中途採用での内定取り消しは違法? 解雇にあったときの対応

2023年04月06日
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中途採用での内定取り消しは違法? 解雇にあったときの対応

厚生労働省が公表している新卒者内定取消し等の状況に関する統計資料によると、令和4年3月新卒者で採用内定取り消しを受けた人の人数は、50人でした。東京都を含む南関東地域では、22人の内定取り消し者がいたとのことです。

中途採用の場合には、採用後に現在の勤務先を退職する必要があることから、新卒者と同様に内定通知が活用されています。内定先に就職することができると考え、現在の勤務先を退職したところ、突然内定の取り消しを受けてしまった場合には、どのように対応したらよいのでしょうか。

今回は、中途採用での内定取り消しの違法性について、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。

1、内定取り消しは解雇扱いになる

内定にはどのような法的性質があるのでしょうか。また、内定取り消しは、法的にはどのような位置づけになるのでしょうか。以下で詳しく説明します。

  1. (1)内定の法的性質

    企業が労働者を採用する際には、書類選考や面接などを経たうえで、採用基準を満たすと判断した方に対して、採用内定通知を送ります。新卒者の採用に限らず、中途採用の場合にも同様のプロセスを踏むことが一般的です。

    このような採用内定の法的性質については、始期付解約権留保付の労働契約が成立するものと考えられています。

    すなわち、内定通知を出した時点では、中途採用者は、会社を退職していませんし、新卒学生も学校を卒業していませんので、労働契約の開始時期が入社時と定められている点で「始期付」、労働契約開始時期までに内定を取り消すべき事情が生じた場合には労働契約が解約されうるという点で「解約権留保付」となります。

  2. (2)内定取り消しは解雇に準じた取り扱い

    上記のように内定の時点で、会社と労働者との間には、労働契約が成立しています。解約権が留保されているということで完全に同じというわけではございませんが、会社側から内定を取り消すことは、労働者を解雇する場合に準じた取り扱いがされることになります

    そのため、通常の解雇と同様に、内定取り消しを自由に行うことはできず、内定取り消しは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性が認められない場合には、権利を濫用したものとして、無効になります。

2、内定取り消しが認められるケースは?

内定取り消しは、解雇と同様に会社側が自由に行うことはできません。しかし、以下のようなケースについては、中途採用の内定取り消しが認められる可能性があります

  1. (1)経歴の詐称があった場合

    中途採用の場合には、新卒採用とは異なり、一定の能力や経歴が評価されて採用が決まるという面が強いです。中途採用者が履歴書に虚偽の経歴や資格を記載していたため、当該労働者の能力や資質を見誤ったという場合には、経歴詐称を理由とした内定取り消しが認められる可能性があります。

  2. (2)健康状態が悪化し、勤務に耐えられない場合

    内定後に内定者の健康状態が悪化して、勤務に耐えられない状態になってしまった場合には、適切な労務提供が期待できませんので、内定取り消しが認められる可能性があります。

  3. (3)刑罰法規に違反した場合

    内定後に採用内定者が刑罰法規に違反する行為をしてしまった場合には、内定の取り消しが認められる可能性があります。

    ただし、刑罰法規の違反といっても程度の問題がありますので、内定取り消しが認められるのは、ある程度重大な犯罪行為が対象になると考えられます。また、逮捕されても判決が出るまでは無罪推定が及びますので、直ちに内定取り消しをすることは適当ではないと考えられます。

  4. (4)経営状態の急激な悪化により採用が困難になった場合

    上記のような内定者側の事情だけでなく、転職先の会社側の事情によっても内定取り消しがなされることがあります。典型例としては、内定後に経営状態の急激な悪化により採用が困難になった場合が挙げられます。

    このような場合には、整理解雇と同様の基準に照らして内定取り消しの有効性が判断されます。

3、不当な内定取り消しにあった場合の対応

内定先の会社から不当な内定取り消しを受けた場合には、以下のような対応を検討しましょう。

  1. (1)退職の撤回

    内定先の会社から中途採用の内定を受けると、中途採用者は、現在勤務している会社に事情を伝えて、退職の手続きを進めていかなければなりません。内定取り消しが退職届の提出前に行われたのであればよいですが、退職届の提出後であった場合には、現在の勤務先を退職し、内定先にも就職することができない状態になってしまうおそれがあります。

    そこで、現在の勤務先に対して、退職の意思表示の撤回を行い、引き続き勤務する意思があることを伝えるようにしましょう。タイミングによっては、退職の撤回が認められないこともありますので、復職を希望する場合には早めに伝えることが大切です

  2. (2)内定取り消しの撤回を求める

    内定であっても会社と内定者との間には労働契約が成立していますので、内定の取り消しをするには解雇と同様の厳格な要件が必要となります。不当な内定取り消しであった場合には、内定取り消しは無効になりますので、まずは、会社に対して内定取り消しの撤回を求めて話し合いを行いましょう

    会社側の誤解によって内定取り消しがなされた可能性もありますので、労働者側の事情による内定取り消しであった場合には、労働者の口からきちんと事情を説明することが大切です。また、会社側の事情であった場合には、内定取り消しによって被る労働者側の不利益を主張して、内定取り消しには応じられない旨を伝えていきましょう。

  3. (3)労働審判の申し立て

    会社との話し合いでは内定取り消しの撤回に応じてもらえないという場合には、労働審判の申し立てを検討します。

    労働審判とは、労働者と会社との間の労働問題を解決する裁判所の手続きです。労働審判は、原則として、3回以内の期日で審理を終えることとされていますので、訴訟に比べて迅速な解決が期待できます。また、労働審判では、裁判官だけでなく、労働関係の専門的な知識や経験を有する労働審判官が民間から選任され審理に加わります。そのため、訴訟よりも実態に即した解決が期待できる手続きです。

    ただし、労働審判では、言い渡された審判に不服がある場合には、異議申し立てをすることによって審判の効力は失われてしまい、自動的に訴訟手続きに移行します。労働審判を申し立てることによって解決までの期間が延びてしまうこともありますので、事案によっては、労働審判ではなく訴訟を検討した方がよいものもあります。

  4. (4)訴訟の提起

    労働審判に異議が出た場合または話し合いで解決ができなかった場合には、最終的に裁判により解決を図ることになります。

    裁判では、内定取り消しが無効であることを理由として労働契約上の地位の確認を求めるとともに、入社日以降の賃金についても請求することができます。しかし、このような訴訟手続きを適切に進めていくためには、専門的な知識と経験が不可欠となりますので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。

4、内定取り消しや不当解雇の問題は弁護士へ相談

内定取り消しや不当解雇の問題でお悩みの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)内定取り消しや解雇の有効性を判断してもらえる

    内定取り消しや解雇をされたものの、納得ができないという場合には、不当な内定取り消しや不当解雇を理由として、当該処分を無効にすることができる可能性があります。

    内定取り消しや解雇は、会社の一方的な意思によって行われるものですが、いつでも自由に行えるわけではなく、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当といえない場合には、権利の濫用として無効になります。
    また、そもそも法的に内定といえるかという点が争われることがございます。内定取り消しが違法というには、前提として法律上の内定が成立していると認められる必要があります。

    不当な処分であったかどうか、そもそも内定が成立していると認められるかについては、法的観点からの検討が必要になりますので、まずは、弁護士に相談をしてみましょう。

  2. (2)会社との交渉を任せることができる

    不当な内定取り消しや不当解雇であった場合には、内定取り消しの撤回や解雇の撤回を求めていきます。処分の撤回を求める場合には、まずは会社との話し合いによって行うのが基本となります。

    しかし、内定取り消しや解雇をされてしまった労働者の方は、次の就職先を探さなければならず、会社との交渉に時間や労力を割くことが難しい場合があります。また、不慣れな交渉をすることになると精神的なストレスも大きなものとなるでしょう。

    このように個人で会社との交渉を行うのが難しいと感じる場合には、弁護士にご依頼ください。弁護士であれば、労働者本人に代わって会社との交渉を担当することができますので、精神的ストレスを軽減でき、安心して次の就職先を探すことが可能です。

  3. (3)労働審判や訴訟になっても安心

    会社との話し合いによって納得いく結論が出ない場合には、労働審判や訴訟といった法的手続きをとる必要があります。会社との交渉とは異なり、労働審判や訴訟では、専門的な知識が必要になりますので、一般の方では適切に手続きを進めていくのが困難だといえます。

    弁護士に依頼をしていれば、交渉によって解決ができなかった場合でも引き続き労働審判や訴訟を担当してもらえますので安心です。

5、まとめ

中途再採用者の場合も、会社から内定を受けた時点で、会社との間に労働契約が成立します。そのため、内定取り消しは、解雇と同様に厳格な要件のもとでしか認められませんので、内定取り消しを受けた場合には、不当な内定取り消しとして無効になる可能性があります。

解雇や内定取り消しに納得がいかないという方は、まずは、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています