この契約は買いたたき? 下請法の規定や注意点、ペナルティの有無を解説
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公正取引委員会の発表によると、平成30年度の下請法に関する指導件数は過去最多の7710件にのぼり、下請事業者が受けた買いたたきなどの不利益について、親事業者から下請事業者に対し、総額6億7068万円相当の原状回復が行われました。
たとえ、親事業者が不当な買いたたきと認識していなくても、下請法の規定に違反すると下請法違反とみなされるため、注意が必要です。
今回は、親事業者が注意するべき買いたたきの具体例や罰則の有無、下請法の禁止行為について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、買いたたきとは?
買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。」(下請法4条1項5号)をいいます。
簡単にいうと、不当に低い単価で契約させたり、納品させたりする行為のことです。親事業者から下請業者に対する買いたたきは「下請法」で禁じられています。
一見、「市場価格よりも著しく低い金額での契約や納品等」を禁じているように見えますが、低い金額での契約や納品自体を禁じているのではなく、「不当に定めること」を禁じています。双方が話し合い正当な手続きを経て、双方合意のもと市場価格よりも低い金額で契約、納品するのであれば問題ありません。
そのため、下請け業者へのコストダウン要請のすべてが下請法に違反するのではなく、
- 相手の合意が得られていない
- 親事業者が一方的に価格を決めた
などの事実がない限りは、違法にはならないと考えられます。
しかし、買いたたき行為に該当するかは、各業種の商習慣や会社同士の関係性によるところがあるため、一概に、「双方合意しているから合法」と言い切れるものでもありません。
2、親事業者、下請事業者の定義とは
下請法では、委託内容と資本金に応じて、「親事業者」「下請事業者」を定義しています。その定義を満たしていない場合は、下請法の親事業者と下請事業者に該当せず、下請法の対象とはなりません。
下請法違反かどうかを判断する前に、まずは自社が下請法に規定されている「親事業者」、「下請事業者」にあたるのか、確認していきましょう。
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(1)外注する内容が物品の製造・修理、プログラムの作成、運送・物品の倉庫保管・情報処理の場合
このケースでは、以下のような資本金である場合に、「親事業者」「下請事業者」に該当します。
- 依頼元の資本金が3億超で、資本金3億円以下の会社や個人事業主に外注する場合
- 依頼元の資本金が1000万円超・3億円以下で、資本金1000万円以下の会社や個人事業主に外注する場合
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(2)外注する内容がプログラム以外の情報成果物作成、または運送・物品の倉庫保管・情報処理以外の役務提供の場合
プログラム以外の情報成果物作成とは、放送番組や広告の制作、商品デザイン、製品の取扱説明書、設計図面の作成などのことです。
また、運送・物品の倉庫保管・情報処理以外の役務提供は、ビルや機械のメンテナンス、コールセンター業務などの顧客サービス代行などのことです。
これらの仕事を以下のような資本金関係の会社が行うと、「親事業者」「下請事業者」に該当します。- 依頼元の資本金は5000万円超で、下請事業者の資本金が5000万円以下である場合
- 依頼元の資本金は1000万円超5000万円以下で、下請事業者の資本金は1000万円以下である場合
3、これが買いたたき! 買いたたきの具体例
具体的には、次のような行為が下請法で規定している買いたたきに該当します。
- 一方的に価格ダウンを通知する
- 原材料の市場価格が高騰していて下請業者から単価の引き上げの要望があったにもかかわらず、一方的に単価を据え置く
- 多量の発注をすることを前提の見積単価だったにもかかわらず、その見積単価を少量の発注しかしない場合の単価として、一方的に下請代金の額を定める
これらの事例はどれも「下請事業者の合意」がない状態で、一方的に不当に安い価格を押し付けているため、違法となります。
4、親事業者が必ず知っておくべき下請法の禁止行為
下請法では、買いたたき以外にもさまざまな禁止事項があります。ここでは、親事業者が知っておくべき下請法の禁止行為を見ていきましょう。
●受領拒否
下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受け取らない行為は禁じられています。「在庫が余っているから」「倉庫に余裕がないから」などの理由で、納品等を拒否することはできません。
●下請代金の支払い遅延
物品等を受け取った日(受領日)から60日以内で定めなければならない支払日までに下請代金を支払わないことも、禁止事項のひとつです。「製品検査が終わっていない」などの理由でも、支払日までに支払わなければ支払い遅延となります。
また、「20日締め翌々月末払い」などの支払規定も、下請法違反です。このような社内規定にかかわらず、受領日から60日以内に支払わなければなりません。
●下請代金の減額
あらかじめ約束、契約してあった金額よりも安い代金しか支払わないという「下請代金の減額」も下請法違反となります。この場合の減額とは、下請代金の額から差し引く場合のほか、減額分を別途協力金などの名目で取り立てる場合も該当します。
●不当な返品
下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受け取った後に返品する行為も禁じられています。生産計画の変更や売れ残りなどを理由に、過剰な在庫を返品すると下請法違反になる可能性があります。
●購入・利用強制
正当な理由がないのに、下請事業者に対して、親事業者が指定する物品等の購入を強制してはいけません。物品だけでなく、保険等も対象になります。
●報復措置
下請事業者が、親事業者の不法な行為等を公正取引委員会に通報したことに対して、取引停止や発注量の減少などの報復することも禁じられています。
●有償支給原材料等の対価の早期決済
有償支給する原材料等で下請事業者が物品の製造等を行っている場合に、下請事業者に責任がないのに、その原材料等が使用された物品の下請代金の支払日より早く、支給した原材料等の対価を支払わせ、下請事業者の利益を不当に害する行為は禁じられています。
●割引困難な手形の交付
下請代金を手形で支払う際、一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付し、下請事業者の利益を不当に害する行為は禁じられています。
●不当な経済上の利益の提供
自社のために、下請事業者に現金やサービス、その他の経済上の利益を提供させ、下請事業者の利益を不当に害する行為は禁じられています。協賛金の提供の要請や、製品無償保管、キャンペーンなどの際に無償で手伝わせるなどの行為も禁じられているため、注意が必要です。
●不当な給付内容の変更・やり直し
下請事業者に責任がないのに、費用を負担せずに、発注の取り消しや内容変更、やり直しをさせ、下請事業者の利益を不当に害する行為も下請法で禁じられています。
5、下請法に違反した場合のペナルティは?
下請法に違反した場合、担当者本人が罰せられることはなく、企業が処罰の対象となります。
違反した事業者に対しては、「勧告・公表」「指導」「罰金」のいずれかの対応がとられます。
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(1)勧告・公表、指導
公正取引委員会は、親事業者が下請法に違反した場合、それを取り止めて原状回復させることを求めるとともに、再発防止などの措置を実施するよう、勧告を行います。勧告がされると、原則として会社名とともに、違反事実の概要、勧告の概要が公表されます。会社名が公表されると親事業者の社会的評価は落ちてしまいます。
また、公正取引委員会は勧告に至らない事案であっても、親事業者に対し改善を強く求める指導を行い、下請法の順守を促します。 -
(2)罰金
下請法違反の罰金の上限額は50万円であり、罰金の対象となるのは以下の行為です。
- 発注書面を交付する義務違反
- 取引記録に関する書類の作成・保存義務違反
- 報告拒否、虚偽報告
- 立入検査の拒否、妨害、忌避
6、買いたたきかもと思った場合にすべきこと
もしも、下請法違反の買いたたきを行うと、勧告・公表などで企業イメージが損なわれ、その後の営業活動に支障をきたしてしまいます。そのため、「下請法に違反しないこと」が大切です。
すでに下請法違反の買いたたきが行われていた場合は、自発的に公正取引委員会に申し出て、買いたたきによって与えてしまった損害を回復していれば、「勧告・公表」は原則、行われないとされています。
ただ、買いたたきに該当するかどうかは、業種や契約形態などによって異なりますので、まずは弁護士に相談して、最適な対処法などの助言を受けたほうがよいでしょう。
7、まとめ
親事業者から下請事業者に対する買いたたき行為は、下請法に違反する恐れが高いといえます。すぐに罰金などが科されるわけではありませんが、場合によっては企業名が公表されるなど、企業活動に悪影響を与えるため、自社で買いたたき行為が見つかった場合は、弁護士に相談し、対策を講じましょう。
ベリーベスト法律事務所新宿オフィスでは、下請法に関する相談を広く受付けていますので、お気軽にご連絡ください。
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