養育費と財産分与は相殺できる? 基本的な考え方と対応方法

2024年09月25日
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養育費と財産分与は相殺できる? 基本的な考え方と対応方法

令和4年度東京都福祉保健基礎調査によると、ひとり親になった理由が「離婚」と「非婚・未婚」である363世帯のうち、親権を持たない子供の親から養育費を受けている方の割合は33.9%という結果となっています。

ひとり親世帯の中には、離婚が原因でひとり親になる方が少なくないため、新宿区でも「養育費確保支援事業」が行われています。では、親権を手放す相手(非監護親)から「離婚時の財産分与と養育費を相殺したい」と言われた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。また、そもそも、養育費と財産分与を相殺することは可能なのでしょうか。

本コラムでは、養育費と財産分与を相殺することの可否について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。


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1、養育費と財産分与を相殺することは可能?

養育費と財産分与を相殺することは可能なのでしょうか。以下では、養育費と財産分与の基本的な考え方と相殺の可否について説明します。

  1. (1)養育費とは

    養育費とは、未成熟子が社会的・経済的に自立して生活することができるまでに必要となる費用のことをいい、衣食住にかかる費用、教育費、医療費などが含まれます。

    養育費は、親の子どもに対する扶養義務に基づいて支払われるものです。離婚によって夫婦は他人同士になりますが、離婚をしたとしても親子の関係は変わりません。親権を獲得することができなかったとしても、養育費の支払い義務は生じます。

    養育費の金額や支払いの終期などをどのように定めるかについては、法律上の決まりはありません。当事者間で合意さえすれば、原則としてどのような内容であっても定めることができます。とはいえ、お金に関することですので、権利者としては多く支払ってほしいと考える一方、義務者としてはできる限り支払いを少なくしたいと考えるのが通常ですから、当事者同士の話し合いだけでは金額が決まらないこともあります。

    このような場合には、裁判所が公表している養育費算定表を利用することで、スムーズに養育費を決めることができる場合があります。

    養育費算定表とは、権利者と義務者の収入、子どもの人数や年齢に応じて養育費の金額の相場を算定することができるもので、簡易・迅速に養育費の相場を知ることができる手段として、裁判所の実務においても重視されているものです。相場を知ることによってスムーズな話し合いが可能となりますので、金額に争いがあって話し合いが進まないという場合には、養育費算定表を利用してみるとよいでしょう。

    当事務所でも、養育費算定表に基づいた計算ツールをご用意しておりますので、ご活用ください。

  2. (2)財産分与とは

    財産分与とは、婚姻生活中に夫婦が共同で築いた財産を離婚時に清算する制度のことをいいます。このような制度趣旨から、財産分与の対象になる財産は、夫婦の共有財産に限られます。そして、共有財産にあたるかどうかは、当該財産の名義ではなく、夫婦の協力によって維持・形成してきたかという実質面によって判断されます。

    したがって、婚姻後に築いた以下の財産については、原則として共有財産にあたり、財産分与の対象になります。

    • 現金、預貯金
    • 株式や投資信託などの有価証券
    • 不動産
    • 保険の解約返戻金
    • 退職金
    • 住宅ローン


    他方、夫婦の協力とは無関係に築いた以下のような財産については、特有財産として財産分与の対象外となります。

    • 結婚前に貯めた現金・預貯金
    • 親から相続した財産
    • 別居後に取得した財産
    • 浪費やギャンブルのための借金


    なお、財産分与は、夫婦の貢献度に応じて財産を分ける制度ですが、婚姻期間中の夫婦の貢献度は、基本的には等しいものと考えられています。そのため、サラリーマンの夫と専業主婦の妻という家庭であっても財産分与の割合は、原則として2分の1となります。

  3. (3)養育費と財産分与は原則として相殺することはできない

    養育費は、子どもを監護している監護親が非監護親に対して請求するものです。これに対して、財産分与は、基本的に、名義財産が多い方から少ない方に支払われることになります。そのため、養育費を支払う側が、財産分与の支払いを受けるということも起こり得ます。

    このように当事者間で債権債務が対立しているような場合には、対等額で消滅させるという「相殺」が行われることがありますが、養育費と財産分与を相殺することは可能なのでしょうか。

    実は法律上、養育費については相殺が禁止されていますので、養育費と財産分与を相殺することは原則としてできません

    養育費は、子どもが生活するために必要不可欠な権利ですので、法律上差し押さえ禁止債権として規定されています(民事執行法152条1項1号)。そして、民法では、差し押さえを禁止されている債権については、相殺をすることができないとされています(民法510条)。

    また、財産分与の支払いは、一括での支払いが基本になりますが、養育費は毎月支払われる性質のお金になります。相殺をするためには、双方の債権の支払期が到来していることが必要になりますが、支払期の到来していない将来の養育費を対象として相殺をすることはできません(民法505条)。

    このように法律上、養育費の相殺が禁止されていますので、財産分与と相殺することはできません。

2、扶養的財産分与は養育費を含んでいる?

離婚時の財産分与として、扶養的財産分与がなされることがあります。このような扶養的財産分与には養育費を含んでいるのでしょうか。

  1. (1)扶養的財産分与とは

    財産分与は、夫婦の共有財産を清算するという清算的財産分与が中心となりますが、離婚する夫婦の状況によっては、清算的財産分与に加えて、扶養的財産分与というものが行われることがあります。

    扶養的財産分与とは、離婚をすることによって夫婦の一方が経済的困窮に陥ることがないようにするために、経済的に余裕のある側から金銭的な援助を行うというものです。離婚をした夫婦は他人同士になりますので、法律上の扶養義務はありませんが、特別な事情が認められると、扶養的財産分与として一定の援助をするべきと判断されることがあります。ここにいう特別な事情とは、離婚時において夫婦の一方が病気で働くことができていない場合や、高齢で経済的な自立が困難な場合などをいいます。

    扶養的財産分与は、離婚後の経済的自立が難しい時に補充的に認められるものですから、請求すれば誰でも認められるというものではありません。扶養的財産分与として月々の支払いが認められた場合でも、離婚後数か月~3年間など、期間を限定して認められるのが通常です。

  2. (2)扶養的財産分与と養育費は別物

    扶養的財産分与は、離婚した配偶者が経済的に自立するまでの生活費を負担するというものですので、離婚した配偶者を対象とした金銭の給付になります。これに対して、養育費は、社会的・経済的に自立することができていない子どもに対する金銭の給付になりますので、それぞれまったく別の目的で支払われる金銭になります。

    「扶養」という言葉から両者を同じ性質のものと誤解している方も多いですが、扶養的財産分与と養育費はまったくの別物です。そのため、扶養的財産分与を支払っているから養育費の支払いが不要になるというわけではありませんし、反対に養育費を支払っているから扶養的財産分与の支払いが不要になるというわけでもありません。

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3、養育費と財産分与の問題は弁護士へ相談を

養育費と財産分与に関する問題でお悩みの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)適切な養育費の金額を算定することができる

    養育費の金額については、養育費算定表を利用することによって、一定の金額の相場を知ることができます。しかし、夫婦や子どもの状況は、千差万別であり、そもそも一律に決めることができる性質のものではありません。

    そのため、養育費の金額については、養育算定表を参考にしつつも、個別具体的な状況に応じて修正していく必要がありますが、知識や経験のない方では事案に応じた適切な修正を行うことができません。弁護士であれば、個別ケースに沿って法的観点から適切に対応することができますので、少しでも有利な条件で養育費を取り決めたいという場合には、弁護士に相談をするとよいでしょう。

  2. (2)財産分与の金額は調査や評価によって大きく異なる

    財産分与をする前提として、夫婦双方の名義財産をすべて洗い出すことが必要となります。しかし、夫婦であっても相手の財産をすべて把握しているわけではありませんので、相手に知られてないことをよいことに財産隠しをするというケースも少なくありません。

    また、不動産が共有財産に含まれている場合には、不動産をどのように評価するかによって最終的な財産分与の金額が大きく異なることがあります。不動産は、現金や預貯金のように金額が一律に定まるものではなく、さまざまな評価方法が存在します。そのため、財産分与で得られる金額を増やすためには、適切な評価方法を選択することが大切です。

    弁護士であれば、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託といった調査方法を駆使することによって、相手が隠している財産についても明らかにすることができます。また、最適な評価方法を選択することによって、最大限有利な内容で財産分与をまとめることもできます。

4、まとめ

養育費は、子どもの生活にとって必要不可欠な権利です。また、法律上、養育費は財産分与や慰謝料と相殺をすることが禁止されています。そのため、相手から強く相殺を求められたとしても応じる必要はありません。

財産分与や養育費に関する問題は離婚時にトラブルになることが多い項目です。長期にわたる支払になるケースも多いため、離婚協議書などだけでなく、執行認諾条項付きの内容証明にするなど、適切な書類に約束した内容を残すことも非常に重要です。ひとりでの対応に不安を感じる場合には、早めに弁護士へ相談してください。財産分与や養育費に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。離婚問題についての知見が豊富な弁護士があなたとあなたのお子様が安心して新たな生活を踏み出せるようサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています