横領罪で逮捕されてしまった! 懲役刑になる可能性はどのくらい?
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令和3年6月、東京都新宿区にある信用金庫に勤めていた男性が、顧客の口座から預金を勝手に引き出す、無断で解約する、などして6000万円余りを着服していたことが発覚し、懲戒解雇処分になっていたことがと報道されました。信用金庫は顧客に被害額を全額、弁済するとともに、業務上横領などの疑いで警視庁に相談しているようです。
横領罪とひとくちに言っても、いくつかの種類があり、どの横領罪に該当するかによって処罰が異なります。本コラムでは横領罪の種類やその法定刑、示談の重要性などを、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説します。
1、横領罪の概要と種類
まずは横領罪の種類と法定刑について解説します。
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(1)横領罪とは
横領罪は、自己の占有する他人の財物(金銭や物品)を横領した場合に成立します。横領とは、簡単に言うと、自分が管理している他人の物をとることです。以下のようなケースは、横領罪に該当する可能性があります。
- 借りていた図書館の本を返却せずに自分の物にした
- 経理の仕事に携わっており、管理していた会社のお金を自分の物にした
- レンタカーを返却せずに自分の車として乗り回している
他人の物をとる犯罪は、横領罪の他に「窃盗罪」があります。両者の違いは「他人の物が自分の管理下にあるかどうか」です。横領は、自分が管理している他人の物をとることなので、「他人の家に潜入してお金をとる行為」は横領ではなく、窃盗に該当します。また、会社のお金をとる行為であっても、お金を管理することがない立場にありながら、お金を盗んだ場合は横領罪ではなく窃盗罪が成立します。
もうひとつ、横領罪と似た犯罪で「背任罪」があります。背任罪は、刑法第247条に規定されている犯罪です。条文では、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り、または本人に損害を与える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたとき」に背任罪が成立すると規定されています。
会社に恨みを持った経理担当者が、ライバル社に機密事項である決算情報を知らせる行為、製品開発担当者が、他社に新製品の開発状況を漏らす行為で、会社が損害を負った場合は背任罪が成立する可能性があります。
横領罪と背任罪はよく似ていますが、横領罪は対象物の他人の所有権を侵害する犯罪であるのに対し、背任罪は他人から任された職務・任務に背いて他人に損害を与える犯罪です。 -
(2)横領罪の種類と法定刑
続いて、横領罪の種類とそれぞれの法定刑を説明します。
●単純横領罪
単純横領罪は、「自己の占有する他人の物」を横領したときに適用される罪です。単純横領罪で逮捕されて有罪になると、5年以下の懲役に処されます。
「友達の本を借りたまま返さない」、「友達の財布を預かった際に、中のお金をとった」などの場合に単純横領罪が成立する可能性があります。
●業務上横領罪
業務上横領罪は、「業務」で占有する他人の物を横領した場合に問われる可能性がある罪です。業務上横領罪で有罪になると、10年以下の懲役に処されます。
「経理担当者が会社のお金を横領した」、「銀行員が顧客の貯金を横領した」、などの場合に業務上横領が成立する可能性があります。
●遺失物等横領罪
遺失物等横領罪は、落とし物のように他者の占有を離れた財物を横領した場合に適用される罪です。遺失物等横領罪で有罪になると、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料に処されます。
「道路に落ちていて、付近に持ち主が見当たらない財布を盗んだ」、「放置されていた自転車を盗んだ」、などの場合に遺失物等横領罪が成立する可能性があります。
2、横領罪は示談が有効
横領罪のように、被害者が明確な犯罪では被害者と示談を成立させることで、起訴を回避、または刑罰を軽減できる可能性が高まります。
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(1)横領罪で示談が有効な理由
被害者と示談ができれば、被害者に被害届や告訴状を取り下げてもらい、検察官が不起訴処分をすることで、前科を付けずに解決できる可能性が高まります。なぜなら、横領罪では、被害金額さえ弁済されればそれでよしとする被害者が多い傾向にあるからです。
そもそも、被害者にとって、加害者が逮捕されて有罪となったとしても、横領されたお金が戻ってくるわけではありません。また、示談交渉を行わず、民事訴訟を提起して、横領したお金を取り戻そうとすると、費用も時間もかかります。しかし、加害者が自主的に横領した財産を返してくれるのであれば、手間も時間もかからずに元の状態の戻すことができます。
横領事件において、示談は被害者・加害者双方にメリットがあるといえます。 -
(2)示談が成立しない場合
横領したお金を一括で弁済できない、被害者が示談に応じない、などのケースでは、加害者が被害者と示談をしようとしても、示談を成立させることは困難です。このような場合は、弁護士に交渉を一任すべきです。弁護士が間に入ることで、被害者の感情も落ち着き、交渉のテーブルについてもらいやすくなります。また分割払いの打診についても、横領した本人から告げるよりも支払いの信憑性が高まります。
分割払いを交渉する場合は、分割金額や回数、弁済日時を取り決めておくだけでなく、保証人をつけるなどの条件を提示すれば、示談が成立しやすくなります。家族や親族にお願いしておくとよいでしょう。
3、横領事件における弁護士の必要性
横領事件では、弁護士に依頼することでさまざまなリスクを回避でき、今後の人生への影響を最小限に抑えることができます。ここでは、横領事件における弁護士の役割を、事件の流れに沿って解説します。
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(1)警察の取り調べ
逮捕後は、警察に身柄が拘束されます。身柄拘束期間は最大で48時間と決められており、その間は捜査官による厳しい取り調べが行われます。取り調べ期間中は、家族であろうとも会うことはできないため、弁護士による接見が必須といえます。
弁護士から助言を受けておかなければ、取り調べ中に自分に不利なことを話してしまうかもしれません。供述内容が供述調書に記載されれば、後にその内容を争うことは容易ではありません。取り調べの対応は慎重に行わなければなりません。 -
(2)検察の取り調べ
警察段階での48時間以内の身柄拘束の後は、事件が検察に送致され、検察官による取り調べが行われます。検察官は、被疑者の身柄を引き受けてから24時間以内に勾留が必要かどうかを判断します。被疑者が逮捕され、検察官が勾留請求をして、裁判官が勾留決定の判断をするまで、弁護士は勾留回避に向けた弁護活動を行います。
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(3)勾留
勾留とは、最大20日にわたる長期の身柄拘束のことをいいます。勾留されてしまうと帰宅できません。勾留中は会社や学校に通うことができなくなるため、退職や退学を余儀なくされる可能性があります。これらの事態を回避するため、勾留されず「在宅事件」扱いになるよう検察官や裁判官に働きかける必要があります。
勾留は最大20日間続き、勾留期間が終わるまでの間に、検察官は「起訴・不起訴」を判断します。被害者と示談できているかは、検察官のこの判断に大きく影響します。
しかし、勾留期間中に、被疑者本人が被害者との示談を進めることはできません。もっとも弁護士に依頼していれば、身柄の拘束を受けている本人に代わって示談交渉を進めることができます。起訴までに示談を成立させることができれば、被害者は被害届や告訴を取り下げ、検察官が不起訴処分にする可能性が高まります。したがって、逮捕されてから合計23日以内に被害者と示談を成立させることが重要になります。
示談金を一括で支払う資産があればよいのですが、なければ分割払いなど被害者に不利な条件での示談を進めなければなりません。このような場合は当事者同士では折り合いをつけることは困難ですが、弁護士に依頼すればスムーズに交渉できる可能性が高まります。
このように、被害者との示談を成立させるためには弁護士の介入が必要不可欠です。あなた自身やあなたの家族が横領罪で逮捕されたときは、なるべく早く弁護士に相談の上、今後の対応を依頼しましょう。
4、まとめ
単純横領罪や業務上横領罪の容疑で逮捕されてしまうと、懲役刑を受ける可能性があります。もっとも、被害者と示談が成立すれば、起訴を回避できたり、執行猶予付き判決が出る可能性が高まります。
重すぎる処罰が科されることを避けるためにも、横領罪の容疑で逮捕されてしまったら、速やかに弁護士に弁護を依頼することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスでは、横領罪の示談交渉や弁護活動を広く受け付けております。まずはお気軽にご連絡ください。
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