電車事故の賠償金は実際どうなる? 過去事例と払えないときの対処法
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新宿駅には、在来線、地下鉄、私鉄を合わせると合計12の路線が乗り入れており、各路線はあらかじめ決められたダイヤに従って運行しています。しかし、人身事故などが発生したときには、大幅な遅延が生じ、多くの乗客に迷惑をかけるだけでなく、鉄道会社に対しても大きな損害を与えることになります。
電車への飛び込み自殺など意図的に電車事故を起こしてしまったときには、鉄道会社から多額の損害賠償請求をされるといううわさを聞いたことがある方もいるでしょう。実際のところはどうなるのかと言えば、請求されるケースもある、といえますが、その金額や対処法はケース・バイ・ケースです。
本コラムでは、電車事故の賠償責任について、実際の事例と基本的な考え方、払えないときの対応方法について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、電車の事故が発生……賠償責任は?
電車への飛び込み自殺や人身事故など電車の事故が発生した場合には、高額な賠償責任が生じると聞いたことがあるかもしれません。実際には、どのような扱いになっているかについて以下で説明します。
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(1)賠償責任のある電車の事故とは
電車の事故といっても、その内容にはさまざまなものがあります。電車が正常に運行している状態で生じた事故であれば、事故を引き起こした方に責任が生じることになります。
民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しており、電車の事故が発生したときには、鉄道会社は、民法709条の規定を根拠に加害者に対して賠償請求を求めていくことになります。
その際のポイントは、加害者に「故意又は過失」があったかどうかです。
加害者の故意または過失が認められやすいケースとしては、主に以下のようなものがあります。- 電車への飛び込み自殺
- 線路へ石などを置いた
- 線路内への立ち入り行為
- 踏切内での立ち往生 など
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(2)賠償額はどれくらいになるのか
電車の事故が発生したときには、どのくらいの賠償額が請求されるのかが気になるところです。
一般的に、鉄道会社から損害賠償請求される損害賠償金の内訳は以下のようになっています。具体的な損害額については、朝などの利用の多い時間帯や主要駅で発生した事故については、高額になる傾向にあります。
① 振替輸送費
電車が遅れたことによる他事業者への振替輸送にかかった費用が請求されます。振替輸送に伴って乗客への払い戻しが生じたときには、その金額についても損害に計上されます。
② 修理費
事故によって車両が損傷したときには、その修理費が請求されます。脱線事故や乗客が死傷するような大規模な事故の場合には、数千万円を超える修理費となることもあります。
③ 人件費
復旧にあたって要した人件費なども請求されます。 -
(3)損害賠償請求された場合の対応
電車の事故が発生したときには、鉄道会社が加害者やその遺族に対して、損害賠償請求をすることになります。損害額を全額計上すると、数千万円単位になることもありますが、全額請求されるということは少ないようです。加害者や遺族の生活状況や支払い能力を踏まえて、ある程度減額した金額を支払う内容で和解をするというケースがほとんどです。
そのため、鉄道会社から損害賠償請求をされたときには、加害者に非がある事故だとしても、損害賠償額の減額を求めて話し合いを行うとよいでしょう。なお、加害者の遺族が請求されたケースでどうしても支払いが難しいという場合には、後述する相続放棄という手段を選択するのもひとつの方法です。
2、人身事故の場合、相続放棄による解決
人身事故によって、電車事故を引き起こした加害者が死亡したというケースでは、相続放棄をすることによって損害賠償義務を免れることができます。
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(1)遺族が賠償義務を相続する
鉄道会社に対する賠償責任は、電車事故を引き起こした本人が負うべきものですので、原則として、その家族に責任はありません。しかし、電車事故によって、本人が死亡した場合には、相続が発生します。
相続にあたっては、現金や預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金や損害賠償債務といったマイナスの財産についてもすべて相続の対象となります。そのため、電車事故を引き起こした本人が死亡したときには、その遺族が鉄道会社に対する損害賠償義務を相続することになります。
本人の遺族に十分な資力があるケースや、本人の遺産から支払いが可能である場合には、鉄道会社との話し合いによって具体的な賠償額を決めていくことで解決することができます。しかし、十分な支払い能力がないというケースにおいて、直接の加害者ではない遺族に責任を負わせるのは酷であるともいえます。
そこで、そのようなケースでは、相続放棄をすることが有効な手段となります。 -
(2)相続放棄とは
相続放棄とは、家庭裁判所に申し立てをすることによって、被相続人(亡くなった方)の財産に対する一切の権利を放棄する手続きのことをいいます。相続放棄をすることによって、プラスの財産を相続することができなくなりますが、同時に負債などのマイナスの財産も相続する必要がなくなります。
被相続人が電車事故の加害者であったときには、鉄道会社への損害賠償義務も相続の対象となりますが、相続放棄をすることによって、鉄道会社に対する賠償責任を免れることができます。
なお、相続放棄をするにあたっては、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に手続きをしなければなりませんので注意が必要です。
3、子どものいたずらで電車の運行を止めた場合は?
子どもが置き石などをしたことで電車の運行がストップしてしまうことがあります。その場合には、子どもや親にはどのような責任があるのでしょうか。
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(1)子どものいたずらは監督義務者の親が責任を負う
民法では、未成年者が不法行為をしたとしても、責任能力がないときには損害賠償責任を負わないと規定しています(民法712条)。法律上、何歳までが責任能力のない未成年者であるかという明確な基準があるわけではありませんが、判例からすると、おおむね12歳前後を基準として責任能力の有無が判断されています。
そのため、子どもがいたずらをしたことによって電車の運行がストップしたとしても、その子どもがおおむね12歳以下であるときには、子どもの責任は否定されることになります。
もっとも、子どもの責任が否定されたからといって、誰も責任を負わなくてもよいというわけではありません。子どもに責任能力がないときには、子どもの監督義務者である親が責任を負うことになります。
民法では、「監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」(民法714条1項)として、親が免責される場合があると規定しています。
しかし、従来の判例では、親の責任が免責されることはほとんどありませんでしたので、子どもの置き石によるいたずらの事案については、その親が責任を負うと考えておくとよいでしょう。 -
(2)直接置き石をした人以外にも責任が及ぶこともある
線路に置き石をした直接の当事者が責任を負うのは当然として、その周囲にいた人も同様に責任を負うことがあります。
判例(最判昭和62年1月22日)では、以下のように、置き石をしていない仲間についても事故回避措置をとらなかった過失があると認定しています。中学生のいたずらによりレール上に置石がされたため生じた電車の脱線転覆事故について、甲が、自らは置石行為をせず、また、置石をした乙と共同の認識ないし共謀がなくても、事故現場において事前に、乙を含めて仲間とその動機となつた話合いをしたばかりでなく、その直後並行した他の軌道のレール上に石が置かれるのを現認していたものであつて、事故の原因となつた置石の存在を知ることができ、これによる脱線転覆事故の発生を予見すること及び置石の除去等事故回避の措置をとることが可能であつた場合には、甲は、当該措置をとるべき義務を負い、これを尽くさなかつたために生じた事故につき過失責任を免れない
4、踏切事故の場合はどうなるのか
踏切事故についても以下のように鉄道会社から損害賠償請求を受けることがあります。
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(1)踏切事故についても損害賠償の対象となる
踏切事故には、踏切内に進入した後にエンジンが停止したり脱輪したりしたことで事故が起こることがあります。また、渋滞中に踏切内に進入して立ち往生してしまうというケースもあります。
このように、故意に事故を引き起こしたわけでなくても、事故の原因に過失が認められれば、踏切事故についても損害賠償責任を負うことになります。 -
(2)過失相殺によって減額される可能性もある
踏切事故にあたって、鉄道会社側に踏切の整備や作動状況などについて落ち度があるときには、双方の過失割合を踏まえて損害額が計算されることになります。
5、まとめ
電車事故の事案では、裁判にまで発展するケースは少ないといえます。多くの事案で示談や相続放棄によって解決されている傾向があるようです。もっとも、突然鉄道会社から賠償金を請求されてしまうと混乱してしまうことは無理もありません。どのように対応すべきかわからないときには、弁護士のサポートを受けながら進めることもひとつの方法です。
電車の事故によって賠償金を請求されてしまいお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。
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