認知届は母親でも提出可能|提出方法と認知してもらえないときの対処法
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裁判所が公表している司法統計によると、令和3年に東京家庭裁判所に申し立てられた認知調停の件数は、158件でした。
婚姻関係にない男女から生まれた子どもは、生物学的には父親と親子関係があったとしても、法律上の親子関係は認められません。法律上の親子関係を認めてもらうためには、父親から認知を受ける必要があります。
認知には、任意に認知する方法と裁判によって強制的に認知を受ける方法がありますが、認知届を提出するのは母親でもできるのでしょうか。今回は、認知届の提出方法と認知してもらえないときの対処法について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、母親でも認知届の提出は可能
認知届の提出は、母親でも行うことができるのでしょうか。以下では、認知届についての基本事項について説明します。
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(1)認知届とは
認知届とは、婚姻関係にない父母の間に生まれた子どもと父親との間に、法律上の親子関係を生じさせるための届け出のことをいいます。
婚姻関係にない父母の間に子どもが生まれた場合には、母親との関係では、出産という事実からその子どもが母親の子どもだといえますので、法律上の親子関係が生じます。しかし、父親との関係では、出産という事実だけでは本当に親子関係があるのかがわかりませんので、当然には法律上の親子関係が生じません。親子関係を生じさせるためには、「認知」という手続きが必要になります。
認知には、父親が子どもを任意に認知する「任意認知」と、父親が認知してくれない場合に子どもが認知を求めて裁判所に申し立てを行う「強制認知」という方法があります。
いずれの方法であったとしても、認知届の提出が必要になります。 -
(2)認知届の提出方法
認知届を提出する場合には、以下の方法で提出を行います。
① 認知届の提出場所
認知届は、認知する父親若しくは認知される子どもの本籍地または届出人の住所地の市区町村役場に提出します(戸籍法25条1項参照)。
なお、胎児認知をする場合には、胎児の母親の本籍地の市区町村役場に認知届を提出します(戸籍法61条参照)。
② 必要書類- 認知届
- 届出人の本人確認書類
- 認知される子どもの承諾書(子どもが成人の場合。民法782条参照。)
- 胎児の母親の承諾書(胎児認知の場合。民法783条1項参照。)
- 審判または判決の謄本および確定証明書(強制認知の場合)
- 遺言書の謄本(遺言認知の場合)
- 戸籍全部事項証明書(本籍地以外での届け出の場合)
③ 届出人
任意認知および胎児認知をする場合には父親が、裁判認知の場合には申立人または原告が届出人となります。 -
(3)本人(父親)以外でも認知届の提出が可能
認知届の届出人とは、認知届の提出をする人のことではなく、認知届に署名をする人のことをいいます。認知届の届出人が認知届の提出を行うケースが多いですが、届出人の署名がなされた認知届であれば、届出人以外の第三者が提出することも可能です。そのため、父親の署名のある認知届を母親が提出するということもできます。
なお、父親以外でも提出ができるからといって、勝手に認知届に署名して提出してしまうと有印私文書偽造罪という犯罪になってしまいますので、絶対にしてはいけません。
2、父親に認知してもらえないときの対処法
父親から任意に認知をしてもらえない場合には、以下のような対応が必要になります。
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(1)認知調停
父親に対して、母親や子どもが認知を求めたとしても任意に認知をしてくれない場合は、強制認知を求めて、家庭裁判所に認知調停の申し立てを行います。
強制認知の方法には、後述するような認知裁判という方法もありますが、認知裁判を起こす前に認知調停を申し立てなければなりません(調停前置主義。家事事件手続法257条1項参照。)。これは、家庭内の争いはできる限り当事者による話し合いで解決することが望ましいと考えられているからです。
認知調停の手続きは、調停委員が当事者の間に入って話し合いを進めてくれますので、調停委員を通じて、相手方である父親に対して認知をするように求めていくことになります。
一般的な調停であれば、当事者間に合意が成立した場合には調停が成立して手続きが終了することになります。しかし、認知調停の場合には当事者間の合意が成立したとしても、調停成立とはならず、「合意に相当する審判」(家事事件手続法277条1項参照。)という特別な手続きが必要です。
合意だけで認知をしてしまうと、生物学上の親子関係がない人の間で認知による法律上の親子関係が生じかねません。そのため、当事者間の合意が成立した場合には、父親が生物学上の父親であることを証明するためのDNA鑑定を行い、裁判所が当事者間の合意が相当であると判断した場合に初めて、合意に相当する審判が出されることになります。
したがって、父親が自分の子どもであることを認めない場合やDNA鑑定を拒否しているような場合には、調停は不成立となります。 -
(2)認知裁判
調停によって認知の合意ができない場合には、次の段階として、家庭裁判所に認知の訴えを提起して認知を求めていくことになります。
認知裁判では、父親と子どもとの間に生物学上の親子関係があるかどうかが争点となりますが、DNA鑑定をすることによって、父親と子どもとの間に生物学上の親子関係があるかどうかは容易に明らかになります。
ただし、DNA鑑定を強制することはできませんので、父親がDNA鑑定を拒否しているという場合には、DNA鑑定以外の方法で生物学上の親子関係を証明していかなければなりません。
具体的には、父親と母親との性交渉の事実や生活状況など明らかにすることによって証明していくことになります。その際には、DNA鑑定を拒否しているという父親の態度についても生物学上の親子関係を立証する際の証拠となるでしょう。
裁判所が認知請求を認めた場合には、父親の意思とは無関係に強制的に父親と子どもとの間に法律上の親子関係が生じます。それによって、子どもは生まれたときまで遡って父親の非嫡出子としての身分を取得します。
3、父親がすでに亡くなっていても認知は可能
父親がすでに亡くなっている場合でも、死後認知という手続きによって認知を求めることができます。
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(1)死後認知とは
死後認知とは、婚姻関係にない父母の間に生まれた子どもが、死亡した父親との法律上の親子関係を確定させる手続きのことをいいます。
父親の生前に行う認知は、主に父親と子どもとの間に法律上の親子関係を生じさせて、養育費などを請求するという目的で行われますが、死後認知は、死亡した父親の遺産を相続する権利を得るために行われます。
死後認知が認められた場合には、子どもが生まれたときに遡って父親の非嫡出子としての身分を取得しますので、死後認知された子どもは、父親の遺産を相続することができるようになります。 -
(2)死後認知の手続き
任意認知の場合とは異なり、認知をする父親がすでに亡くなっていますので、死後認知をするためには、必ず認知の訴えを提起しなければなりません。認知の訴えを提起する場合には、父親はすでに亡くなっているため、認知の訴えの相手方は、検察官となります。父親の相続人ではないため、注意が必要です。
認知の訴えが提起された場合には、被告である検察官に訴状が送達されることになりますが、利害関係人である父親の相続人に対しても訴訟が提起されたことが通知されます。検察官は、子どもと父親との間に生物学上の親子関係があるかどうかについての事情をまったく知りませんので、実質的には、原告と利害関係人との争いになることが多いです。
死後認知の場合にも原告が子どもと父親との間に生物学上の親子関係があることを証拠によって立証しなければなりませんので、そのためのDNA鑑定が行われます。ただし、父親はすでに亡くなっていますので、DNA鑑定は、補助参加人である父親の相続人と子どもとの間で行われることになります。
なお、死後認知をする場合には、法律上期限が定められており、父親が死亡した後3年以内に行わなければなりません。期限が過ぎてしまった後は、死後認知の訴えは認められませんので、必ず期限内に行うようにしましょう。
また、父親の生前の強制認知とは異なり、死後認知の場合には、調停前置主義は適用されませんので、認知調停の申し立てをすることなく、いきなり認知の訴えを提起することができます。
4、まとめ
認知をしてもらうためには、まずは父親に対して任意認知を求めていくことになります。父親が認知を認めてくれる場合には、認知届に父親の署名をもらえば、認知届を母親が提出することも可能です。
他方、父親が認知を拒否している場合には、強制認知の方法によって認知を求めていくことになります。裁判認知になった場合には、証拠によって子どもと父親との生物学上の親子関係を立証していかなければなりませんので、専門的な知識がなければ適切に対応することが難しいといえます。そのため、弁護士のサポートが不可欠といえるでしょう。
父親に対する認知請求をお考えの方は、まずは、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています