契約社員でも手当は出るの? 最高裁の判断をもとに弁護士が解説!

2021年03月15日
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契約社員でも手当は出るの? 最高裁の判断をもとに弁護士が解説!

メトロコマース(東京メトロの子会社)の契約社員が、同社を相手に「正社員だけに退職金が出るのは不合理である」として提訴したのに対し、令和2年10月13日、最高裁判所は契約社員側の主張を退ける判決を下しました。

正社員と契約社員を雇用している会社の中には、手当の支給に差を設けていることがしばしば見られます。上記の事例は、従業員がその差がおかしい(合理的ではない)と主張して裁判になったケースです。

また、別の判例を見ると、「手当がでないのは不合理だ」といった契約社員に対して、最高裁が手当を出す必要はないと判断したケースもあります。

結局、契約社員には手当が支給されるのでしょうか。その基準は何なのでしょうか。本記事で、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士がさまざまな最高裁判例を見ながら解説します。

1、契約社員にも手当は出る?

契約社員に手当が出るかどうかは、令和2年4月1日(中小企業の場合は令和3年4月1日)から施行されている「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)が大きく関係します。

  1. (1)パートタイム・有期雇用労働法の示す手当

    同法は、企業は、正社員と非正規社員の間で、合理的ではない待遇の格差をつけてはならないと規定しています(同一労働同一賃金)。ここで示されている待遇は、基本給、賞与、手当、福利厚生、その他です。

    したがって、契約社員でも、正社員と同じ労働条件なら、基本的に正社員に出ている手当が同じように支給されなければなりません

  2. (2)同一労働同一賃金を規定する法律

    同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働法における3つの条文(第8条、第9条、第15条)で規定されています。

    第8条と第9条は、同一労働同一賃金の判断基準となる均衡待遇と均等待遇を示した条文です。均衡待遇とは、職務内容が異なる場合には、その違いに応じて合理的な格差が要求されることをいいます。一方、均等待遇とは、職務内容が同じなら同一の待遇が要求されることをいいます。

    第15条は、同一労働同一賃金を実現するために、具体的な指針を厚生労働大臣が定めることが規定された条文です。企業は、不合理な待遇差を解消するために「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」に沿って、基本給や手当などの待遇を決定しなければいけません。

  3. (3)ガイドラインが示す手当支給の基準

    厚生労働省のガイドラインでは、さまざまな手当の支給基準が記載されています。

    たとえば、役職手当は、役職の内容に対して支給するものについては、同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない、とされています。

    また、業務の内容が同一の場合の精皆勤手当や労働時間の途中に食事のための休憩時間がある際の食事手当は同一の支給を行わなければならない、とされています。

    さらに、所定労働時間を超えて同一の時間外労働を行った場合に支給される時間外労働手当の割増率、深夜・休日労働手当の割増率、通勤手当・出張旅費、についても同一の支給を行わなければならない、とされています。

2、ほかの手当は出ないの? 最高裁による判断

前述のとおり、対象として示されている手当は、同一賃金同一労働が求められることが分かりました。

では、上記以外の手当は、どのようになっているでしょうか。最高裁による判断から確認していきましょう。

  1. (1)日本郵便事件では、各種手当・休暇に関する待遇差が不合理と判断

    日本郵便事件とは、日本郵便の契約社員が、同じ仕事をしているのに正社員と待遇格差があるのは労働契約法20条に違反しているとして、損害賠償を求めた事件です。

    日本郵便では、これまで正社員のみに扶養手当・年末年始勤務手当・夏季冬季休暇・祝日給・有給の病気休暇を支給し、契約社員には支給してきませんでした。たとえば、正社員は入社してすぐに90日間 の有給の病気休暇がもらえるのに対し、契約社員は雇用期間に関係なく10日間の無給の休暇のみしかもらえない、などです。

    こうした待遇に対して、同社で働く契約社員が待遇格差が不合理であるとして提訴しました。そして、最高裁が、令和2年10月15日に5項目すべての手当の待遇格差が不合理である旨の判断をしました。

    その理由は、扶養手当については「本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当する」、病気休暇日数については「私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理である」、としています。

  2. (2)ハマキョウレックス事件では、一部の手当に関する待遇差には合理性があると判断

    ハマキョウレックス事件は、日本郵便事件と同様、手当に関する不合理な待遇格差が焦点となった事件です。

    ハマキョウレックスは、平成30年6月1日最高裁判決が出る前までは、正社員にのみ無事故手当や作業手当などを支給していました。

    しかし、最高裁は、作業手当については「正社員と契約社員の職務の内容が同じであり、作業に対する金銭的評価は、職務の内容・配置の変更の範囲の違いによって異なるものではない」、無事故手当については、「正社員と契約社員の職務の内容が同じであり、安全運転及び事故防止の必要性は同じである。将来の転勤や出向の可能性等の違いによって異なるものではない」、として待遇格差を不合理と判断しました。

    ただし、同判決では、住宅手当だけは、正社員のみに支給することに対して合理性があるとしています。その理由は「契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る」としています。

  3. (3)メトロコマース事件では、正社員だけに退職金が支給されることは不合理ではないと判断

    メトロコマース事件は、冒頭でも紹介したように、同社で長期的に働いていた契約社員が、正社員だけに退職金が支給されるのは不合理な差別だとして提訴した事件です。

    そして、令和2年10月13日に、最高裁によって原告の訴えが退けられました。その理由は、退職金支給の目的が正社員の定着にあること、かつ、正社員は多様な業務についていること、配置転換を命じられる可能性があること、などをあげています。

  4. (4)大阪医科薬科大学事件では、アルバイトに賞与がないのは違法ではないと判断

    大阪医科薬科大学事件は、正職員や契約職員にのみ賞与があり、アルバイトにはないのは違法だとして最高裁まで争われた事件です。同一労働同一賃金のガイドラインでは、賞与と手当は区分されていますが、判断材料になるためご紹介します。

    最高裁は、ボーナス支給の目的が正社員の定着であること、正職員や契約職員とアルバイトの職務内容が異なること、アルバイトには配置転換の可能性がないことなどを理由として、令和2年10月13日に、アルバイトに賞与を支給しないことは不合理ではないと判決を下しました。

3、個別ケースによって判断が分かれる

前述の裁判例をみてわかるとおり、それぞれのケースによって、合理・不合理の判断は異なります。たとえば、日本郵便の事件では、年末年始勤務手当を支払わないのは不合理とされましたが、これは契約社員も正社員と同様に年末年始に働いていたからです。同じ種類の手当だから同じ結論が出るとは限りません。

もっとも、同一労働同一賃金のガイドラインでは、すべての手当を対象としているものの、具体的な基準を示していないのが現状です。実際、家族手当や住宅手当などは、均衡・均等待遇の対象となってはいるものの、各社の労使で議論をすることが望まれると記載されています。

使用者は労働者に対して合理的な説明を行い、労働者は使用者の説明に不合理な点がないか厳しくチェックする、といったやり取りを重ねることが大切と言えるでしょう。

4、弁護士へ相談

繰り返しになりますが、同一労働同一賃金の制度下では、正社員と同じ労働条件なら契約社員も同じ待遇とされることが原則です

したがって、正社員と契約社員に待遇格差があり、その格差の程度に納得できない場合は、会社の制度がパートタイム・有期雇用労働法に違反している可能性があります。その際は、弁護士への相談がおすすめです。

以下、弁護士に相談するメリットを4つご紹介します。

  1. (1)違法性を判断してもらえる

    会社に対して不合理な待遇差を主張する場合、法的な観点から、合理的ではないと指摘していかなくてはいけません。弁護士なら、法律知識を有しているため、実態を調査して、上記指摘の方法をアドバイスすることが可能です。

  2. (2)集めるべき証拠のアドバイスがもらえる

    不合理な待遇差を証明するためには、根拠となる証拠が必要です。弁護士に相談すれば、有用な証拠を揃えられるよう、アドバイスをしてもらえます。

  3. (3)精神的な負担を軽減できる

    会社の中には、意図的に不合理な待遇差をつけているところがあります。そうした会社だと、まともに交渉に応じてもらえない、逆に労働者を追い詰めるような発言をしてくる、等のことが十分に考えられます。弁護士なら、会社との対応を全て委任ができるので、ストレスなく手続きを進めることが可能です。

  4. (4)労働審判や訴訟手続きも代理してくれる

    最初に会社と交渉を行っていくことになりますが、交渉では折り合いがつかないこともよくあります。このとき、労働審判や訴訟手続きに進むことになりますが、弁護士ならこのような法的手続きも代理してくれます。

5、まとめ

同一労働同一賃金がすべての企業に対して適用されるのは、令和3年4月1日からです。しかし、本文の最高裁判例を見てきたように、現時点でも待遇差が不合理と判断される可能性は十分にあります。

契約社員だけ手当が出ないのはおかしい……と感じていたら、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスに、一度ご連絡ください。お悩みを解決するために、経験豊富な弁護士が尽力いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています