前払式支払手段の供託金とは? 課金アプリ開発者が知っておきたい法律のルール

2021年02月15日
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前払式支払手段の供託金とは? 課金アプリ開発者が知っておきたい法律のルール

アプリゲームの課金制度を導入したいとき、必ず気にしなければいけない点が2つあります。

アプリ内課金によって発行したポイントや独自通貨が原則として資金決済法上の「前払式支払手段」にあたること、そして、場合によっては供託金を支払う義務が生じることです。

この記事では、そもそも前払式支払手段とは何かを解説したうえで、供託金についてのルールを、ベリーベスト弁護士事務所 新宿オフィスの弁護士が解説しています。供託金支払いの義務(供託義務)を回避する方法もご紹介しているので、アプリをリリースする前にぜひ参考にしてください。

1、前払式支払手段とは

「前払式支払手段」とは、あらかじめ代金を支払って購入やチャージをするもので、商品の購入やサービスの提供を受けるときに利用できるものです。

私たちは普段、商品を購入したりサービスを受けたりするために金銭を支払いますが、金銭ではなく、あらかじめ購入したポイントやチャージした電子マネーで決済することもあるでしょう。

このときのポイントや電子マネーは、原則として「前払式支払手段」にあたります。

  1. (1)前払式支払手段の法律要件

    ただ、課金機能を伴うアプリを作成し、または既存アプリに課金機能を導入しようと考えている場合に、課金機能を伴うからという理由だけで前払式支払手段と判断するのは早計です。

    資金決済に関する法律(通称・資金決済法。以下、「法」といいます)によって、どういうものが前払式支払手段に該当するのかがきちんと定められているので、一度確認することが大切です。

    法第3条が定める「前払式支払手段」の要件は、次の4つです。

    1つ目は、金額または商品やサービスの数量が明確に記載されていることです。

    2つ目は、その前払式支払手段を入手するために対価が支払われていることです。

    3つ目は、入手した前払式支払手段が証票等への記載や番号・符号の記録により発行されていることです。

    4つ目は、前払式支払手段を提示等することで商品を購入したりサービスの提供を受けたりできることです。

    課金で手に入るポイントや電子マネー、ギフト券、クオカード、図書カードなどは、基本的にこれらの要件をすべて満たしますから、「前払式支払手段」に当たるとされるのが一般的です。

    その一方で、法第4条および施行令4条は、例外として「前払式支払手段」に当たらないものを定めています。

    その具体例としては、電車の切符や飛行機のチケット、博物館や映画館の入場券、有効期限が6か月以内のものが挙げられます。また、社員食堂の食券や旅行クーポンといった特定の場所でしか使えないものも、「前払式支払手段」に当たらないと定められています。

  2. (2)前払式支払手段で発生する義務

    資金決済法上の前払式支払手段を提供する事業者(以下、「発行者」といいます)は、原則として次の義務を果たさなければいけません。

    ●情報の提供義務(法第13条1項)
    利用者に対して、発行者や前払式支払手段に関する情報を開示する義務です。開示対象となる情報としては、氏名や商号、前払式支払手段の支払可能金額やその使用期限などが挙げられます。

    ●発行保証金の供託義務(法第14条)
    発行保証金とは、発行者の倒産などが原因で前払式支払手段を利用できなくなった場合に、利用者が一方的に損をしないようにするため、保証として供託所等に支払うお金をいいます(以下、「供託金」といいます)。ただし、すべての発行者がこの義務を負うわけではありません。この点については次章以降で詳しく解説します。

    ●財務局長等への届出、または登録の義務(法5条、7条)
    発行者は、その事業形態などによって、自家型発行者と第三者型発行者の2種類に分かれます。

    前者が発行する前払式支払手段は、発行者が販売する商品や提供するサービスにしか使うことができません。たとえば、アプリ内の独自通貨を発行する発行者は、自家型発行者に当たります。自家型発行者は、一定の場合に、財務局長等への届出をする義務を負います。

    後者が発行する前払式支払手段は、発行者が販売する商品や提供するサービス以外にも使うことができます。たとえば、交通系電子マネーのSuicaは電車・バスだけでなく自動販売機やコンビニなど、さまざまな場所での支払いに使用できるため、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は第三者型発行者に当たります。第三者型発行者は、事前に財務局長等の登録を受けなければいけません。

    ●払い戻しに関する義務(法第20条)
    倒産やサービス終了などで前払式支払手段が使えなくなったときや第三者型発行者の登録が抹消されたとき、発行者は利用者に対して前払式支払手段の残額を払い戻しす義務を負います(第1項)。

    なお、発行者は、第1項の場合を除き、原則として、利用者に前払式支払手段の払い戻しをすることができません(第5項本文)。しかし、払戻金額が少額な場合や、利用者が前払式支払手段を利用することが困難な地域に転居する場合には、払い戻しをすることが例外として認められています(同項但書、前払式支払手段に関する内閣府令資42条)。

2、前払式支払手段における供託金の意味

前章でご紹介したように、発行者は、原則として供託金を供託所等に預ける義務を負います。しかし、この義務を負う発行者は、一定の条件を満たす事業者に限定されます。以下、詳しく解説します。

  1. (1)供託金支払いの義務が発生する条件

    発行者は、基準日未使用残高が1000万円を超えるときは、一定額の供託金を預ける義務を負います(法14条1項、施行令6条)。「基準日未使用残高」とは、毎年3月31日および9月30日の時点で、発行されながらも利用されていない前払式支払手段の合計額のことです(法3条2項)。

    したがって、たとえばまだ利用されていないギフト券やポイントの合計金額が1000万円を超えた状態で3月末日を迎えた場合、発行者は供託金を支払わなければいけません。

    ただし、銀行等の金融機関と発行保証金保全契約を締結し、そのことを財務局長等に届け出た場合は、供託金の支払いが全部または一部免除されます(法15条)。これは、信託会社等と発行保証金信託契約を締結し、かつ財務局長等の承認を受け、信託財産を信託し、かつそのことを財務局長等に届け出た場合も同様です(法16条)。

  2. (2)供託金の支払い義務が発生した場合にすべきこと

    供託金の支払い義務が発生した場合、発行者は主たる営業所または事務所の最寄りの供託所で支払い手続きを行う必要があります。

    必要書類は前払式支払手段の発行届出書(はじめて供託する場合)や供託書、登記事項証明書などです。支払い期限は基準日の翌月から2か月以内(前払式支払手段に関する内閣府令第24条)ですので、速やかに準備し、提出と納付を済ませましょう。

    なお、供託金の額は、基準日未使用残高の1/2以上です。したがって、最低でも約500万円は必要となります。

3、供託義務を回避する方法は?

開発したアプリ内のポイント等が前払式支払手段に当たると判断され、しかも供託金の支払い義務が発生した場合、まとまったお金を用意しなければいけません。

もしこの供託義務を回避したい場合は、基準日未使用残高を1000万円以下にする必要がありますが、次のような方法も有効とされています。

  1. (1)有効期限を設ける

    第1章で紹介したように、有効期限が6か月以内の前払式支払手段について、資金決済法上の規制は適用されません。したがって、利用規約などで6か月以内の有効期限を事前に設けておけば、仮に基準日未使用残高が1000万円を超えたとしても供託義務は発生しません。

    ただし、Google Playでは有効期限が設けられますが、App Storeではそれができないと規定されているので注意してください。

  2. (2)無料分・有料分をまとめて取り扱わない

    もし自社のサービス利用者を増やす戦略の一環として、ポイントを無料で配布することを検討している場合は、対価が必要な有料のポイントと、まとめて取り扱わないことが大切です。また、利用者にも無料分・有料分が区別できるようにするとよいでしょう。

    前払式支払手段に当たるためには対価の支払いが発生していることが要件ですので、無料分のポイントは前払式支払手段と判断されません。したがって、本来は未使用残高に含まれませんが、もし無料分と有料分と区別がつかない場合、すべて有料分と判断されてしまいます。

    そのため、必ず、無料分・有料分のポイントはそれぞれ分けて管理するようにしましょう。

4、課金要素を導入したいときは弁護士へ相談

前払式支払手段やそれに伴う供託義務などは、資金決済法や前払式支払手段に関する内閣府令などで、さまざまな規制がされています。開発したアプリに課金要素を導入したい場合は、こうした法律や法令に基づいた十分な対応が必要です。

これらの規制に関して曖昧な部分や不明な点がある場合は、その状態のまま事業を開始するのではなく、一度弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に事情を説明すれば、法律に抵触しないためにはどのような点に気をつければいいのか、自社に適したアドバイスがもらえるでしょう。

5、まとめ

前払式支払手段は、身近なところでみられる支払手段です。しかし、いざ導入するとなれば、法律や法令に規定されたさまざまなルールを遵守する必要があります。

とりわけ供託金の支払いを回避しようとしている場合は、そもそも支払い義務がどのような条件下で発生するのか把握しておくことが重要です。供託義務がないと思っていたら実は必要だった……と、多額の供託金に困ってしまうこともなくはありません。

「これってどうなのかな……」と心配な場合は、ためらわずに弁護士に相談してみてください。ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士も、的確なサポートが可能ですので、お気軽に相談していただければ幸いです。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています