在宅勤務だから残業代は出ないって本当? 請求できるケースとは?
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昨今、新型コロナウイルス感染症の影響で、在宅勤務を導入する企業が増えています。東京都の「テレワーク「導入率」緊急調査結果」によれば、令和2年4月における都内企業のテレワーク導入率は62.7%で、前月比38.7ポイント増でした。
在宅勤務には、通勤に伴う精神的・身体的負担が減らせる、仕事と生活のバランスが取りやすくなるといったメリットがあります。しかし、その一方で、「在宅勤務なので残業代は出ないと会社に言われた」「労働時間は変わらないのに、残業代カットで給料が減った」という従業員の声が少なくありません。
在宅勤務の場合は、本当に残業代が出ないのでしょうか。この記事で、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。
1、在宅勤務でも残業代は発生する
原則として、在宅勤務であっても、会社で働いているのと同様の労働条件で、残業代が発生します。たとえば、通常の労働時間制が採用されている場合、所定労働時間を超えた分の賃金が、残業代として支払われます。
在宅勤務について、通常の労働時間制のほかに会社がよく採用する制度は、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制です。まずは、これら4種類の労働時間制度において、どのような場合に残業代が発生するのかご紹介しましょう。
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(1)通常の労働時間制
会社で勤務するのと同じ、いわゆる一般的な労働時間制です。冒頭で説明したように、在宅勤務の場合でも、残業代は所定労働時間を超えた分だけ発生します。
また、実労働時間が残業によって1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えれば、その超えた分は法定時間外労働の扱いとなり、25%の割増賃金が支払われます。一方、法定労働時間を超えていない分の残業は、割増のない、通常の残業代が支払われることになります。
実際、どのような労働時間の場合、どのように残業代が支払われるのか、いくつか例をみていきましょう。- 所定労働時間7時間・実労働時間8時間……1時間分の残業代(割増なし)が発生
- 所定労働時間8時間・実労働時間10時間……2時間分の残業代(25%割増)が発生
- 所定労働時間7時間・実労働時間10時間……1時間分の残業代(割増なし)+2時間分の残業代(25%割増)が発生
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(2)フレックスタイム制
フレックスタイム制は、あらかじめ決めておいた一定期間(清算期間)の総労働時間の中で、労働者が自由に始業・就業時刻を決められる制度をいいます。毎週火曜日に予定があるので出勤時間を短くし、その分木曜日は長く働くなど、プライベートと仕事を両立しやすいのがメリットです。会社によっては、必ず勤務しなければいけない時間帯(コアタイム)を設けているところもあります。
フレックスタイム制における残業代の額は、清算期間における総労働時間(総枠)と実労働時間の差で計算されます。そして、実労働時間が清算期間における法定労働時間の総枠を超えた場合は、その時間分が時間外労働(25%割増)の扱いとなり、法定労働時間を超えない部分は法廷内残業(割増なし)となります。
また、清算期間における法定労働時間の総枠は、原則として「1週間の法定労働時間(40時間)×清算期間の歴日数÷7日」で計算します。
たとえば清算期間の歴日数が31日なら177.1時間、30日なら171.4時間です。
なお、清算期間が1か月超の場合は、1か月ごとの労働時間のうち、週平均50時間(歴日数が31日なら221.4時間、30日なら214.2時間)を超えた月があった場合は、その超えた時間分がその月の時間外労働として加算されます。
また、清算期間の総枠を超えた時間分も時間外労働となりますが、上記の週平均50時間を超えた月に支給された分を引いた残業代が清算期間の最終月に支払われることになります。
実際、どのように残業代が支払われるのか、いくつか例をみていきましょう。- 清算期間1か月(31日)・総労働時間150時間・実労働時間160時間の場合
10時間分の残業代(割増なし)が発生 - 清算期間1か月(30日)・総労働時間170時間・実労働時間175時間の場合
1.4時間分の残業代(割増なし)+3.6時間分の残業代( 25%割増)が発生
- 清算期間1か月(31日)・総労働時間150時間・実労働時間160時間の場合
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(3)事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、あらかじめ決められた時間だけ働いたとみなし、その時間分の賃金を労働者に支払うみなし労働時間制のひとつです。
管理の目が届きにくい自宅(事業場外)で働くテレワークと相性のいい制度ですが、会社が導入するためには労働基準法第38条の2をクリアしなければいけません。すなわち、「労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いとき」でなければ、この制度を採用することができません。
テレワークにより労働者が事業場外で業務に従事した場合、どのように「労働時間を算定し難いとき」を認定するかについては、厚生労働省が、- ①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
- ②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
(出典・情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン)
という判断基準を設けています。
事業場外みなし労働時間制は、実労働時間ではなく所定労働時間で賃金を計算する制度ですが、残業代が全く支払われないわけではありません。たとえば、業務の内容・量などからして所定労働時間以上の時間が必要であると考えられる業務を行った場合は、その必要時間が所定労働時間を超えた分の残業代をもらえる可能性があります。
また事業場外と合わせて、事業場内で労働した場合は、その両方を合わせた時間が実労働時間として計算されます。- 所定労働時間8時間・業務遂行に必要な労働時間10時間……2時間分の残業代(25%割増)が発生
- 所定労働時間8時間・事業場外の実労働時間8時間+事業場内の実労働時間1時間……1時間分の残業代(25%割増)が発生
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(4)裁量労働制
裁量労働制は、みなし労働時間制のひとつで、業務内容と労働時間が必ずしも比例関係にない業種にしばしば導入される制度です。
裁量労働制には、専門業務型裁量動労制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。
前者は、業務遂行のために用いる手段や方法の選択が、社員の意思能力に大きく委ねられている業態に採用される制度です。新技術の研究開発に関わる業務、デザインの考案業務、公認会計士や弁護士の業務などが当てはまります。
後者は、事業運営に大きく関わる決定が行われる事業場(本社や本店など)で、企画や立案などを行う労働者を対象とした制度です。事業場には、本社や本店から具体的な指示を受けずに重要な決定を行っている支社や支店も含まれます。
裁量労働制の場合、労使協定などであらかじめ所定労働時間を定め、その所定労働時間労働したとみなされますので、実労働時間が所定労働時間を超えたとしても、残業代は発生しません。ただし、所定労働時間が1日8時間を超えている場合、その超過した時間分については25%の割増賃金がもらえることになっています。- 所定労働時間8時間・実労働時間10時間……残業代なし
- 所定労働時間9時間・実労働時間8時間……1時間分の残業代(25%割増)が発生
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(5)深夜手当や休日手当も発生する
在宅勤務であっても、22時から翌5時までに働いた場合は深夜手当(割増率25%)が、休日のときに働いた場合は休日手当(割増率35%)が発生します。
たとえば、深夜にいきなり上長からメールが送られてきたので返信した、休日中にトラブルが発生してやむを得ずに対応した、などというときは、各種手当を請求できる可能性があります。
2、残業代が発生しないケース
在宅勤務における残業代は、どんな労働時間制であっても、その労働時間制における残業代発生のルールを満たしている限り、その支払いを請求できるのが原則です。
ただし、例外として、残業代が発生しない可能性が高いケースがあります。残業の際には事前申請・事後報告が必要であると就業規則などで定められているにもかかわらずそれらをせず、かつ以下の3要件すべてに当てはまる場合です。
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(1)使用者から残業を指示されていない
たとえば、残業禁止命令が出されており、かつ残務が生じた場合には役職者に引き継ぐ運用がされていたにもかかわらず、その命令に反して時間外労働をしていた場合には、残業代の支払いを請求できない可能性があります。
逆に、上司や社長から「業務が終わるまで退勤してはいけない」「今日は2時間残業してほしい」と言われた場合や、残業をしなければできない業務を割り振られたために残業をせざるを得ないという状況に陥っている場合は、残業の指示がされたといえます。 -
(2)業務量や期限の設定が妥当である
(1)とも関連しますが、1日の仕事量が労働者の力量と比較して過大ではなく、設定された期限に余裕があるような場合は、残業の必要がないにもかかわらず労働者が勝手に残業をしたと会社から反論される可能性があります。
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(3)残業を裏付ける事実がない
残業代の支払いを受けるためには、深夜にメールをしている、休日に働かないと作れないような資料が提出されているといった、誰が見ても所定労働時間外に働いていることがわかるような事実を主張する必要があります。そのような事実を証明するために役立つ証拠については、次章で詳しくご紹介します。
以上の要件を満たし、かつ事前申請・事後報告がなかった場合は、残業しても労働時間に含まれず、残業代が出ないことがあります。ただし、事前申請・事後報告をしようとしたものの、上司からの圧力で申請・報告をすることができなかったといった事情がある場合は、この限りではありません。
3、未払いの残業代を請求するために必要なもの
これまでの解説と自分の状況を照らし合わせ、もし未払いの残業代があるのなら会社に請求を行いましょう。
ただ、「○月○日に残業したので、残業代をください」と言うだけでは、残業代を支払ってもらうことは難しいでしょう。
在宅勤務中に発生した残業代を請求するには、前章で見てきてわかるように、会社の指示を守ったうえで残業をしたという事実を示す証拠をそろえることがポイントです。
以下、請求する前に用意しておきたいものをご紹介しましょう。
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(1)会社から発行された書類
真っ先に用意したいのが、労働時間制の種類、所定労働時間、事前申告・事後報告制度の内容など、在宅勤務のルールが記載された就業規則です。
また、会社とどのような契約をしたのかがまとめられている雇用契約書、実際の支給額が記載された給与明細なども用意しましょう。 -
(2)残業の事実や残業時間がわかる記録
以下のものが有効です。
- 出退勤時にしたメール
- パソコンの使用時間がわかるログ
- 仕事で利用しているチャットのスクリーンショット
- 上司からの通話内容を録音したデータ
- 毎日の業務報告
在宅勤務の場合に限らず、労働時間がわかる証拠は特に重要なので、少しでも関係しているものはできるかぎり集めてください。これらの資料はあればあるほど、裁判になったときにも役立ちます。
4、未払い残業代請求を弁護士に依頼すべき理由
残業代の請求権には、3年という時効期間(2020年3月分までは2年)があります。そのため、証拠をそろえたら、速やかに会社に請求しましょう。
しかし、十分に証拠をそろえたにもかかわらず、会社が素直に応じてくれない場合はどうしたらいいのでしょうか。そのときは、諦めずに第三者に相談しましょう。
労働基準監督署や労働局に相談するという方法もありますが、おすすめしたいのは弁護士です。最後に、弁護士に相談・依頼するべき理由についてご紹介します。
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(1)有効な証拠を集められる
弁護士に相談すれば、残業代請求に有効な証拠は何か、的確なアドバイスがもらえます。また、弁護士が会社にアプローチすることで、相談者本人の依頼では開示してくれないような資料が手に入ることも期待できます。
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(2)正確な残業代が計算できる
残業代請求では、支払われていない残業代の額を、正確に算出することが重要です。
しかし、個人で計算しようとすると、労働時間制の細かな規定を確認したり、時間外手当の各種割増率を把握したりする必要があり、手間がかかります。残業代が計算できるツールもありますが、算定できるのはあくまでざっくりとした金額にすぎません。
弁護士に依頼すれば、個々の状況や証拠をもとに、正確な残業代を知ることができます。
まずは計算ツールで大体の金額を確認した後に、弁護士に相談してみてもいいでしょう。 -
(3)会社と直接交渉できる
相談者に代わって会社との直接交渉を依頼できるのも、弁護士に依頼する利点です。
弁護士は主張の仕方や必要な証拠を熟知しているので、会社のさまざまな言い分に臨機応変に対応することができます。たとえば、事業場外みなし労働時間制を採用しているから残業代は出ないと主張している会社に対して、そもそも制度を導入するための基準を満たしていないので残業代は発生する、といった指摘をすることも考えられます。
また、企業と労働者の間で起きたトラブルを迅速に解決することを目的とした労働審判や、民事訴訟となった場合でも、依頼人の代理人となり、法的手続を進めることができるのも、弁護士の強みです。
5、まとめ
在宅勤務だからといって一律に残業代が出ないわけではありません。もし残業代が出ないと言われても、会社の言い分を鵜呑みにせず、就業規則や労働契約書などをチェックするようにしましょう。
また残業代が発生しているのであれば、証拠をそろえ、その分をしっかり請求するようにしてください。
もしひとりで交渉するのは不安、相談してみたがまともに取り合ってくれる気配がない、といった場合は、ぜひベリーベスト法律事務所 新宿オフィスにご相談ください。
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