派遣先企業は知っておきたい、派遣社員のテレワークへの対応方法

2021年01月12日
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派遣先企業は知っておきたい、派遣社員のテレワークへの対応方法

東京都が令和2年9月14日に公表したテレワーク導入実態調査結果によれば、令和2年6月30日時点での都内企業のテレワーク導入率は57.8%でした。これは、令和元年度と比較し2.3倍になっており、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響がうかがえます。

このようにテレワークの導入率が高まる一方で、契約社員や派遣社員などの非正規雇用労働者だけを出社させる企業も見られます。理由は、労務管理が難しい、情報漏えいのリスクを避けたい、正社員と違ってテレワークをさせる環境が作れない、などさまざまです。

しかし、「非正規社員は会社で仕事」という処遇は、場合によっては違法とみなされる可能性があります。

この記事では、非正規雇用労働者のうち派遣社員のテレワークに焦点をあて、派遣先企業はどう対応すべきなのか、ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスの弁護士が解説しています。なお、本記事ではテレワーク=在宅勤務としています。

1、派遣社員だけテレワークを認めないのは違法?

そもそも、派遣社員だけテレワーク(≒在宅勤務)を認めないという状態は違法なのでしょうか。

「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下、労働者派遣法)の第30条の3では、派遣社員と派遣先で雇用されている通常の労働者の仕事内容が同じなら、待遇に不合理な差をつけてはならないとされています。

したがって、「正社員はみんなテレワーク、派遣社員は会社で勤務」とすることは、公正な待遇が確保されていないとされ、違法とみなされる可能性が高いでしょう。

また、労働契約法第5条では、使用者は労働者の生命・身体などの安全を確保しつつ、労働することができるように必要な配慮をしなければならないとされています。そのため、テレワークが可能であるにもかかわらず出社させている場合、社会情勢によっては安全配慮義務を果たしていないとされる可能性があります。

2、新型コロナ感染対策に関する厚労省の要請

ところで、厚生労働省(以下、厚労省)では、昨今の新型コロナの感染拡大防止のために、派遣先企業・派遣元企業にさまざまな要請をしています。その要請のひとつが、テレワークの活用です。

具体的にどのように求めているのか、ほかの要請内容も見ながらご紹介しましょう。

  1. (1)テレワークや時差出勤の活用

    厚労省が感染拡大のリスクを減らすために推奨しているのが、テレワークや時差出勤の活用です。

    テレワークについては、テレワーク総合ポータルサイトを設置し、具体的な導入方法やツールの紹介をして導入を促しています。

    また、時差出勤については、導入する前に、使用者と労働者の間で十分な協議をすることを求めています。そして、始業・終業の時刻の決定を労働者に委ねられるフレックスタイム制を、時差出勤を実現する方法としてあげています。

  2. (2)休みやすい環境や病気休暇制度の整備

    厚労省は環境整備の必要性を訴えています。たとえば新型コロナに感染した労働者に対して職場で嫌がらせやいじめが起きないように、日頃から従業員に注意喚起するなどです。また、労働者がそうした被害にあったときに、相談できる窓口を用意しておくことも大切としています。

    また、病気休暇制度の整備も要請しています。新型コロナに感染して休んだ場合、基本的に使用者の責に帰すべき事由に該当しないとみなされるため、企業側は休業手当を支払う義務はありません。感染予防として、労働者が自主的に休んだ場合も同様です。しかし、厚労省はこのような場合もできるかぎり手当を支払うのが望ましいとしています。

    ちなみに使用者が、病気休暇の手当として年次有給休暇(有休)を勝手に充てることはできません。労働基準法第39条第5号で、有休は労働者の請求する時期に与えなければならないとされているからです。

3、派遣社員にテレワークを認める場合の留意点

ここまでご紹介してきた正社員と派遣社員間の待遇差に対する考えや厚労省の要請から、テレワークを導入している企業なら、派遣社員についてもテレワークをさせる必要があると言えるでしょう。

では、実際に派遣社員にテレワークを認める場合、派遣先企業はどのようなことに留意すればいいのでしょうか。

  1. (1)厚労省のガイドラインに基づいた適切な労務管理

    派遣先企業は、基本的に、厚生労働省がテレワークを実施する企業向けに策定した「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に従って、派遣労働者の雇用管理を行います。

    たとえば、派遣社員の始業・終業時刻と休憩時刻についてはタイムカードやパソコンの使用時間を用いて記録するとともに、派遣元の企業に報告を行わなくてはなりません。

    中抜け時間については、使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、そのような時間が自由に利用することが保障されている場合には、その開始と終了の時間を報告させる等により、休憩時間として扱います。

    また、労働者のニーズに応じ、始業時刻を繰り上げる、または終業時刻を繰り下げることや、その時間を休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として取り扱うことが考えられます。

    なお、始業や終業の時刻の変更が行われることがある場合には、その旨を就業規則に記載しておかなければなりません。また、時間単位の年次有給休暇を与える場合には、労使協定の締結が必要です。

    時間外労働については、テレワークでも割増賃金を支払わなければいけません。ただ、そもそも時間外労働が常態化しないように、労働時間や業務内容を適宜見直すことが大切です。また、休日や深夜帯の業務連絡を禁止する、勤務時間外に社内システムへのアクセスできないようにする、なども対策としてあげられるでしょう。

  2. (2)就業状況の確認

    派遣先企業(および派遣元企業)は、就業状況が労働者派遣契約に反していないかどうかを確認するために、派遣社員の就業場所を定期的に巡回する義務があります。ただし、電話やメール、web面談などで確認できれば 、自宅まで訪問する必要はありません。

    なお、派遣先企業が派遣社員の自宅の住所(およびそれに関する情報)を知りたい場合は、派遣元企業が派遣社員から同意を得るのが必須となります。

  3. (3)派遣社員からの苦情処理

    派遣先企業が、派遣社員から苦情を受けた場合は、速やかに対処しなければいけません。派遣元企業へ遅滞なく報告を行うのも、派遣先企業の義務です。

  4. (4)派遣社員の教育

    テレワークでは、情報セキュリティの確保が大きな課題のひとつです。派遣先企業としては、業務を遂行する上で必要な能力の一環として、情報の扱い方について教育し、経験させることが求められます。なお、教育方法は、総務省で公表されている「テレワークセキュリティガイドライン」が参考になります。

  5. (5)労働者派遣契約書の記載内容

    派遣社員にテレワークをさせるときには、労働者派遣契約の一部変更を行うことが必要になる場合があります。

    労働者派遣契約書は、派遣元企業が作成するのが一般的ですが、派遣先企業も内容をよく把握しておくことが大切です。契約の変更については、緊急の必要がある場合についてまで、事前に書面によることを要するものではありませんが、派遣元事業主と派遣先の間で十分話し合い、合意しておくことが必要です。

    テレワーク導入時に特に気をつけておきたい事項をご紹介します。

    ●就業場所
    就業場所は、勤務実態に合わせて記載します。たとえば、基本は派遣先の事業所での労働で、時折テレワークなら、先に派遣先の住所を記載し、但書きで「必要に応じて派遣労働者の自宅」とします。テレワークが就業の基本、必要があった場合に派遣先の事業所で働く場合は、先に「派遣労働者の自宅」と記載して、但書きで派遣先の住所を記します。

    ●テレワーク実施においてかかる費用
    テレワークの実施においてかかる費用は、派遣先企業と派遣元企業が相談した上で、労働者派遣契約書に記載しておくと、後々トラブルが起きにくくなります。

    なお、テレワークを行うことによって生じる費用について派遣社員に費用負担をさせる場合には、事前に派遣元企業が労使で話し合いをし、就業規則にその内容を記載しておいたほうがよいでしょう。ケース・バイ・ケースにはなりますが、情報通信機器や備品、書類の郵送費、そのほか会社が認めた費用は会社負担、勤務中に発生する水道光熱費やそれ以外の費用は派遣社員負担、とするのが一般的です。

4、そのほか、派遣先企業が留意すべきこと

前述のとおり、派遣先企業は、自社で働く社員と派遣社員との間に、不合理な待遇差が発生しないように注意しなければいけません。つまり、労働者派遣法に従って、同一労働同一賃金を実現する必要があります。

このときに、派遣先企業として何に気をつければいいのか、ご紹介します。

  1. (1)比較対象労働者を適切に選定し、必要な待遇情報を提供する

    労働者派遣法では、派遣先均等・均衡方式と労使協定方式、どちらかを用いて同一労働同一賃金を実現するように規定されています。このうち、派遣先企業に大きく関わるのは派遣先均等・均衡方式です。

    派遣先均等・均衡方式は、派遣先企業の職場で同じ仕事をしている正社員と派遣社員の待遇を同等のものにすることを言います。
    派遣先企業には、派遣社員と同じ仕事に従事する自社正社員の待遇情報を派遣元に提供することが求められます。

    派遣先の無期雇用労働者の待遇を参考に、派遣社員の職務の内容や配置の変更範囲を決めます。そのため、派遣先企業はモデルとなる労働者(比較対象労働者)を適切に選定し、派遣元企業に対して必要な待遇情報を提供しなければいけません。

    ●比較対象労働者の選定方法
    比較対象労働者は、派遣社員と職務の内容や配置の変更範囲などの要素が多く重なっている正社員を優先的に選定します。

    具体的には、まず派遣社員と職務の内容および配置の変更範囲が同じ正社員がいないかどうか探します。いなければ、派遣社員と職務の内容が同じ正社員を選びます。

    さらに、その労働者がいなければ職務の内容もしくは責任の程度が同じ正社員を選びます。それでもいないときは職務の範囲および配置の変更の範囲が同じ正社員を選定する、といった具合です。

    ●提供する待遇情報の種類
    派遣元企業に提供する待遇情報は、職務内容や配置の変更範囲、雇用形態、待遇内容です。このほか、選定した理由、待遇の性質および目的、待遇決定にあたって考慮すべき事項も提供します。

  2. (2)福利厚生施設の利用機会を与える

    派遣先企業は、労働者派遣法の定めに従い、自社の従業員が使用している福利厚生施設(食堂や休憩室など)を派遣社員も使えるようにしなければいけません。また、派遣先企業は、病院や診療所、保育所、図書館、運動場などの施設の利用について、派遣社員に特別なはからいをする義務もあります。

5、まとめ

本記事で見てきたように、「テレワークができるはずなのに、派遣社員だけ会社に来させる」ことは違法とみなされる可能性があります。

もし、どのような対応をするのがベストなのか判断がつかない場合は、一度弁護士に相談されるのがおすすめです。また、弁護士なら、すでに派遣社員や派遣元企業とトラブルが起きてしまっている場合でも、状況に応じて的確な対応をします。

ベリーベスト法律事務所 新宿オフィスでも企業法務に関する相談を受け付けているので、これを機にご相談いただけると幸いです。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています