場合には、以下のような対応が必要になります。

  1. (1)年末調整のやり直し(再年調)

    年末調整を終えてしまった後に離婚をした場合には、年末調整の訂正・修正をすることが可能です。これを「再年調」といいます。
    年末調整のやり直しは、会社が源泉徴収票を発行する前または翌年の1月31日までが期限になります。年末調整の手続きを終えてしまっていたとしても期限内であればやり直しをすることができますので、まずは、会社の担当者に相談をしてみるとよいでしょう。

  2. (2)確定申告

    年末調整のやり直し期限である翌年の1月31日または源泉徴収票発行後に年末調整のやり直しをする場合には、会社では対応することができません。この場合には、本人が自ら確定申告を行うことによって年末調整をやり直すことができます。

    本人が確定申告をしなければならなくなると時間と手間がかかりますので、年末調整のやり直しが必要となった場合には、早めに会社に相談をして、再年調をお願いするようにしましょう。

4、離婚とお金の問題は弁護士へ相談を

年末調整の手続きは、会社に必要書類を提出するだけでできますので、本人だけで対応が可能です。しかし、離婚によってそれまで受けていたさまざまな控除が外れてしまいますので、所得税などの負担が増える結果、手取りの収入額が減少することになります。
そのため、離婚後の生活についてしっかりと見通しを立てたうえで離婚の話し合いをすることが大切です。

離婚の際は、養育費、財産分与、慰謝料といったお金について取り決める必要がありますが、離婚後の見通しが不十分な状態で話し合いを進めてしまうと離婚後に思わぬ不利益を被ってしまう可能性もあります。不利な条件で離婚を進めてしまうことがないようにするためにも、離婚を考え始めた場合には早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

5、まとめ

離婚によって家族構成が変化すると、それまでの年末調整で利用することができていた各種控除を利用することができなくなる可能性があります。それによって、所得税が増え手取り額が減ることになりますので、離婚後の生活について十分に検討したうえで離婚の話し合いを進める必要があります。

離婚に伴うお金の問題については、専門家である弁護士に相談をすることによって解決することが可能です。離婚についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。

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